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115話 決戦前夜

 「ショウー。朝だよ。」


うん、この穏やかな目覚め方はいつぶりだろうか。


「今起きた。」


軽く部屋の入り口に向かって返事をした。


「どうする?」


「なにを?」


俺はベッドのそばに置いておいた明星を手に取り、ドアを開けた。


「おはよ、ファニア。」


「おはよ。みんなと一緒に持ち場に行くの?」


“持ち場”というのは一週間後にある魔族の襲撃に対する迎撃位置のことだ。


昨日の終わり際に全員で話し合って決めた。


「みんなと一緒に行かない、となると今すぐに出発しないといけないと思うんだが。」


「まぁ、テイリアスがいるからウォテシィまでは一瞬だけど、一日に50km進むとしてもそこからまたさらに3日くらい歩かないといけないだろうね。」


「防衛戦の前にそんな悠長なことできるか?」


とりあえず俺は腹が痛い。


そんなことを考えるからだ。


「まぁ、うちのパーティーメンバーみんな狂ってるし、もちろんいい意味で。」


「後付け感が半端ないな。」


「実際狂ってるでしょ。」


「否定はできない。」


「でしょ?」


「あぁ。それで?他のその狂ってるパーティーメンバーはどこに行った?」


「みんな王都の街が見たいって言って出かけて行っちゃった。」


「ハナから行くきねぇじゃねぇか。」


「まぁ、もしショウが行くって言ったら、私の念話で呼ぶつもりだったから。」


「なんとも便利なスキルなことで。」


「そんなにすねなくてもいいじゃん。」


「すねてないが?」


「まぁ、私は宿に居ようと思うけど、ショウもどこか行こうと思ってるんだったら早めに準備しておきなよー。」


「はいよ。」


そんな気全くないけど。


出かけるなんて気分じゃありませんよ。


なんで出かけられるんだ?


メンタルトレーニングが足りていないのか?


「そんなことはない。」


俺は勝手につぶやいた。


防衛戦まであと6日。




 防衛戦が3日後に迫ったからと言って何か特別なことをやるわけでもない俺たちのパーティーが、

今日はいつもと違うことをしていた。


「さてと、こんなところだろう。」


マドリフさんがパーティー全員の武器をメンテナンスしてくれた。


それもタダで。


「ほんとに金出さなくていいのか?」


「もちろんだ。お代はこの国の平和ってところにしておくよ。」


言われた瞬間ドキッとした。


3日後の魔族襲来は王都近衛騎士団たちと各種族の長しか知らされていないはずだからだ。


だが、俺のパーティーメンバーがそんなことで動揺を見せるような人間ではないことは分かっている。


「はーい、じゃあ毎日払ってるねー。」


ニルティアが酷翼の刀身を見ながら言った。


「そうかい、ありがとな。」


マドリフさんは笑顔で言った。


「また来てくれよ。」


そういわれながら店を出た。




王都の宿屋には俺たちのために特別に用意された部屋がある。


俺たち、といえば少し語弊があるな。


防衛戦に参加する者たちに用意された、の方が正しく伝わるだろう。


「ピンセ、今日も元気か?」


「あぁ、もちろん。でもちょっと水が恋しいな。」


魚人族の性だな。


「明日にはウォテシィまでとんでそこから移動だろ?んで持ち場に着く、と。

長くなりそうだねー。」


「そうだな。」


「生きて帰るんだぞー。」


「ピンセもな。」


「はいよー。」


なんともつかみどころのない魚人だ。


何を考えているのか全く分からない。


さて、この胸の奥底にある拭いきれない恐怖心は一体何に対してのものなんだ?


俺はずっと分からないまま今日まで来た。


「ショウ、夜ご飯食べに行こ。」


テイリアスに言われて俺は我に返った。


「あぁ、行こう。」


その日は久しぶりにみんなでベクチズを食べた。




 「着いた。」


視界の中にあるのは青色のみ。空も青ければ地も青い。


まぁ、海を『地』と書いたのは少しおかしいか。


『出発』の号令がかかってからまだ半日と少ししか経っていないが、

俺たちはもう持ち場に居た。


「特殊師団の馬車の速さって、やっぱりおかしいよね。」


ニルティアが一番驚いていた。


なんだかんだで王都近衛騎士団第一から第四師団は王都に残ることになった。


もちろん、第二師団以降の師団が各地に散らばっている。


「当たりの索敵を怠るな。」


シャルの鋭い声が場に響いた。


俺は腰にさしてある明星を見た。


マドリフさんにメンテしてもらってからまだ一回モノを斬っていない。


つまり切れ味は最高。


マリガルドは優雅に崖から足を出して海風に当たっている。


「ショウ、先に言っておくけど。」


テイリアスが耳打ちしてきた。


「魔族はたぶんいくつかの分隊に分かれて行動する。」


「そうなのか?」


「ウォテシィを制圧したときはそうだった。」


「なら、今回もそれで来るかもしれないな。魔族は人類の領地へ侵略するための足がかりを必要としている。

制圧されたばかりのウォテシィは、奪還には最適な標的だろうからな。」


「だから、必ずここからくる。」


「言い切れるのか?」


「正直、本当かはわからないけど何回か聞いたことがあるの。

海の向こうには魔族の国がある、って。」


え?


俺の疑問は声にならなかった。


ただ、俺の動揺はテイリアスに伝わったようだった。


「噂だけどね。ここまで信ぴょう性が高くなるとは思わなかった。」


「いつか、攻めに行かないといけないかもな。」


「そのときは全力で潰すのみだね。」






 【今まで戦ってきた敵が敵の本軍だと思うな】

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