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2、帰還


小さくなった魔王を瓶に封印し栓をした。私が封印を解かない限りもう二度と魔王は出て来られないだろう。

その後転移の魔法で冒険を始めた国アレスへ戻った。


アレスでは魔王討伐を神父が気付いたのだろう、誰も彼もが喜び街は活気に溢れ国民は私達勇者一行を歓迎した。

ある者は頭を地面にこするほどひれ伏し、またある者は店にある商品を私達に持たせた。


「出発した時はお金が無いからって話も聞いてくれなかったのに。」


ジェーンは国民の対応の変わりように怒りを感じているようだ。


「クインもそう思うでしょう?」


「いや私は別に。」


「もう本当にいい子なんだから。いつか騙されるわよ。」


怖い顔をしたままジェーンはブツブツと呟きながら城に入って行った。

私も後を追うように中に入る。

確かに対応は変化した。城の騎士も跪いている。

あの王付きの衛兵の事はここへ来た時、酷く罵られたので覚えている。


「よくぞ魔王を倒した。キース、ロード、ジェーン、クイン褒美を取らせよう。何か申せ。」


「じゃあアレスで剣術道場を開かせてくれ!」


最初に口を開いたのはロードだった。ロードは剣術を広める活動をしたいと何度も言っていたので前から褒美を考えていたのかもしれない。


結局、キースもジェーンも私も時間を貰ってゆっくり決める許しをもらった。

私はとにかくロンに会いたくて王との謁見の後、皆と別れて故郷の村に戻った。


村は三年経っても変わりなく思いっきり深呼吸をすると、花の優しい香りが私の中を満たした。

ロンに会いたいけどリリイにも早く会いたい。

両親が魔物に殺された後、五歳下の妹のリリイと必死に一緒に生きてきた立派に看護師になった自慢の妹。

もう夜だし家にいるだろうか。先にロンに会いに行こう、ロンへのお土産はアレスで買ったフルーツだから先に渡しておきたい。

異空間にしまっておいたフルーツを取り出した。目の前がザザっとなりフルーツが出てきてすっと消える。


「本当に便利だ。」


異空間に入れて置くと状態もいいし何より身軽に歩ける。旅で手に入れた大量のアイテムを換金したので、持っている大量のお金も盗難の危険が及ぶ事無く持ち歩ける。


「ロン、帰ってきたわ。クインよ。」


ドアをノックし声をかける。

私はがらにもなく声を弾ませている。早く会いたい。いつもそばにいてくれたロン。学校で暗いからと虐められた時も、両親が亡くなった時もその後二人で行ったピクニック。草原に寝転んで私が作ったサンドイッチを並んで食べた。

幸せとは何か聞かれたら間違いなくあの時間の事を思い浮かべる。陽だまりの中で緩やかに流れる時間。あの時、時間が止まればと強く願った。

ドタバタと足音がしロンが出てくる。あの時と変わりはないけどあまり嬉しくなさそうだ。


「やあクイン。おかえり会いたかったよ。」


ロンは話しながら頭をかく。嘘をついている時の癖だ。どうして?


「ロン誰だったの?」


部屋の奥から聞こえる声、近付いてくる足音。聞き覚えがある間違える筈がない。あの声は。


「クイン、怒らないで聞いてほしい。君は婚約者だし愛しているよ。三年間ずっと待っていたんだ。」


ロンは必死に何かを隠そうとしている。


「誰なの?」


また響く声。そしてそこにいたのはリリイだった。


「おかえりお姉ちゃん。」


満面の笑みで迎えるリリイはお腹が大きく歩き辛そうだ。ロンが気遣いながら支えている。妊娠している。


「ごめんねお姉ちゃん。私、ロンの子がお腹にいるの。お姉ちゃんの婚約者だけどねずっと好きだったの。好きな人はずっと捕まえておかないと駄目なんだよ。」


リリイはただ笑っている。その笑顔にむかって叫んだ。


「私だって国から選ばれなければ!」


「ふふ。珍しいねお姉ちゃんが大きい声を出すなんて。でももう仕方ないよ。ロンとは結婚して子供もいるんだから。お姉ちゃんの居場所はここにはない。」


バタンとドアを閉められ私の部屋の窓からバラバラと荷物を捨てられる。1階だから壊れる事はないけど父さんに貰った医学書や母さんに貰ったオルゴールに砂がついている。一通り出し終わったのかまたバタンと窓が閉められた。


「待って!ロン!リリイ!」


村の人達が野次馬よろしく横目で眺めていく。姉妹で男を取り合った様子がおかしかったのだろう。笑っている人もいる。

嫌な笑い方だ。声も出さずに顔を歪めている。

こんな醜い人達の前で絶対に泣きたくはなかった。


憎い、私を裏切ったロンが、愛する人を奪ったリリイが憎い。


「魔王を倒しに行ったご褒美がこれ。私はどこで間違ったの?」


私は涙を堪え異空間にそれぞれしまった。

大事な物をしまっておく空間の中にロンから貰った懐中時計もあった。蓋の裏には永遠に愛しい人クインへと刻まれていた。時計は時を刻まなくなっていた。私への愛も止まってしまったのか。




「お父さん、お母さん私魔王を倒したよ。偉い?それでねリリイとロンが結婚したんだって。私邪魔なんだって。だからもうここには帰って来ないよ。さようなら。」


ここに来た理由のもう一つは両親の墓参りだ。もう終わった。心残りはない。


「これからどうしよう。」


私は空っぽになった。魔王討伐を終えその後の望みはあの時間をまたロンと過ごす事だけだったのに。




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