第5話 特訓
「で、だな。お前を鍛える。片手剣を持って振ってみろ」
俺は左腰に付けていた片手剣を引き抜いた。使い慣れていたナイフは腰の後ろに水平に収納されている。
ナイフとは重さも長さも何もかもが違うので片手では持っての扱いが難しい。
右手で片手剣を持ち左から右へ横一線に振る。師匠は少し離れた場所で見ていたが、
「ダメだ、振った後に剣先がブレてる。ナイフで慣れていたから片手で持つには重すぎるからだろうな。両手で持って縦に構えてみろ」
短い柄を両手でなんとか持つ。両手で持てばそんなに重くは感じず、持ちやすくなった。
縦、横、斜めに振ってみたが剣先がブレることもない。
「よくなっただろ?俺も特に流派とか剣術があるわけじゃない。実戦の中で慣れてったからな」
そういうものなのか…初めて持つ片手剣に戸惑いつつもこの片手剣でどこまで行けるのかワクワクしていた。
「しばらくは剣を振って感覚に慣れろ。その後は運動で筋肉をつけろ、それから俺が手合わせして剣の技術を磨いていくんだな」
道のりは長いな…体の身軽さには自信があるが、使い慣れたナイフとは違う剣を使うとなると、一から慣れなければならない。
しばらく剣を振っていると、太陽が沈み出していた。汗だくになったので川へ行き水を浴びた。
俺が剣を振っている間、師匠は川で釣りをしていたようで夕食には焼いた魚を食べて眠りについた。
翌日、早く寝たせいか日が昇るのと同時に起きた。師匠はすでに起きていて剣を振っていた。
「おはよう!今日は俺が起こさなくても起きれたじゃないか」
師匠は剣を振っていた手を止めて腰の鞘に剣を納めて言った。
「ほれ、朝飯のレーションだ。それ食ったら腕立てと剣を振れ」
今日から朝起きたら特訓が追加された。
「へーい」
生返事をして、川へ顔を洗いに行く。レーションを水で流し込み腕立て、腹筋などを行う。筋肉痛の身体が悲鳴をあげる。
その間に師匠は荷物をまとめ、昨日釣った魚を干していたのを袋に詰めた。
「もうそろそろ出発するぞ」
俺の様子を見に来た師匠が言った。
「おーう」
そう言って自分の荷物を持ち歩き出した。師匠は馬に乗り歩き出す。
しばらく2人は無言で歩いた。
「なんで喋んねーんだよ…」
師匠がボソリと言った。沈黙に耐えかねたようだ。
「いや、別に喋る事もないし…」
「素っ気ねーなー、朝の筋トレはどうだった?」
「どうって、筋肉痛で身体中痛いけど強くなる為には鍛錬が必要だろ」
自分の考えを率直に言った。
「物分かりがいいのはいい事だが、なんで強さにそこまで固執するんだ?」
たしかに…、自分はどうしてここまで強さに固執しているんだろうか…
しばらく無言でいると
「自分でも分かってなかったのか、強さに固執するといつか身を滅ぼすぞ」
「うっ…。なにも考えてなかった…」
「でもな、この世界は強さが全てなんだ。お前が生きてきたコロシアムだってそうだったろう?殺されたらおしまいだ。殺されない為には相手を殺す強さが必要なんだ」
師匠はしばらく何事か考えてから言った。
そうだな、世界は強さが全てだ。散々その片鱗は見てきた。弱くて負けた剣闘士を見てきた。
死んでしまえばい全てそこで終わりだ。勝ち続けて殺し続けなければならない。
死なない為に、終わってしまわない為に。その為には自分を強くしていくしかない。
森を抜けた。いつのまにか川も無くなっていた。そこからはゴツゴツとした硬い岩肌と岩が目立ち、草木も少ない。視界もひらけていた。
昼を少し過ぎた頃だった。




