凪いだ森
まぶたが、重い。
白い光が、にじむ。
ゆっくり、目を開ける。
最初に見えたのは、空だった。
木の隙間から、細い光。
「……」
体を起こそうとして、少しだけ痛む。
「起きたか」
低い声。
少し離れた木にもたれて、ヒナタが座っている。
剣を膝に置いたまま、森の奥を見張っている。
すぐそば。
ミドが、ほっとした顔で覗き込んでいた。
「大丈夫ですか」
横では、ステラがしゃがんでいる。
何もしていない。
ただ、静かにこちらを見ているだけ。
「……問題なさそうですね」
「少し休めば、動けます」
いつも通りの声。
そこでようやく。
記憶が、戻った。
鉄皮熊。
突進。
衝撃。
「……倒れ、ました……?」
「終わった」
ヒナタが短く言う。
それだけで、十分だった。
胸の奥の力が、抜ける。
「……よかった……」
空を見上げたまま、息を吐く。
本当に。
生きている。
しばらく、誰も喋らなかった。
風の音だけ。
「……悪かったな」
ヒナタが、ぽつりと言った。
視線は森のまま。
「見誤った」
「この編成なら余裕だと思ってた」
淡々と。
言い訳のない声。
「完全に、読み違えだ」
少し間。
「……すみません」
セレネが反射的に言う。
「いや」
ヒナタが首を振る。
「俺の判断だ」
それで終わり、という言い方だった。
ステラが、そっと手を下ろす。
「結果的に、生存率は問題ありませんでした」
「データも取れましたし」
「次回は、対応できます」
慰めなのか、本気なのか。
たぶん、両方。
ヒナタが小さく笑う。
「……前向きだな、お前は」
「事実です」
即答。
少しだけ、空気が緩む。
セレネがゆっくり起き上がる。
「……治します」
今度は、逆。
手をかざす。
ヒナタの腕。
擦り傷が、ふっと消える。
ミドの肩。
痛みが抜ける。
最後に、ステラ。
「ありがとうございます」
「いえ……」
小さく笑う。
「戻るか」
ヒナタが立つ。
誰も反対しない。
森を引き返す。
来た道のはずなのに。
来たときより、歩幅が自然に伸びる。
同じ獣が飛び出してくる。
でも。
怖くない。
ヒナタが斬る。
ステラが撃つ。
セレネが支える。
ミドが指示。
短い。
あっけない。
「……さっきより、動けますね」
セレネが小さく言う。
「慣れただけだ」
ヒナタが答える。
たぶん、違う。
でも、誰も訂正しなかった。
木々の隙間。
遠くに、朝の光が見えた。
森の出口だった。




