立つ鳥、なるべく跡を濁さず
獣舎に戻り、部下達を集めて僕がクビ&追放になったことを告げると、蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
「そんな舎長! いきなり辞めるなんて、俺達明日からどうすれば!?」
「舎長が来てから、我々の待遇も良くなったのに……」
「いっそ全員で国王陛下に直訴して、追放の撤回を!」
「み、みんな、落ち着いて!」
やっとのことで部下達を宥め、僕は言った。
「こんなことになってごめん。残念だけど、僕が追放されるのはもう決定なんだ。新しいテイマーの人が来るまでしばらくかかるみたいだから、それまでみんなで、獣達が暴れないように抑えておいてほしい」
「ど、どうやって……?」
訝る部下達。僕はそれぞれの獣の担当者を決め、その担当者の言うことを聞くよう、獣達に最後の命令を与えていった。これで僕がいなくなっても、獣達を抑えておくことができる。
「一匹ずつ、言うことを聞くかどうか確認して! 従わない子がいたら、もう一度僕から命令し直すから言いに来て!」
そう部下達に指示を出すと、一人の部下が僕のところにやって来た。
「舎長、こいつがどうにも……」
部下の言うことを聞かないのは、ドラゴンのバルマリクだった。この獣舎にいる中で、最も大きく強い魔獣だ。
僕は何度か命令し直したが、結局バルマリクは誰の言うことも聞かなかった。
「……仕方ない。バルマリクは僕が連れて行くよ」
「そうしていただければ助かります。しかし大丈夫でしょうか……?」
部下が不安そうに言う。それはそうだろう。王宮で飼っている魔獣を勝手に連れ出せば、お咎めがあってもおかしくない。
でも、問題を起こすのが目に見えているのに、ここに置いていく訳には行かなかった。バルマリクが暴れて誰も抑えられなければ、どんな被害が出るか分からない。
僕は腹を括った。
「どうせ追放なんだ。少しぐらい悪さしてもいいよね」
そう言ってバルマリクの頬を撫でる。バルマリクは喉を鳴らした。
「GRRUUU……」
そのとき、何かが僕の足元に纏わり付くのを感じた。見ると、スライムのポルメーだ。ポルメーは僕の足を這って、上の方に登って来ようとしている。
「……お前も、一緒に来るか?」
そう尋ねると、ポルメーは嬉しそうに「PUUU!」と鳴いた。
☆
夕方近くになって、ようやくバルマリクとポルメーを除く獣達が、それぞれの担当者の言うことを聞くようになった。一時はどうなることかと思ったが、少なくともこれでしばらくの間はしのげるだろう。