失職テイマーに引継ぎはいらない
「ともかく、もう決まったことだ。金食い虫は王宮に必要ない。そなたより遙かに安上がりで有能なテイマーが参る。先程申した通り、そなたは今日で御役御免だ!」
「ふうっ」
僕はため息を吐いた。相手は巨大な権力を持つ摂政である。一介のテイマーでは、どうあがいても逆らえない。
「……して、新しいテイマーの方はいずこに? 本日中に引継ぎをいたさねばならぬ故、一刻の猶予もございません」
「ふん。いつ参るかは分からぬ。たかが獣の世話ではないか。引継ぎなど無用!」
「え……?」
摂政の信じ難い言葉を聞き、僕は慌てた。
「お、お言葉ですが殿下、新しい方にテイムを引き継がずにわたくしめが去れば、魔獣が御せなくなります。特にドラゴンには、各都市との文書や物資の迅速なやり取りという役目がございます。新しい方がお越しになるまで職に留まらせていただけませんか? お給金は要りませんので」
「ならぬ! 仮にテイマーがおらずとも、獣など痛め付ければどうとでもなる。王都からも明日には退去せよ。明後日の朝まで王都に留まれば、命の保証はないものと思え」
「…………」
そこまでか。
そこまで侮辱するのか。僕個人だけでなく、テイマーという職業を。テイマーに協力してくれる獣達を。
確かにテイマーは、攻撃魔法などを使う魔道士と比べて華々しさはなく、軽視されがちだ。でも、今摂政に話した通り、魔獣に頼まないとできない仕事もある。リーラニア帝国との戦でも、僕がテイムした獣達は命懸けで偵察や輸送に従事した。
それを愚弄するなら……どうせ最後だ。嫌味の一つも言ってやろう。
「恐れながら……」
「ん?」
「わたくしの主は国王陛下にして、殿下には非ず。追放の御命、陛下より直々に賜りたく」
「何だと!? 無礼者め! 明後日と言わず、今ここで斬り捨ててくれる!」
「御随意に!」
僕は首を前に伸ばす。ここで死ぬことになるが、摂政を苛立たせて一矢報いたので悔いはない。たかがテイマーにも意地があるのだ。
「良かろう!」
摂政が立ち上がり、剣を抜いた。だがそのとき、ずっと黙っていた国王陛下が口を開く。
「お待ちを、叔父上」
「陛下、お止めくださいますな」
「アシマよ。済まぬが王都を去ってはくれぬか? 死ぬことはあるまい……」
「む……」
渋い顔をして、摂政は剣を収めた。
「これで良いな? ユーベック」
「感謝いたします。国王陛下の御命令、しかと賜りました」
僕は国王陛下に向かって平伏してから、謁見の間を後にした。




