7、新しい始まり
「さあ着きましたよここがスベンの中で最も大きく栄えているアスノ村です。勿論アレスには負けますが。」
「連れてきてくれてありがとうございます。じゃあここで。」
「はい。それでは。っておーいドライ過ぎない?焚き火囲んで焼きマシュマロとか食べない?えっ本当に行くのーおーい。」
と別れようとした時だった。
外套を着て必死の形相の男性が馬に乗りとんでもないスピードで村の入口を走り抜けていった。
そして馬がきた方向から女性の叫び声がするので仕方なくスコープと共にそちらへ走った。
何やら家の前に野次馬ができており口々に何かを話している。かき分けて進むと玄関で3歳程の子供を抱え座り込む女性がいた。
子供は酷い火傷を負っているようだ。口の辺りから胸にかけて真っ赤になって皮膚がただれていて、泣き続けている。
野次馬はあれは無理だな、子供の事はしっかりみておけよ、と母親を罵る輩までいる。
「誰かこの子を助けて。神様。」
と子供を抱きしめ泣いているだけで母親はじっと動かない。
目立ちたくない。目立ちたくないがここで子供を見捨てる事は選択肢にはない。
ローブのフードを深く被り直し子供と母親に近付く、母親は子供の側まで近付くとやっと顔をあげて私を訝しげに見た、が構わず治療する。子供の火傷のない腕にそっと触れる。
「ヒール。」
魔力をごっそりもっていかれたので割と重症だったようだ。それでも子供の火傷はすっかり消え去り、今は穏やかな寝息をたてている。跡も残っていないようだ。
母親と野次馬は何が起きたのか一瞬気付かなかったようでただポカンとしていた。
私はその隙に転移した。
最初の森に戻ってきたようだ。薄暗くただ静かだ。
「はぁ。また目立ってしまった。勇者にもあれ程手当り次第治すなって言われたのに。でもあの子苦しんでたし。」
アレスを出発し旅の最初の村に着いた時、勇者一行に選ばれて少し浮かれていたと思う。病気を患っている人達を良かれと思って手当り次第全員治してしまったところ、金になると捕らえかけられたり、神と奉られ監禁されかけられたり、一番多かったのは魔法でなんでもできると誤解され、亡くなった人を蘇らせてくれと泣きつかれ、できないと分かると罵られる。
嘘吐き!
嘘吐き!
なんでも治せるんでしょう!
嘘吐き!
蘇らせてよ!
村の周辺にいる魔物についての情報を得られぬまま逃げるように村を出た後、勇者に言われた事。
人間は自分の都合のいいようにしか考えない。思い通りにならないと分かると一斉に石を投げ始める。助けてくれた恩も忘れてできない事を非難する。
お前は特別だ。病気を完治させる奴はそうそういない。だから大事な時にとっておけよ。治したい時だけ力を使え。
まだ旅は始まったばかりだったのにまっすぐそう言われて、次の村からは手当り次第治す事をやめた。
「クインは優しい人ですね。魔力をそんなに犠牲にしてあの子と母親を治すなんて。勇者にも言われたのに治しちゃったなんて。」
振り返るとスコープが石に腰掛けて私を見ている。スコープからは魔力を感じられない。
「どうして、転移してきたのに。あなたは置いてきたはず。」
それに一切気配がしなかった。声がするまで気付かなかった。
「ええ。石で来ましたよ。ねえクイン。もしする事が無いなら一緒に仕事をしませんか。何でも屋に近くて、人探しもするんですよ。」
「この力を利用しようとしてるなら。」
「大丈夫、誰にも言いません。」
私の言葉を遮ってスコープは言い切った。信用出来ないけど、目的のない気ままな旅は私はできない。今まで言われた通りにしてきたから自発的に行動する方法を知らない。
それに世間知らずだし世間を知るまで一緒に居てみようか。私は彼を利用しよう。襲ってきても倒し返せる。
私はゆっくりと手を差し出した。スコープは笑顔で握り返して私達は握手をした。




