第12話【VR?】ホームセンター[園芸コーナーの戦い]
ホームセンター1階の園芸コーナー。
そこはBGMとゾンビどものうめき声で満たされていた。
整列されていた商品棚は倒され商品が床に散らばっている。
プランターに植えられた草花が血で赤く染まり、ゾンビどもが徘徊する場所となっていたのだ。
そんな誰もが凄惨な現場だったと想像できる園芸コーナーに可愛らしい声が響き渡る。
「遅いのじゃ!」
口を開けて声の主に襲い掛かってくる男性ゾンビ。
掴もうとしてくる男性ゾンビの手を見えない力で払いのけて懐に入り込むと、声の主――クリスはその顎に掌底を叩き込んだ。
すると男性ゾンビの頭部を下から上へと衝撃が貫く。
同時に、クリスの生命エネルギー――気――と呼ばれる力が男性ゾンビの脳みそを滅茶苦茶にする。
男性ゾンビは隕晶の保存器官である脳が破壊されて行動不能となった。
園芸コーナーを制圧したクリスは一息ついた。
「体力を消耗するのが難点じゃが、気功術スキルは使い勝手が良いのう」
前の戦闘ではその身に秘められた生命エネルギーを上手に扱えず、女声店員ゾンビを爆発四散させてしまった。
器用度の数値を上げたおかげで、威力の調整がしやすくなり衝撃の伝播と生命エネルギーに方向性を持たせれるようになったのだ。
気功術スキルは、生命エネルギーを全身に巡らせることで身体能力が向上し、スキルレベルごとに設定されている各気功を使用することで幅広い場面で役立つ。
クリスが取得した気功術気功術Lv2だと、送り込んだ生命エネルギーで対象を内側から破壊する侵透気功と、耐久力を一時的に上げる硬気功が使えた。
この気功術スキルだが、デメリットが1つだけあった。
その唯一のデメリットは、生命エネルギーを扱うたびにクリスの体力が消耗していく事だった。
つまり常人なら体力が持たず、連続使用を躊躇するスキルなのだ。
しかしクリスの場合は課金ブーストされたステータスがある。それに器用度を上げたことでスキル習熟度が上昇し、気功術スキルで減る体力を小数点以下に抑えてくれるのだ。
しかも回復術スキルでいざという時に体力の回復も可能なので、実際の命の危険は無いに等しかった。
「ステータスとスキルがうまくかみ合ってて良かったのじゃ」
・コメント欄
名無し1 :撲殺ロリババアのクリスちゃん誕生!!
モノヅキ :課金してなかったら地雷スキルでしたね
「そうじゃな。取得したスキルが使いこなせるようになる仕様で良かったのじゃ。もし使用可能になるだけだったら、いちいち使い方を頭と体に覚え込ませないといかんからの」
女性店員ゾンビと戦った時に体感して理解したことだが、スキルを取得すると何ができるのか本能的に分かる様になる。
そして最初からそのスキルを使いこなせていたかのように脳と体がアップデートされているのだ。
いかにもゲーム的なスキルの仕様である。
だがそれがクリスを助けた。
もしスキルの使い方を覚えていかないといけなかったら、お爺ちゃんであるクリスは最初の戦闘で女性店員ゾンビに喰い殺されていただろう。
「お見事です、救世主」
・コメント欄
名無し1 :鮮やかな勝利やん
名無し2 :防御無視攻撃とか強すぎwww
「それほどでもないのじゃ。この攻撃が効きづらい相手もいるだろうし、重心移動がワンテンポ遅れていたりと微修正すべき点はまだあるのじゃ」
クリスはナビの発言と視聴者たちのコメントに謙遜する。
耐久力が高い相手だと侵透気功が効きづらいという情報を、気功術スキルを取得した時に知識として得ていた。
それに体術スキルで戦闘時も含めて体の動かし方がなんとなく分かるが、まだ理想の動きになっていないとも理解していた。
「スキルレベルやステータスが上がれば、そういった問題も解決するでしょう」
「そうじゃな。まだ始まったばかりじゃし、そう気にすることでもないかのう」
クリスとナビが話していると木製のフェンスを持った3人の少女たちが近づいてきた。
彼女たちの容姿は非常に似通っていて、初対面だと一卵性の三つ子だと思われだろうが実は違う。
ナビと同じく場違いなメイド服を着た彼女たちこそ、クリスが生成したバイオロイドたちだった。
ちなみに彼女たちのメイド服は、クリスがこのために取得した裁縫スキルで作ったものだ。
更に付け加えると、メイド服を選んだのはナビと視聴者たちの多数決によるものだと明記しておく。
クリスとしては、彼女たちが裸のままだと配信に差し支えるので仕方ない出費だと受け入れていた。
3人分のメイド服を作るために隕晶2個と凝血隕晶1個を消費したので、これで初戦闘で得た隕晶は全て使い尽くしてしまったことになる。
とはいえ園芸コーナーで大量の隕晶を得たので、今現在の収支は黒字となっている。
「……ご主人様」
それぞれ生成した順にクリスから1号、2号、3号と名付けられたバイオロイド少女たち。
バイオロイドゆえか無表情で話す彼女たちの無事に安堵する。
「1号たちもその様子だと無事なようじゃな。ワシの代わりにナビを守ってくれて助かったのじゃ」
「何度か手を嚙まれましたが、ご主人様の指示でつけたグローブのおかげで無事でした」
主人であるクリスの褒め言葉にも感情を見せずに対応する1号たち。
・コメント欄
鬼苺 :俺らの助言のおかげだな
モノヅキ :戦闘終了お疲れ様です
「皆お疲れ様だったのじゃ!」
クリスはこの短時間に起こったことを振り返った。
女子トイレ前から移動を開始したクリスたちは、一番近かった園芸コーナーに向かった。
その時にゾンビが人間が発する音や臭いにどれだけ敏感なのか嫌でも分からされた。
人の息遣いや足音に気付いた付近のゾンビどもが新鮮な肉を喰らおうと、クリスたちの方に集まってきたのだ。
園芸コーナーに着いた頃には既に囲まれていて逃げ場もなかったほどだ。
明らかに天井のスピーカーから流れるBGMの方が音が大きいのに、そんなのお構いなしにクリスったちを襲おうとしてくるゾンビども。
クリスは園芸コーナーに元から居たゾンビ数体をすぐに排除すると、視聴者たちの助言もあって1号たちにナビを中心とした簡易防御陣を作らせた。
防御陣と言っても時間も知恵も足りないので心もとない代物だ。
園芸コーナーにあったバラの棘が刺さらない耐穿刺性のガーデングローブをつけさせると、ラティスフェンスという大きめの木製の柵を1号たちに持たせた。
そして壁際に立たせたナビを守るように、前方と左右の3方向からゾンビの襲撃に備えたのだ。
そんな防御陣とは名ばかりの張り子の陣地の外で、クリスは襲ってくるゾンビを倒していった。
何体かナビたちの方に向かったゾンビもいたが、1号たちの壁を破れたゾンビはいなかった。
おかげでカバーが間に合い、襲って来た全てのゾンビどもを倒し切ることができた。
「ざっと数えて30体ほどいたようじゃな」
気配感知スキルで付近にゾンビが居ないことを確認したクリスは、ついでに倒したゾンビの数を数えた。
・コメント欄
名無し2 :ヒヤリとした場面もあったけど無事でよかった~
鬼苺 :美少女が傷つくところは見たくないからな
モノヅキ :バイオロイドが意外と強かったですね
名無し1 :それを言ったらナビさんの支援もありがたいだろ
バイオロイドの肉体は人間と同じ作りだが、機械並みの遂行能力に迷いのない判断力と途切れない集中力を持っていた。
しかもクリスという基礎となった生体遺伝情報のおかげで、見た目はコスプレした女子高生だがオリンピック選手と以上の身体能力を秘めていた。
成人男性のゾンビだろうが押し返す力があり、ゾンビを目の前にしても冷静に対処する1号たちは優秀な人材だった。
そして防御陣の中心に居たナビの後方支援能力は、戦闘に集中するクリスの助けとなるものだった。
「付近のゾンビを全て倒したから、ここはしばらく安全じゃろう。ワシは他の場所を探索しつつゾンビを全滅させるのじゃ」
「それでは当方たちはこの園芸コーナーを中心にバリケードを作り、救世主の帰還をお待ちしております」
ナビが1号たちに視線を送ると彼女たちは無言で頷き、商品棚を両手で持ち上げてバリケードを作り始めた。
これがナビが持つ以心伝心スキルの効果である。
ナビが味方と認めた相手限定だが、距離に関係なく口を使わない会話が可能になる。
気配感知スキルでナビたちの居場所は分かっても、クリス側からはその時の状況は分からない。
以心伝心スキルでナビが常に周囲の状況を知らせてくれたので、戦闘中でも後方の安全をあまり気にせず戦うことが出来たのだ。
「うむ。何かあればすぐにワシを呼び出して欲しいのじゃ」
(了解しました)
クリスが声を掛けると、頭の中からナビの声がした。
(救世主が課金した『瞬間自動蘇生』は拠点に死に戻りする仕様になっていますが、現在は拠点登録がなされていません。この園芸コーナーを仮登録としておきますので、もしもの時があれば死に戻りすれば一瞬で戻ってこれるようにしておきます)
「おぉ、それは助かるのじゃ!」
・コメント欄
名無し2 :いつも一言少ないナビさんが出来る女みたいだ……
名無し1 :成長したんだなぁ
「ちっ」
わざわざ声に出して舌打ちするナビと、そんな彼女の反応にもいちいち沸き立つ視聴者たち。
そんな彼らの様子に少し不安になりつつも、クリスはホームセンターの探索を本格的に始めるのだった。




