3、それぞれの褒美
ひとまずアレスに戻る。アレスの宿に泊まりその後何をするか考えよう。
宿屋で一番良い部屋に案内されてしまった。勇者一行と知っていたようで予算はこれ位でと伝えたのにこんな部屋に。
キングサイズのベッドにふかふかのバスローブ。薔薇が浮かべられた魔力で常に温かいお湯がはられた浴槽。窓には景色を変える事ができる魔法のガラスがはめられていて今は夕方の海が映し出されている。
とても疲れている体をなんとか動かしお風呂に入った。湯船に浸かるとどっと感情が昂り体から溢れ出た。
「うっふっ。うう。」
堪えても嗚咽が止まらない。ロンとリリイを失った事。何より裏切られた事。そして。
「ロンとリリイを愛していたのに!」
浴室に反響した声は誰に届くことも無く消えていく。思い返せばいつもそうだった両親も親戚もリリイを選んだ。
「リリイは可愛いね。」
「クインは顔は綺麗だけどなんだか暗いし陰気だ。」
「リリイ、ほらお小遣いをあげよう。クインには内緒だよ。」
「ねえ、パパ、ママ遊園地に行きたい。3人で。」
「仕方ないな。クインは勉強しておきなさい。いいね。」
でも両親が亡くなった時、今までの事を泣きながら謝ってくれてこれから支え合って生きていこうと励ましあってきた。
それなのに。
ジェーンの言葉が頭をよぎる。
騙されるわよ。
頭の中で反芻する言葉。
「言う通りになったな。」
ようやく涙がおさまってベッドに寝転びこれからの事を考えた。
「もう誰も愛さない。信じない。1人で生きていこう。」
これだけは決意した。空っぽの体を憎しみや恨みで満たしたくなかった。
これから好きな事をして生きていこう。お金はあるし。
「お金はあるしって。ふふ。」
自分の言い回しに少しだけ笑って、泣き疲れたのか泥のように眠った。
「ジェーン、何を望む?」
「はい、私もロードに近いですが僧侶を辞め教師になり、後進を育てようと思っていますのでアレスに学校を作っていただけますか?回復と薬学の知識を広めたいと思っています。国立の学校にしてください。」
「勿論すぐに取り掛からせよう。ありがたいこちらからもよろしく頼むよ。」
「ありがたき幸せ。」
結局、朝に王から文が届けられ昼に褒美の件で3人集まって王の御前に来た次第である。
ロードはもう取り掛かっているようだ。
ジェーンは傷付いた人達を見ては回復をして心を痛めていた。ロード以上に優しい女の子だったそういえば。
ジェーンは快諾され少しほっとしている。次は私だけどどうしよう。
「さあ次はクイン言いたまえ。」
「私は。」
少し考え込んでしまう。
「うむ。なんだ。」
「何もいりません。王様のそのお気持ちだけいただきます。」
「なんと。あい分かった。だが心変わりあればまた申せ。」
「はい。」
よかった。私は欲しい物は無いしこの答えが無難だろう。
「キース、さあ申してみよ。」
「はい。故郷の村の土地をください。あの村は滅ぼされました。ですが村人の半数は生きております。その者達と村の復興をします。」
「分かった。あの場所はアレスからも遠くはない。復興
の協力を喜んで申し出よう。」
「ありがとうございます。」
キースは嬉しそうに頭を垂れた。
あの後それぞれ誓約書を貰って別れた。誓約書は魔法で誓い合うので約束は絶対になる。
私の誓約書には一つ願いを何でも聞くと書いてある。
宿まで歩きながら途中、屋台でジュースといちごのサンドイッチを買った。
アレスはフルーツが特産物なので新鮮で味が濃い。ジュースも柑橘のサイダーでお気に入りだ。
宿の前まで来ると王城の前で別れたばかりなのに宿の玄関にジェーンがたっていた。
「とりあえず部屋にどうぞ。」
「ありがとう。落ち着くまで皆城に住んでるのよ。クインだけよ外にいるのは。」
「そうだったの。それでご要件は?」
「あなたの願いを私にくれない?もう一つあるの。」
「ええ。いいわ。」
「ちょっとせめて聞いてからでしょう。悪用したらどうするの?」
「ジェーンだもの。大丈夫。」
「本当に騙されるわよ。でもありがとう。農場を作りたいなって薬学の為にハーブとか。学校が出来たら生徒たちをビシバシ働かせるわ。」
「なら本当にあげる。私は欲しいものも願いもない。明日、朝一番で言いに行きましょう。」
「ええありがとう。そう伝えるわ。」