6月21日(1)
趣味で書き始めました。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名とは一切関係ありません。
帰り道で気絶してから2日目に入るが、健介の周囲は平穏そのものだった。
健介が意識を取り戻した場所は、誰かの家の軒先だった。
位置を動かされたのは明らかだったが盗られた物は無く、自転車も側に置いてあった。
傷は手当てされていた。ズボンの破れは激しかったが、自宅に替えが有った。
あれ以来、お化け柴犬のような化け物も見ていない。
(あれ女だよな…)
確証はないが、「どいて」という甲高い声は同年代以上の男のそれではない。
変声期前の少年の可能性もあるが。助けてくれたなら、お礼ぐらいは言っておきたい。
(それに…ずっと変な感じなんだよな)
事件の翌日から体調がおかしい。悪いのではない。気力体力ともに充実しており、踏み込みはより鋭く、一撃の重さはそれ以前の比ではなくなった。
翌日の稽古では顧問から怠慢を疑われ、上級生からは賞賛と嫉妬が混じった威圧を贈呈された。
体育の授業においてもそれは同じ。明らかに身体が軽くなっており、本気を出したら世界記録すら叩き出せそうな気がする。
「松岡先輩!ひょっとして、具合が悪いんですか!」
「あぁ?…今日も元気だな、日浦」
「先輩は静かですね!こんな天気だからこそ!気合を入れましょう!」
健介は思考の淵から引きずり出された。昼までで終わるが、今日は部活の稽古がある。
天気は残念ながら土砂降りの雨で、水滴が路面や傘布の上で元気よく跳ねている。一方、ズボンの裾を湿らせながら登校しなければならない健介の気持ちが浮上する気配はない。
新入生の日浦大誠は対照的に溌剌としている。青春の陽気が人の形をとったらこうなるのだろうか。
活力を存分に振り撒く大誠に、恰幅の良い女性がすれ違いざまに怪訝な顔を向ける。この程度の雨量では彼の熱を冷ますには足りないのか、と健介は改めて感心した。
「わかったから声落とせって」
「…わかりました」
雑談に興じながら校門をくぐった二人は、のんびりと歩きながら剣道場を目指す。
稽古が終わったら、ラーメンでも食べて帰ろう、と健介はぼんやり考えた。
稽古が終わるころには、雨は弱まっていた。
昼食後に大誠と別れ、自宅に荷物を置いてくると、健介は徒歩で学校に引き返した。
午前中、健介は軟体動物に触れられたような、不快感を覚えたのだ。
初めは気のせいかとも思ったが、二度三度と続くと、そうもいってられない。
全く稽古に集中できず、健介の今日の成績は悲惨なものだった。
しかし不快感は学校から離れると次第に遠ざかっていき、ラーメン屋の暖簾が見えてくる頃には痕跡しか残らなかった。
あの柴犬と出会ってから、可笑しな事が続いている。
この気配の先に、決定的な何かが待っている筈。
不快感は学校の南から発せられている。
健介は感覚の発生源を目指して、静かな住宅街を注意深く進んでいく。
やがて健介は住宅街の中に一際年季の入った一軒家を発見した。
立派なのは瓦屋根だけで、外壁は赤錆びの浮いたトタン、窓には段ボールで目張りがしてある。電気は点いておらず、しばらく見て回るとメーターが回っていない事が分かった。
(ここか…)
不快感の強さは、これまでの人生で経験したことが無いほどに高まっている。
湿気も相まって、全身に貼りつく軟体動物は30を超えている。
引き返すべきだとも思ったが、危険は承知の上だ。
「…開く」
引き戸はあっさりと開いた。
雨天もあって、襤褸家の中は暗い。だが全く見えない訳ではなく、慣れれば問題はなさそうだ。
一応住人に声を掛けてみたが、返事はない。健介は意を決して踏み込む。
不快感は一層濃くなり、いまや明確な形を得ていた。
廊下を忍び足で進んでいた時に、健介は不快感の源が居間にいることがわかった。
居間の扉を開け、見回しても何もいない。奥に進んでいき、近づいていくと発生源は音を立てて移動。
俊敏な動きで…4時の方向、跳んできた!振り向いて待ち受けていると、空中に猿が現れた。
チンパンジーだ。首から背中、脇から臍、腰から腿など全身の各所に銀色のチューブを通している事を除けば。
奇襲に失敗した猿は姿勢をずらした健介の背後に着地する。
――引っ掻かれた?
猿とすれ違った直後、心臓が大きく跳ねた。
ちゃんと避けただろ、と健介が思考した直後、皮膚の下で無数の小爆発が始まった。
それは意識上の出来事だったが、すぐ後に痺れたような感覚が頭から爪先を0.1秒で走る。
健介の全身が衣服ごと灰色に変わり、粗野な剣道青年は瞬く間にデッサン人形のような単純なシルエットに変形する。
ふと、グレーのシルエットになった健介は背後に何かが立っている、と思った。
岩壁のような赤い肌に包まれた何かは筋骨逞しく、背丈は見上げるほど高い。人型だが鼻、眼、耳をもっておらず、顔には髪の毛のように生えた8本の角とワニのような口しかなかった。
背後の人型は滑るように、健介の内側に背中から侵入。純白の燐光を放ちながら、彼は身長およそ2m20cmの真紅の異形に変化する。
全ての工程は回避行動から猿と視線が合うまでの時間で、つつがなく完了した。
赤い怪人と無機質に笑う猿が、暗い居間で向かい合う。
まず異形――変身した健介は視点の高さと視界の明瞭さに驚いた。部屋が極端に窮屈に感じられ、頭の先が天井を絶えず引っ掻いている。
先程までは夜目に慣れた程度だった視界が、晴天の屋外レベルまで向上している。
向かい合っている猿の表情や体格、家具や部屋の間取りまで、今の健介には正確に把握できた。
健介は顔に手を遣る。
眼窩が存在せず、そもそも両目が無くなっているという矛盾を理解した時、今度こそ呻き声をあげた。
呆然となっていた健介だったが猿の叫び声で理性を取り戻し、頼もしく作り変わった左拳を振り下ろす。
真紅の両腕の前腕部は青銅に似た金属で包まれており、装甲は西洋甲冑の籠手のように指先まで覆っている。
気のない一撃であったが、拳打の勢いで軸にした右足が踝まで床に沈んでしまった。
受けた猿は軽快に吹き飛ぶ。足を引き抜いて近づくと、猿は液晶テレビから身体を抜いて飛び掛ってきた。
健介がそれに反応した時、部屋の中が灼熱の炎に包まれた。
「うわ!」
一瞬視界が遮られ、情けない音が漏れる。(焼ける!)と危惧したが、熱は一切感じない。
安堵した健介だったが、炎を見た通行人が消防署に連絡する可能性に思い至ると、急いで火を消そうとする。
一歩踏み出した瞬間、火は宙空に掻き消えた。
炎が舞っていたのは僅かな間だったが、部屋は黒一色に染められており、居間には炭化した柱と変形した家具しか残っていない。
猿はまだ生きていた。健介は焼け跡に腕を突っ込み、動かない身体を引きずり出す。
気配は殆ど消えかかっており、黒焦げた身体は大きな手の中で崩れて黒い粉になった。
手の汚れを軽く落としながら玄関を目指す健介の耳に、何事か囁き合う複数の声が届いた。
ありがとうございました。