第11話【VR?】バイオロイド=人造人間
「な、なぜなんじゃ?」
クリスは上ずった声でナビに詰め寄った。
それだけ『拠点要塞化(進化可能)』と『拠点絶対防御バリア』があれば挽回できると思っていたからこその反応だった。
焦りを滲ませたクリスとは裏腹に、ナビは淡々とした口調で丁寧に説明する。
「その2つの課金を使用するには、2つの条件を満たさなければなりません」
「2つの条件かの?」
「はい、1つ目は拠点範囲を決める事。2つ目は拠点内が安全である事です。この内、1つ目の条件は今すぐに決めていただければ良いですが、2つ目の条件である拠点内の安全が満たされていません」
・コメント欄
鬼苺 :そういえばゾンビがいるもんな
名無し1 :たぶんまだホームセンター内にうじゃうじゃ居るだろ
クリスはコメント欄を見て納得した。
「つまりホームセンター内のゾンビを全て排除しなければいけないんじゃな」
クリスのその答えにナビは良い笑顔で頷いた。
「その通りです」
「……やっぱりホームセンターを拠点にするのは諦めるかのう」
・コメント欄
名無し2 :おっ、日和ったな
鬼苺 :クリスちゃん前言撤回するの早すぎwww
モノヅキ :最初の大仕事がホームセンター内のゾンビの排除ですからね
名無し1 :けどゾンビの数にもよるだろ
視聴者たちのコメント欄を認識しているナビが更なる爆弾を落とす。
「ちなみにこの世界は救世主の世界と時間がリンクしていますから、今日はゴールデンウイーク2日目となります」
一年に一度の大型連休。
その2日目となれば地方都市といえど来客数が少ないなんてことはあり得ない。
しかもここは大型ホームセンターなのだ。
ホームセンターを核とする大型商業施設で様々な店舗が入っている。
ショッピングモールとしても利用されているようで、店内は買い物客で賑わっていたはずだ。
そんな所でゾンビパンデミックが一斉に始まったらどうなるか。
「厄介な話じゃな」
今更ゾンビ相手に苦戦するとは思わないクリスだったが、ナビの言葉を聞いて前言撤回もやむなしかもしれんと思った。
「ですが『拠点要塞化(進化可能)』と『拠点絶対防御バリア』を使用すれば、今後の拠点内の安全性は確約されます」
ナビが言うには、要塞化による自動迎撃システムと絶対防御バリアでゾンビの侵入は不可能どころか近づくのも難しくなるらしい。
そして隕晶を消費することで要塞を進化させれて、その度に防衛力が高まり拠点範囲の再設定ができるそうだ。
しかも拠点内は要塞保全システムが働き、拠点内の電気や水道といったインフラは尽きることがないとの事だ。
・コメント欄
名無し2 :イージーモードやん
名無し1 :拠点内限定だけどな
モノヅキ :まずは安全な拠点を作らないとですね
「そうじゃな。しかし上げて落とすとはナビさんも人が悪いのう。諦める理由がなくなったのじゃ」
クリスはナビの話を最後まで聞き、ここで逃げるよりホームセンターを拠点にした方が得だと理解させられた。
ゾンビが蔓延るようになったこの世界はこれから荒廃していくのが決定づけられている。
ならばできるだけ早い内に、綺麗な状態で拠点を作った方がいいに決まっている。
「お褒めの言葉をいただきありがとうございます。救世主」
「うむ。それじゃあホームセンターのゾンビどもを全滅してやろうかの!」
やる気を漲らせたクリスは一歩踏み出して、すぐにまた足を戻した。
「救世主? どうかなさいましたか」
「いや、このままワシ一人でナビさんを守りながら戦うのは大変だから戦力を補充しようと思っての」
・コメント欄
鬼苺 :戦力の補充?
名無し2 :またスキルかステータスでも増やすの?
クリスの発言に視聴者たちから疑問の声が上がる。
「それもいいかもしれんが、今回は質より量を増やすんじゃよ。ナビさん。『バイオロイド生成システム』の使い方を教えてくれんかのう」
人手が欲しい時に使えると思って課金した『バイオロイド生成システム』。
クリスは先の2つの課金の件もあったので、念のためナビに使用可能かどうか確認した。
「『バイオロイド生成システム』は問題なく使用できます。使用するにはバイオロイド生成システムと念じてみて下さい」
「そこはステータスを表示するのと同じなんじゃな」
バイオロイド生成システムと念じると、クリスの目の前に白い人型が現れた。
それはログイン空間でアバター設定する時に見た自身の仮の姿に似ていた。
「それに基礎となる生体遺伝情報を先に植え付けた後、別の生体遺伝情報か非生物を素材として掛け合わせれば、救世主に忠実なバイオロイドを生成することが出来ます」
「それは凄い。それで生成できる数に限りはあるかの?」
「作ろうと思えば無数に生成可能です。ただしバイオロイドは人間と同じく飲食の必要や疲れもしますので注意してください」
・コメント欄
名無し1 :バイオロイドってなんぞ?
鬼苺 :クリスちゃんに対して不満が溜まれば反乱されるかも?
名無し2 :このゲームだとそういった可能性もありそうだな
モノヅキ :バイオロイドは人造人間って思っとけばOKですよ
名無し1 :サンクス
「ワシもサンクスなのじゃ」
・コメント欄
名無し2:クリスちゃんもかよw
鬼苺:草
実はバイオロイドが何なのかよく分かっていなかったクリスである。
アンドロイドと似た存在っぽいことしか分からなかったお爺ちゃんだった。
そんなクリスたちのやり取りを待ってくれたナビがバイオロイドの生成の仕方を教えてくれる。
「まずは基礎となる生体遺伝情報をその人型に植え付けて下さい。ちなみに強い個体の生体遺伝情報ほど、バイオロイドも強力なものになります」
「それはワシのでも大丈夫なんじゃよな?」
「もちろんです。その人型のどの箇所でもいいので、少量の生体遺伝情報を植え付けて下さい」
クリスは目の前の白い人型に自分の血を与えよう――と思ったがお爺ちゃんは痛い思いをするのは嫌だった。
そこでクリスは口内に唾液を溜めると白い人型の腕を取り、その上に舌を突き出して唾をたらりと垂らした。
・コメント欄
名無し2 :ヤバい。何かに目覚めそう
モノヅキ :通報しました
鬼苺 :お巡りさんこいつです
名無し1 :ガン見中
視聴者たちのお馬鹿なコメントを見ていると、腕に付着した唾が白い人型の体内に取り込まれいった。
「あとは別の生体遺伝情報か非生物が必要なんじゃよな」
そう言ってクリスは後ろを振り返る。
その先には血と臓物で汚れた女子トイレがあった。
・コメント欄
モノヅキ :まさか……
名無し2 :おぉ、素材の山やん
「そうじゃの。あのゾンビだった物を有効活用すればいいじゃろ。ナビさんに一応確認なんじゃが、ゾンビだった者の生体遺伝情報をバイオロイドに加えても大丈夫かのう」
「ゾンビウイルスで変異してしまった生体遺伝情報なので、通常の場合は生成したバイオロイドはすぐにゾンビ化してしまいます」
「だったら……」
「ですが『ゾンビウイルス完全適合体質』の救世主の生体遺伝情報が基礎となっているので問題ありません」
ここでも大活躍する『ゾンビウイルス完全適合体質』。
もしこの体質が無かったら生存者が見つかるまでバイオロイドの生成が出来なかったのじゃと、安堵するクリスだった。
クリスは女性店員だったゾンビの肉片をつまんで白い人型に取り込ませた。
するとクリスのアバター設定をした時の様に白い人型が粘土細工の様に歪みだした。
体全体が伸縮を繰り返し、体のパーツが足先から順に作られていく。
アバター設定した時と同様の光景に固唾をのんで待っていると、クリスはある事に気付いた。
「ふ、服が……!?」
あの時は服装も自動で生成されていたが、『バイオロイド生成システム』では服の生成はされていなかった。
ほっそりとした女性的な脚線美が形作られていき、太ももが生成されだしても未だに素肌を晒したままだった。
生成済みの産毛すら見当たらない脚は、どう見ても女性のものである。
これはヤバいとクリスは焦った。
このままでは放送事故になると瞬時に判断。
その後は電光石火の動きだった。
常人の3倍はある敏捷力のステータスをフル活用する。
クリスは着ていた白エプロンを素早く脱いだ。
そして見逃さんとばかりに生成途中のバイオロイドに近づいていた配信用の球体型カメラに白エプロンを被せた。
その間、わずか1秒。
もう少しで鼠径部が作られるという、放送中止ギリギリの瞬間だった。
・コメント欄
鬼苺 :あれ!?
名無し1 :なんも見えんぞ!
名無し2 :サービスシーンはどこぞ!?
モノヅキ :ナイスタイミングですねぇ
「すまんの。リアルなグラフィックじゃから余計に見せられんのじゃ」
きわどいシーンを防いだクリスが生成されたバイオロイドを見る。
そこにはクリスより年上――15歳ほどの少女が裸で立っていて、その閉じていた目を開けたところだった。