代役の準備はお早めに
摂政の側にいた役人が、台を降りて柵の入口近くまで走り、外を見渡した。そして台の上まで戻り、摂政に報告する。
「殿下。処刑人の姿は未だ見えませぬ。どうやら、到着が遅れているようにございます。今しばらく、お待ちを……」
「かような大事に、遅参と申すか!?」
「はっ。恐れながら……」
「もうよい!」
摂政は、しびれを切らして言った。居並ぶ兵士達を見渡して問い掛ける。
「誰か、処刑人に代わり、この不心得者の首を刎ねる忠義の士はおらぬか!?」
「「「…………」」」
兵士達は、互いに顔を見合わせ、しばし沈黙した。反乱の罪に問われているとはいえ、軍の内外でクナーセンの声望は高い。名将殺しの汚名を着ることを考えれば、すぐに名乗り出られないのも無理からぬことであった。
「腰抜け共め!」
摂政が吐き捨てる。だがそのとき、柵の外側で両手を振り、声を張り上げた者がいた。
「摂政様! そのお役目、何卒それがしにお与えくださいませ!」
その声に、万座の注目が集まった。声の主は、黒く長いローブを着た小男だ。フードを目深に被っており、顔はよく見えない。
早速摂政は、近くに立つ兵士に命じた。
「あの者をこれへ!」
二人の兵士が柵の外に走り、両脇から男を抱えて連れて来る。摂政の前まで来ると、男は跪いた。
「顔を見せよ」
摂政のさらなる命に応じ、兵士が男のフードを外そうとする。だが男は両手でフードを抑え、抵抗した。
「顔は……顔はどうか、お許しを……」
「ならぬ! 顔を見せるのだ!」
厳命を受け、兵士達は無理やり男のフードを外した。
現れたのは、火傷の水ぶくれが全体を覆い、元の形も判然としない顔である。さしもの摂政も息を飲んだ。
「なんと……」
「これだもので、お目にかけたくなかったんでごぜえます……」
「一体、その顔はどうしたのか?」
「へへいっ。それがしは元々兵隊でごぜえましたが、そこのクナーセンめがまずい戦をしたせいで敵の火攻めに遭い、こんな人様に見せられねえ、醜い面になったんでごぜえます。一つこの機会に、仇を討たせてくだせえまし」
男の言葉を聞き、摂政は満足気に頷いた。
「うむ。良かろう。しからばこの剣を使うが良い。見事、そこの愚か者の首を落とした暁には、恩賞を取らせようぞ」
そう言うと摂政は佩剣を鞘ごと腰から外し、傍らの役人に持たせた。役人は台を降り、男に剣を手渡す。
「へへーっ! ありがたき幸せでごぜえますだ!」
男は両手で剣を押し頂き、深々と頭を下げた。




