何はなくとも、まず追放
「アシマ・ユーベック、本日をもってそなたの職務を解き、王都からの追放刑に処する」
「はっ……?」
突然謁見の間へ呼び出され、国王陛下の政務を代行する摂政ブロードジャ公からクビと追放を言い渡された僕は、事態が呑み込めずにいた。
僕、アシマ・ユーベックはマリーセン王国に仕えるテイマーである。ユーベック家の当主は代々テイマーとして王国に仕えてきた。
人間は様々な動物を使役して自分達のために働かせるが、動物の中には馬や犬のように比較的人になつきやすいものと、一部のドラゴンのようにあまりなつかないものがいる。その、人になつきにくい動物を飼いならして働かせるのが、僕達テイマーの役目だ。
この日も僕は、仕事場の獣舎でいつも通りに作業服を着て、ドラゴンやその他の獣達の世話をしていた。そこへ突然使いが来て、謁見の間へ来るように言われたのである。慌てて体を洗い、礼服に着替えて拝謁したら、この有様という訳だ。
謁見の間の奥にある玉座には、国王ジムギウス4世陛下と摂政が並んで座っている。国王陛下は僕より2つ下の御年14歳でまだ政治はできないので、陛下の叔父に当たる摂政が代わりを務めているのだ。
「理由を承りとうございます」
僕は跪いたまま、摂政に問いただす。
摂政が冷酷な人で、意に沿わない廷臣を追放するという噂は聞いていた。でも僕は摂政に反抗したことはないし、仕事で失態をした記憶もない。仕事以外で悪いこともしていないはずだ。
「分からぬと申すか?」
「はっ。何卒御教示ください」
「では愚昧なそなたに教えてやろう。綿密な調査の結果、そなたに払っている給金が無駄だと分かったのだ」
「お言葉ですが、わたくしも頂くお給金分の仕事はしております。具体的には……」
「そなたの百分の一の給金で、そなたより遙かに上手く獣共を使う者がおる」
「百分の一!?」
あまりに法外な値引きぶりだった。僕の給金の百分の一では、子供のお小遣いぐらいにしかならないだろう。
「お戯れを。隣国リーラニア帝国との久しく続いた戦により、物価は上がり続けております。そのような折に、百分の一で職を得るお人好しがどこにおりましょうや?」
「現におる。既に契約も交わした。そなたはもう用済みだ」
「……摂政殿下がそこまで見込まれるとは、さぞかし名高いテイマーとお見受けします。その方のお名前は?」
「ふむ……何と申したかな。忘れたわ」
どういうことだ?
僕の心の中に、疑問符が浮かんだ。