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レベル1の最弱勇者 ー僕だけレベル1のまま、四人で魔王城の最奥へ挑む物語ー  作者: 直助
第一章 始まりの町

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森の奥

 朝のギルドは、もう人が多かった。


 革の匂い。

 木の床の軋む音。

 依頼票の紙がめくられる音。


 いつも通りのざわめき。


 


 掲示板の前で、ヒナタが一枚、紙を剥がした。


 


 森の奥地。

 鉄皮熊てっぴぐまの討伐。

 報酬、高め。


 


「これだな」


 


「奥、ですね」


 セレネが少し声を落とす。


 


 ヒナタは肩をすくめる。


「このくらいの奥なら何回もやってる」


 


 受付へ向かう。


 依頼票を置く。


 


 受付が目を通して――少しだけ眉を寄せた。


 


「すみません」

「こちら、推奨平均レベルが六十五以上になります」


「現在のパーティですと……条件を満たしていません」


 


 ヒナタの眉がぴくっと動く。


「は?」


 



「危険度が一段上がる区域ですので」


「規定上、平均レベル未達のパーティは――」


 



「大丈夫だっつってんだろ」


 声が低くなる。


「問題ねぇ」


「行かせろ」


 


 空気が少しだけ張る。


 受付が困った顔をする。


 


 その横で、ステラが一歩前に出た。


「計算が違います」


 静かな声。


 


「……はい?」


 


「測定不能を平均に含めていますよね」


「ですが、未測定も数値として扱わないと――」


「値が無いものを平均に入れるのは、計算としておかしいです」


「三人の実測値のみで再計算してください」


「条件は満たしています」


 


 受付が慌てて紙に数字を書く。


 


 少し沈黙。


 


「あ……」


「……はい、三名平均で六十五を超えています」


 


 ヒナタが鼻で笑う。


「だろ」


 


「……失礼しました。受理します」


 依頼票に印が押される。


 


 背後から、声。


「おいマジかよ」

「鉄皮熊だぞ?」

「あいつらで行くのか」

「事故っても知らねーぞ」


 笑い声。


 

 セレネが少しだけ視線を伏せる。


 ステラは気にしない。



 ヒナタは振り返りもしない。


「行くぞ」


 それだけ。


 


 四人はギルドを出た。


 

 朝の光が、石畳を白く照らしていた。


 

 少しだけ、いつもより奥へ。


 

 ただ、それだけだった。







 森に入ると、すぐに光が薄くなった。


 

 葉が重なって、空が細く切り取られる。


 湿った土の匂い。


 踏みしめるたび、靴が沈む。


 


「この辺はいつも通りだ」


 ヒナタが前を歩く。


 


 気配。


 


 左。


 


「来ます」


 ステラの声。


 


 茂みが揺れ、獣が飛び出す。


 


「右、もう一体」



 ヒナタが踏み込む。


 一閃。


 

 終わり。


 


 セレネの補助が重なる。


 動きが軽い。


 


 短い戦闘。


 


 また一体。


 同じように、終わった。

 


 


「……この辺りなら、まだ大丈夫そうですね」


 セレネが小さく言う。


 


「まだ入口だ」


 ヒナタは止まらない。


 


 

 さらに奥へ。


 

 


 木が太くなる。


 下草が減る。


 音が、少しずつ減っていく。


 さっきまで聞こえていた鳥の声が、ない。




 風も、弱い。


 

 代わりに。



 匂いが変わった。


 


 土じゃない。


 


 獣の匂い。


 


 ヒナタの足が、少しだけゆっくりになる。


 


「……空気、違いますね」


 セレネが小さく言う。


 


 返事はない。


 

 また気配。



 飛び出してきた獣を見て、ミドは一瞬、違和感を覚えた。


 ――大きい。


 同じ種類のはずなのに。


 骨格が太い。


 


 ヒナタの剣が当たる。



 鈍い音。


 いつもの軽さが、ない。


 

 少しだけ、止まった。


 

 今までみたいに、軽く落ちない。


 

「……硬ぇな」



 もう一撃。


 

 今度は倒れる。



 でも。


 

 ほんの少しだけ、時間がかかった。


 

 誰も言葉にしない。



 ただ。


 奥へ進むほど。


 森の色が濃くなっていく気がした。


 

 光が届かない。


 音がない。


 気配だけが、増えていく。


 


 ヒナタが、ぽつりと呟く。


「……来てんな」


 

 その一言だけが、やけに重く残った。


 


 もう、入口の森じゃなかった。

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