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 急いで支度をし、フィリップ様とともに王宮の裏門へと向かう。

 捕らえたダン殿下や第二王子派の人間を乗せる馬車は、通常のものとは違い、内側からは脱出できないよう特殊な作りの馬車となる。できるだけ人目を避けて出発できるよう、普段は使われない裏門から出発するのだ。


 裏門へと着くと、そこにはもういくつもの馬車が到着しているようで、御者や騎士、従者の人など、それぞれが確認作業を進めているようだった。ジェイク様もすでに到着しており、フィリップ様の姿を見つけるとすぐにこちらに駆けよってくる。


「フィリップ殿下、レイシア様お待ちしておりました。一先ず特別輸送者はもうすでに馬車に収容しております。セルジオ第一王子殿下たちは、今謁見室で陛下にご挨拶をしているようです。」

「わかった。セルジオ殿下らの準備が済むまで待とう。」


 そう伝えると、ジェイク様はまた持ち場に戻っていく。王太子殿下直属の従者というのはやはり忙しそうだ。



「やあ、フィリップ、レイシア嬢!」

 ジェイク様が去っていくのを見送っていると、後ろから声が掛かる。振り向けば、シャーリー公爵様がこちらに歩いてきた。


「叔父上。こちらに来る予定はなかったのでは?」

「たまたま別件で陛下とお会いしていてね。謁見に来たサハラ国の使者の方たちとも少し話をしたところだから、そのまま見送りもしようと思ってこちらに来たんだ。陛下との話はもう終わったから、あとは最後に宰相殿と条約の確認をして、彼らもこちらに来るはずだよ。」

 以前会った時と変わらない、穏やかな雰囲気の紳士だ。


「ありがとうございます。しかし叔父上が伝令役の真似事のようなことをしなくとも……」

「正式なものは本物の伝令役から通達が来るはずさ。同じところに来るんだ。君には私から伝えたっていいだろう。」

 訝しげな顔をするフィリップ様を、気にする様子もなくそう答える。


「レイシア嬢。体の具合はいかがかな?」

 公爵様が急にこちらを向き、少し音量を下げた声で私に声を掛けてきた。


「シャーリー公爵閣下。お気遣いいただきありがとうございます。体は何ともありません。とても元気ですわ。」


「それは良かった。レイシア嬢とは一度じっくり話をしたかったんだけどね。なかなかそんな機会が来なくて。」

 そう言って公爵様は笑顔で話を続ける。


「ほら、今度王都でも新しい教育機関を発足させる計画があるでしょ。あれは元々レイシア嬢の領地の施策を元にしたものだと聞いたからね。レイシア嬢にも話を聞きたかったんだ。僕はあの事業の責任者でもあるから。」


「あの事業は公爵閣下が責任者でいらっしゃるのですね!私も領地のことは途中までしか携われていないので、ずっとそのことが気になっていたのですが……。」

 王都でも同じような事業が動いていると聞き、どういったものが出来るのか具体的に知りたいと思っていたのだ。王都での案で目新しいものがあれば、それを領地でも生かせるかもしれない。


「侯爵領の計画案だけ見ても、相当練ってあって素晴らしいなと思っていたよ。レイシア嬢には、現地もぜひ見てもらって意見を聞きたかったんだ。どうかな?落ち着いたら一度、使用予定の建物を視察に来ないかい?」

 公爵様の申し出は願ってもないことだ。


 話によれば、今は必要な物資を徐々に揃えている最中らしい。建物を改築する必要があれば、その工事も同時に進めるそうだ。少しずつ形になっていく現場を実際見ることができたらどれほど良いか。


「ぜひお願い致します!」

「よかったよ。じゃあレイシア嬢の空いている日程で……」


「待ってください。」

 話が盛り上がっていると、そこにフィリップ様のストップが入る。


「レイシアが王宮を出るときは私も必ずついていきます。私とレイシアの日程を確認して、また叔父上の従者に伝えます。」


「でも君は他の事業の予定も詰まっているだろう。これ以上忙しくしなくても……」

「ダメです。必ず私もいっしょに行きます。いいだろう、レイシア?」

 そうにこやかに聞かれると、こちらとしては断れない。


「公爵閣下。申し訳ありませんが、フィリップ様と相談の上、またお話させていただきます。」

 いろいろ騒動を起こしている身としては、フィリップ様の心の安定を一番に考えたい。


「わかったよ。まったくフィリップにも困ったものだね。」

 公爵様は呆れた様子だったが、こちらの希望をすんなりと受け入れてくれた。




 周りが少し騒がしくなり、後方から少数の人だかりがこちらに向かってくるのが見える。


「どうやらサハラ国の方々もこちらに到着したようだね。私はもう一度挨拶に行ってくるよ。フィリップもレイシア嬢もまた後日ね。」

 そう言って去ろうとする公爵様に、フィリップ様とともに礼を取る。ふと顔を上げるため目線だけを上に向けると、公爵様の横顔が見えた。


 その表情が蔑んだ目でこちらを睨んでいるようで、一瞬目を見張る。


 しかし顔を上げてもう一度見ると、こちらを振り向いて手を振る公爵様の表情は、いつもと変わらず穏やかだ。


(見間違いかしら……)



「レイシア、我々も移動しよう。」

「はい。」

 フィリップ様の声に我に返り、私たちも人だかりのほうへ向かおうと歩き出す。


 すると、すぐにジェイク様に呼び止められる。


「フィリップ殿下!申し訳ありませんが、急ぎ特別輸送者の馬車のほうに。」

「何が起こった?」


 殿下の耳元でジェイク様が答える。どうやら馬車で何か問題が起こったらしい。


「すぐ行く。レイシアも……いや、レイシアはここで待っていてくれ。近衛をつける。」

 殿下が合図するとすぐさま近衛が後ろにつく。前回のこともあり、3人も後ろに並んでいる。


「ここでお待ちしております。」

「必ず私の目の届くところにいるように。」

 殿下はそう念押しして、ジェイク様とともに馬車へと向かっていった。


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