第12話 一閃、断つ
地面が抉れる。
鉄皮熊の前脚が振り下ろされる。
ヒナタが受ける。
鈍い音。
骨まで響く衝撃。
足が、半歩沈む。
「……っ」
止めている。
だが。
押される。
重い。
今までの魔物と、質が違う。
質量そのものが、ぶつかってくる。
ヒナタの体が、後ろへ弾かれる。
その瞬間。
「――離れて」
ステラ。
足元に術式。
光。
爆ぜる。
衝撃波。
鉄皮熊の巨体が、わずかに浮く。
その隙に。
ヒナタが着地。
踏み込み。
一閃。
火花。
浅い。
刃が、弾かれる。
「……硬ぇ」
舌打ち。
すぐ横。
鉄皮熊の腕が薙ぐ。
速い。
避けきれない。
その瞬間。
薄い光が、ヒナタの前に走る。
防御術式。
衝突。
光が砕ける。
だが。
勢いが、わずかに殺される。
ヒナタが滑りながら受け流す。
「助かる」
「三秒だけ持ちます」
即答。
ステラの手が、止まらない。
詠唱。
次の術式。
雷光が走る。
鉄皮熊の脚に直撃。
肉が焦げる。
匂い。
――それでも。
倒れない。
止まらない。
踏み込んでくる。
「……削れてはいます」
「ですが、時間がかかりすぎます」
「見りゃ分かる」
ヒナタが笑う。
余裕の笑いじゃない。
歯を剥き出した、戦闘の顔。
斬る。
弾かれる。
ステラが撃つ。
焦がす。
体勢が崩れる。
そこにヒナタ。
また斬る。
ほんの少しだけ、血。
だが。
ほんの少しだけ。
積み重ねないと、届かない。
確実に、削り切れない。
ヒナタの額に、汗が滲む。
(……この感じ)
このランクの魔物は、何度もやった。
だが。
(こんな重さじゃねぇ)
想定より、一段。
いや。
二段、上。
(今の編成だと……長引く)
舌打ち。
鉄皮熊が、再び踏み込んだ。
地面が割れる。
戦闘は、まだ続く。
――その頃。
ミドは、セレネの腕を肩に回していた。
「……大丈夫ですか…」
反応はない。
体が、ぐったりしている。
思ったより、運びにくい。
引きずるみたいに、後退する。
枝が足に絡む。
転びそうになる。
それでも、止まらない。
後ろで。
爆発音。
金属音。
ヒナタの声。
ステラの詠唱。
全部、聞こえる。
遠くなっていく。
「……セレネを、避難させろ」
あの声。
短い。
迷いのない命令。
――セレネだけ。
ヒナタは、二人で持ち堪えるつもりだ。
自分が戻る前提で。
足が速くなる。
セレネを木陰に横たえる。
呼吸。
ある。
大丈夫。
顔を上げる。
戦闘音。
まだ続いている。
鉄皮熊の動き。
ヒナタの踏み込み。
ステラの術式。
頭の中で、勝手に再生される。
(……削れてない)
(何か、おかしい)
喉の奥が、少しだけ乾いた。
まだ。
自分は、戦力だ。
戻らないと。
森の奥で、また爆発音が鳴った。
ミドは、走った。
音が、近づく。
視界の先。
ヒナタが弾かれた。
木を削りながら、横へ流れる。
すぐ立つ。
踏み込む。
斬る。
火花。
浅い。
ステラの魔法が炸裂する。
爆音。
閃光。
それでも。
止まらない。
鉄皮熊が突っ込む。
低い姿勢。
地面を抉りながら。
ヒナタが受ける。
押される。
重い。
土が、ずるずると後ろへ滑る。
また突進。
同じ。
低いまま。
立たない。
近い。
それでも、起き上がらない。
目が、止まる。
突進。
体が、浮いた。
一瞬だけ。
影が、開く。
ミドの喉が、勝手に動いた。
「ヒナタ!!」
「下!!」
ヒナタの目が、わずかに細くなる。
理解。
同時。
「ステラ!!」
地面が、爆ぜた。
術式。
鉄皮熊の足元が隆起する。
巨体が、持ち上がる。
腹の影が、開いた。
ヒナタが踏み込む。
一直線。
水平。
一閃。
深い。
初めて。
刃が、沈んだ。
肉を断つ感触。
血が、飛ぶ。
鉄皮熊が、絶叫した。
森が揺れた。
確かに。
今。
届いた。




