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レベル1の最弱勇者 ー僕だけレベル1のまま、四人で魔王城の最奥へ挑む物語ー  作者: 直助
第一章 始まりの町

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余白

 水晶の光が、すっと消える。


 台の上に、ただの石みたいな透明が残った。


 


 誰も、少しの間、動かなかった。


 


「……ま、いいだろ」


 


 ヒナタが先に背を向ける。


 


「次だ」


 


 その一言で、空気がほどけた。


 


 

 そのやり取りを、背後から誰かが見ていた。


「……あいつら、また同じ面子か」

「まだあの編成でやってんのかよ」


 

 ひそひそ声。


 隠していない声。


 


「普通、万能四枚だろ」


「だよな」


「前も後ろも回復も、全部一人でやれんのが四人」

「それが一番事故らねぇんだよ」


「特化混ぜるとか、事故るだけじゃん」

「寄せ集めパーティでどこまで行けるんだか」


 

 小さな笑い。


 


 セレネが少しだけ視線を落とす。


 ステラは気にした様子もない。



 ヒナタは振り向きもしない。


「行くぞ」


 それだけ。


 


 四人はギルドを出た。




 石畳を歩く。




 しばらく、誰も喋らなかった。


 


 宿舎の扉を開ける。


 

 ヒナタが椅子にどかっと座る。


 肘を膝に乗せて、少し考える。


「……別に」


「喧嘩買う気はねぇけど」


 一拍。


「今の感じなら」


「もう一段、上いける」


 


「難度、ですか」


 セレネの視線が、無意識に自分の手元に落ちた。


 


「ああ」

 




 ステラが小さく頷く。


「連携は安定しています。問題ありません」


 


 ヒナタは立ち上がる。


「明日は休む」


「整えてから入るぞ」


 


「はい」


 自然に、三人とも頷いた。


 


 次は、少し奥に入る。


 それだけが、静かに決まった。






 朝、目を覚ますと、いい匂いがした。


 湯気と、少し焦げたパンの匂い。


 鍋のふたが、こと、と鳴る音。


 


 部屋の奥を見ると、セレネが台所に立っていた。


 袖をまくって、鍋をかき混ぜている。


 


「あ……おはようございます」


 


 気づいて、小さく笑う。


「起こしちゃいました?」


 


「いえ……」


 


「ようやく落ち着いたので。こういうの、久しぶりで」


 少しだけ、嬉しそうだった。


 


 テーブルに、パンとスープが並ぶ。


 四人分。


 


 ヒナタは無言で座って、黙々と食べる。


 ステラは片手に本を持ったまま、器用にスプーンを動かしている。


 


 いつもより、少しだけ静かな朝。


 嫌な静けさじゃない。


 生活の音だった。


 


 食べ終わると、ヒナタは立ち上がった。


「ちょっと外」


 それだけ言って出ていく。


 


 ステラは机に移動して、本を開いた。


 すでに文字の世界に入っている。


 


 ミドは皿を持ち上げる。


 


「洗いますね」


 


「いいですよ」


 


「でも……一人でやるより、早いですし」


 


 結局、二人で並んで流しに立った。


 

 水の音。


 皿の触れ合う音。


 他愛もない時間。


 


 外に出ると、洗濯物がかごに入っていた。


 


「これ、干しちゃいますね」


 


「あ、ありがとうございます」


 


 二人で並んで布を広げる。


 ぱたん、と布が風をはらむ。


 


 少しだけ、間が空いて。



 セレネがぽつりと聞いた。


「……怖くないんですか」


 


「え?」


 


「戦い、です」


「私は、やっぱりまだ慣れなくて」


 苦笑する。


「毎回、少しだけ怖いんです」


 


 風が吹く。


 洗濯物が揺れる。


 


「ミドくんは」


「どうして、あそこにいるんですか」

 



 責める言い方じゃない。


 ただ、純粋な疑問みたいだった。


 


 少し、考える。



「……たぶん」



 視線を、遠くに向ける。


 


 宿舎の裏。


 ヒナタが剣を振っている音が、かすかに聞こえた。


 


「ずっと、ああいう剣士になりたくて」


 自分でも、少し笑ってしまう。


「それだけは……どうしても、諦めきれないんですよね」


 言ってから、少し恥ずかしくなる。


 子どもみたいだな、と。



 でも。


 嘘じゃなかった。


 


 セレネは、しばらく黙って。


 それから、やわらかく笑った。


「……素敵ですね」


「私は、戦うの苦手なので」


「正直、怖いですし」


「できれば後ろにいたいです」


 小さく肩をすくめる。


 


「でも」



 洗濯物を干し終えて、空を見る。


「必要とされるのも、悪くないなって」


「昨日、ヒナタさんに言われたんです」


「助かったって」


 


 少しだけ、照れた笑い。


 

 ミドは頷く。




「セレネさんの補助、すごいですよ」


「ヒナタさん、明らかに動き軽くなってましたし」


 


「……ほんとですか?」


 


「はい」


 


「たぶん、あれなかったら、もっと削られてました」


 


 セレネは、ほんの少しだけ胸を張った。


「……じゃあ、もう少しだけ頑張れそうです」


 


 洗濯物が、風に揺れる。


 朝の光が、白く反射していた。


 怖いとか。


 諦めきれないとか。


 理由は違うのに。


 それでも、同じ場所に立っている気がした。


 




 宿舎の中は静かだった。


 


 窓際の小さな机。


 ステラが椅子に座り、本を読んでいる。


 紙をめくる音だけが、規則正しく続いている。


 


 ミドは椅子に座った。


「……ステラ」


 


「はい」


 


 視線は本のまま。


 


「前から思ってたんだけど」


「戦闘のとき」


「いつも、相性のいいの当てるよね」


 

 

 ページをめくる手が、止まる。


「効くように当ててるだけです」


 


「それ、簡単じゃないよね」


 


「簡単ですよ」


 あっさり。


「だいたい、偏りがありますから」


 


「偏り?」


 


「流れとか」


「そこに合わせて、術式を置いてるだけです」


 


 淡々と。


 


 いつも通りの声。


 


「……よく分かるね」


 


「見れば分かります」




 即答だった。


 


 少し間。


 


「例外もありますけど」


 


「例外?」


 


「どこにも寄らないもの」


「属性に乗らない術式」


「円環にも、相反にも入らない」


「そこだけ、まだ分かっていません」


 


 

「……そんなのあるんだ」


 


 

 ページが、ぱたりと閉じる。


 


 しばらく沈黙。


 


「……守る魔法ってないの?」


 


「防御系ですか」


「あります」


「ただ」


「受け止めるより、止めるか潰したほうが効率がいいので」


「基本、使いません」


 いかにもステラらしい答えだった。




 また、紙をめくる音だけが部屋に戻った。







 夜



 ヒナタが振る。


 重い一撃。


 


 ミドも、少し離れて剣を振る。


 同じ軌道。


 同じ踏み込み。


 癖まで、似ている。


 ただ。


 刃だけが、軽い。


 当たっても、傷はつかない。


 


 


 ヒナタがちらっと見る。


「……お前さ」


「なんで俺と同じ動きしてんだよ」


 



「見てたら、なんとなく」


 


 

「なんとなくで真似できるか普通」


 鼻で笑う。


「ほんと、センスだけは妙にいいよな」


「まぁ……レベル1じゃ、俺にダメージ通らねぇけどな」


 がは、と笑う。


 


「……ですね」


 


「でも」


 ヒナタが空を見る。


「嫌いじゃねぇ、そういうの」


 


 沈黙。


 


「普通はよ」


「無理だって分かったら、やめんだ」


「弱ぇやつほど、先に諦める」


 地面に剣を突き立てる。


「でもお前、やめねぇだろ」


 


「……はい」




「だったら十分だ」


 


 月明かり。


 


「諦めねぇやつが、最後まで立ってんだよ」


 軽く笑う。


「勇者ってのは、たぶんそういうのだろ」


 それだけ言って、また剣を振り始めた。


 


 


 乾いた音が、夜に溶ける。


 


 


 ミドも、少しだけ剣を握った。



 まだ、届かない。


 

 でも。



 やめる理由は、なかった。


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