壊滅
その奥に。
――立っている。
剣を持つ影。
構えず。
ただ、こちらを見ている。
魔王。
ヒナタは、一歩踏み出した。
――気配が、ない。
敵意も。
殺気も。
圧も。
そこに立っているのに、何も感じない。
(……強いのか?)
判断が、つかない。
だから。
距離を詰める。
一歩。
また一歩。
魔王は、動かない。
間合い。
ヒナタが、踏み込んだ。
速い。
斬撃。
連続。
最後に――
一閃。
――通った。
確かに。
だが。
硬い、わけではない。
防がれた感触もない。
それなのに。
削れていない。
刃が、通っているのに。
何も、失われていない。
今まで、感じたことのない感覚。
ステラが、間を置かず術式を放つ。
閃光。
直撃。
――同じ。
通っている。
だが、減っていない。
魔王は、視線を動かさない。
そして。
剣を、横に振った。
ただ、それだけ。
ヒナタの動き出しが、遅れる。
防御姿勢。
後方へ跳ぶ。
――遅い。
衝撃。
剣越しに、叩きつけられる。
体が、浮く。
同時に。
斬撃と共に、閃光が走る。
ステラの防御壁が、間に合わない。
直撃。
ステラ。
セレネ。
二人の体が、弾かれる。
床を、転がる。
息が詰まる。
立ち上がる。
だが。
すでに、削られている。
半分近く。
魔王は、変わらない。
気配がない。
殺気がない。
ヒナタも。
ステラも。
戦闘を重ねる中で。
その感覚を、研ぎ澄ましすぎていた。
だから。
“何もない”動きに、反応できない。
一瞬。
いや。
それ以上、遅れてしまう。
セレネが、治癒を放つ。
淡い光。
次の瞬間。
魔王が、踏み込んだ。
一閃。
衝撃。
光。
ヒナタの体が、吹き飛ぶ。
防ぎきれない。
床に叩きつけられる。
ステラ。
セレネ。
閃光が、直撃する。
立っている。
だが。
それが、やっとだ。
ヒナタは。
立てない。
床に伏したまま、動かない。
魔王は、止まる。
追わない。
構えない。
そこに、立っているだけ。
――残っているのは。
ミドだけだった。
倒れている。
ヒナタが。
立ってはいるが、動けない。
ステラと、セレネも。
誰も、声を出さない。
時間が、止まったようだった。
ミドは、前に出ない。
走りもしない。
ただ。
足を止めたまま。
逃げる理由は、もうなかった。
そして、初めて。
剣を、抜いた。
音が、静かに響く。




