摂政、テイマーに処刑を阻止される
摂政は座席に座り直した。そして、高らかに宣言する。
「刑の執行!」
その言葉に応じ、火傷の男は一度摂政に礼をしてから処刑台に登った。男は摂政から預かった剣を鞘から抜くと、柄を右手で持ったまま剣身を水平に伸ばし、感触を確かめるように手首を繰り返し捻る。
「…………」
そして男は、刃をクナーセンの首筋に一度あてがった。さらに大きく振りかぶると摂政を見て、最後の命令を乞う。
摂政は微笑み、大きく頷いた。
クナーセンは目を閉じ、刃を待ち受ける。
突然、男のローブがザワザワと波打ち、中から水の塊のようなものが飛び出した。それは空中で分裂し、クナーセンを押さえ付けていた役人達の顔に飛び付いていく。
「「PUUU!」」
「うわあああ!」
「な、何だ!?」
得体の知れない物に顔面を覆われ、役人達はクナーセンを押さえ続けることができなくなった。それどころか処刑台の上に立ち続けることもできず、下へと転がり落ちて行く。
「何事だ!?」
思わぬ事態に、摂政は立ち上がって声を荒らげる。だが、異変はそれだけに留まらなかった。観衆の一人が、処刑台のすぐ上を指差して叫ぶ。
「ドラゴンだ!」
いつの間にか、一頭のドラゴンが処刑台の上に舞い降りて来ていた。ほとんどの者が火傷の男の振り上げる剣に注目していたため、気付くのが遅れたのである。
ドラゴンの首には縄が掛けられており、その片方の端が処刑台の上に垂れていた。素早く剣を鞘に納めていた火傷の男は、その鞘を口に咥えると右手でクナーセンの体を抱え、左手で縄を手にする。役人達の顔を覆っていたものは、再び飛び上がって一つになり、男の肩に乗った。
「何をしておるか! あの者を捕えよ!」
何が起きているか、いち早く気付いた摂政が命令を発する。だが、一歩遅かった。兵士達が処刑台の上に登る前に、ドラゴンは上昇する。縄で引き上げられた火傷の男は、クナーセンごと処刑台を離れていった。
ドラゴンは火傷の男とクナーセンを、広場に隣接する建物の屋根に下ろし、自らもその屋根に降り立った。もはや兵士達の剣や槍は届かない。そこで男は再び剣を抜き、クナーセンを縛っていた縄を断ち切った。
「何者だ!?」
摂政の問い掛けに応えるように、男の顔を覆っていた水ぶくれが下に落ちて行く。やがて水ぶくれが完全になくなり、男の本来の顔が露わになったとき、それまで摂政の隣で成り行きを見守っていた国王の口から、小さなつぶやきが漏れた。
「アシマ……」




