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状況、開始ッ!  作者: Gumdrops
7/15

第2試合、開始ッ!

「ふわぁ~ぁ…あ、おはよう、諸君。ちゃんと身体は休めたかい?」

 今村が起きぬけの挨拶から切り出した。

「何が『あ、おはよう』だ!ブリーフィング前に身体を休めてるのはお前くらいだ!」

 天地が噛みついた。

「まあまあ。それで、次の相手はAクラスと聞いていますが?」

 それを飯沼がやんわりとなだめつつ話を進めた。

「そうそう。現・自衛隊に準ずる装備を有するクラスだよ。詳しくは横田ちゃん、宜しく」

「…はい。昨日の試合で確認されたのは74式・90式戦車、UH-1J、LAV等の車両に加え各種迫撃砲や地対空ミサイルを確認。奇襲で生じた混乱に乗じて相手本陣を痛打、陣地を占領するという戦術で勝利」

「自衛隊装備のクセに専守防衛じゃないのか?」

 天地がヘラヘラと大仰な仕草で言った。

「…(こくり)」

「見事に作戦が決まったみたいだからねぇ。次も似たような作戦で来たりするかもね?」

 横田が静かに頷き、今村がニヤリと軽口を叩いた。

 「それで、俺達はどう出る?奇襲が分かっているなら対応できる」

「あはは、ごめんごめん。奇襲と決まったわけじゃないよ。Aクラスは戦術に一貫性が無くて出方がよく分からないし…どうしようかな」

 それを千田が間に受けてしまった。

 笑って撤回した今村が改めて真剣に考える。

 今村はすぐさま結論を出した。

「よし!その辺は考えても分かんないし、様子を見ようか。防衛線と遊撃隊による警戒網を張ってまず相手の出方を見る。防衛線は3つ。正面に歩兵を基幹とした2個小隊、両翼に1個小隊ずつ配置する。各小隊には戦車を1輌、支援で付けるよ。榴弾砲・高射砲は本陣から支援。質問は?」

「前線支援部隊は必要ですか?」

 飯沼が質問をする。防衛線に配置する支援隊員の選抜は後方支援隊長である飯沼の仕事だ。

「そうだね…。通信班を付けて連絡網を密にして。有線を張るんだ」

「了解しました」

「他に質問は?」

「「「無し」」」

「それじゃあ各部隊行動にかかるように、解散」

 一瞬の思考時間を空けて全員がそう言ったのを機に、今村がブリーフィングを締めくくった。


────────────────────

── 一方、Aクラスでは


「今回はどの様な作戦でくのでありますか?」

「前回は奇襲で大きな戦果を挙げましたからな!この度も奇襲で攻めましょうぞ!」

「いやいや!今度こそ吶喊とっかんあるのみです!」


ざわざわ、がやがや


 作戦室の中が「奇襲だ」「突撃だ」と騒がしい。

 収まりのつかない議論は次第に1人の男に向けられ始めた。

山下やました中佐はどう思われますか?」

「そうだ!1回戦を勝利に導いた山下中佐なら!」

 山下中佐はこの体育祭の為に新しく参謀に抜擢ばってきされた男だ。

 皆の視線を一身に浴びた山下は少し考えてから答えた。

「銀輪部隊に出動態勢を取らせろ。彼らの実力を証明する時だ」

「ぎ、銀輪部隊でありますか!?」

「あのような急造の部隊を出すなんて…」

 再び部屋がどよめいた。


────────────────────

「注目!今回は陣地を構成し、敵の出方を見てからのカウンターだ。接敵時間までには余裕があると予想されるが、それでも迅速に行動せよ!敵車両のエンジン音には特に注意しろ!」

 米田は方々に指示を飛ばす。あちこちでエンジンをかけた車両が準備を整えていく。前方では遊撃隊のバイクが軽やかに、後方では支援戦車が爆音を鳴らす。

 米田は全隊を見回した。各分隊の長が軽く手を挙げて準備完了をしらせてくる。その中には今村の姿もあった。支援ということで歩兵隊の指揮下に入っているのだ。

 そのことを頼もしく感じつつ米田は無線を取った。

「こちらレンジャー、準備完了」

『HQ、了解。時間通りだね』

 チラリと腕時計を確認すると開始まであと30秒を切ったところであった。

 米田も車に乗り込む。

「薬室よし、弾込めよし」

 素早く銃に装填したところでアナウンスとラッパが鳴り響いた。

『これより第2試合を開始します』

 士気を表すかの様に各車がエンジンをふかす。

 米田が号令を出した。

「速度を発揮せよ!前進開始ィ!」

 先頭をバイクが走り出す。少し空けて主力車両部隊が続き、その後ろを戦車に守られた人員輸送車が続いた。

『…遊撃隊パトロール、展開』

 無線から横井の号令が聞こえた。前方を走っていたバイク部隊が更にスピードを上げて散っていく。程なくして森の中に溶け込んでいった。


 しばらく進み、両翼に展開する主力小隊が離れて見えなくなった頃にパトロールから無線が入った。

『こちらパトロール、防衛線展開予定地に到着。敵影なし』

「こちらレンジャー、了解」

 米田は遊撃隊からの報告を聞くと1つ頷いて指示を出す。

「目標地点を制圧する。全隊速度を増せ。警戒は怠るな」

 歩兵車両部隊は装輪の速度を遺憾いかん無く発揮して駆け抜けていった。


────────────────────

「行っちゃったっすねぇ」

 星野が人員輸送車を守るように戦車を先行させながら仁村に話しかけた。

 エンジン音を聞く限り最大出力で走っているようだが、装軌車は速度面では装輪車に劣る。主力との差はみるみる開いてしまった。

「行っちゃったなぁ」

 仁村はハッチから頭を出して周りを警戒しつつ返した。横で同じ様に頭を出して警戒している米田も緊迫感のない表情で周りを見渡している。

 山の中からは絶えず虫の声が聞こえ、青い空にはまばらに浮かぶ雲を背に鳥が気持ち良さげに飛んでいる。普段ならじっとりとした空気も疾走する戦車に乗っているお陰で涼しく心地良い。その上、防衛ラインにも現れてない敵がこんな所まで来ているはずもないのだ。念のため警戒はするが気が抜けてしまうのも致し方ない状況だった。

 ゆっくりとした時間が流れる中、ある程度緊張感をはらんだ無線が入った。

『こちらレンジャー、主力が目標地点に到達。陣地構築に移行する』

『HQ、了解。パトロール、状況は?』

『…こちらパトロール、現在警戒中。エンジン音、土煙等の兆候なし』

『HQ、了解。機力きりょくは使ってこないのかな?奇襲の可能性が高いね。それなら接敵するまでまだ時間があるかな、ふゎ…』

 今村のあくびが無線を通して聞こえる。本部も暖かい陽気に当てられているのだろうが、それでも今村のうたた寝は悪い癖だ。仁村は注意を促そうと口を開く。

「…ふわぁ」

 しかし仁村の口から出たのはあくびだった。

「おいおい、気が抜けてるじゃないか」

 そう横から注意してきた米田の眼は少し潤んでいた。

「そういうお前こそ、あくびしたのバレバレだぞ」

 仁村が指摘すると米田は慌てて目尻を拭った。

「このまま千田らが陣地を作っちまってくれりゃ楽なんだがなぁ」

 的場が呑気な事を言っている。

 ふと後ろを見ると輸送車の車長は両手を頭の後ろに回し、操縦手もハンドルにもたれかかっていて緊張感が感じられなかった。

 しかしそういう緊張感の切れた時にアクシデントは起きるものである。

『こちらレンジャー2!敵襲だ!』

「なんだとっ!?」

 途端に車内に緊張感が走る。無線から聞こえてきた声の後ろには銃声と喧騒けんそうが混じっていた。

『なんだって!?パトロール!』

『…現在確認中』

 続いて今村の珍しく慌てた声が入った。遊撃隊をまとめる横田の声はいつも通りだったが、わずかに早口になっている辺りに彼女の驚愕きょうがくの色が表れている。

 答えはすぐに出た。

『…幾つかの遊撃班からの応答無し。中央西側が突破された模様』

 それはあまりに静かであまりに早い突破だった。

 前線の状況はあまりかんばしくなさそうだった。

『こちらレンジャー2、陣地構築中に叩かれた!戦死者リタイア多数!長くは保たない!一旦撤退する!タイガー2応援頼む!』

『こちらタイガー2、現在そちらに前進中。合流しよう』

『レンジャー2、了解!』

 防衛線は完成する前に崩れた。仁村は素早く考えを巡らせる。

「(早過ぎる…車両か?もしくはヘリ?いや、それならパトロールが気付くはずだ。音もなくやられているって事は報告の間もなく素早く倒されているはず。その為には忍び寄る必要がある。徒歩でこの早さは到底不可能。走ってきたとしたらそれこそ闘えない…。なぜだ…)」

 しかし結論は出なかった。仁村の様子を見た的場は次の指示を促した。

「今は考えても仕方ねぇ。それよりも次はどうすんだ?このままだと千田側(レンジャー1)も無防備に近いぞ。流石に対応はしてるだろうが応急なんじゃねぇのか?」

 その言葉に仁村も頭を切り替える。

「そうだな。ひとまず引き続き最速で合流を目指す。西側の警戒を特に強めろ。レンジャー1こちらタイガー1、どうするんだ?」

 仁村は後方を走る輸送車に離れないようハンドサインを送りながら喋る。

『こちらレンジャー1、現在地に陣取りつつ横から叩くつもりだ。戦力が足りないので至急合流してもらいたい』

「あと3分!」

 すかさず星野が所要時間を伝える。

「こちらタイガー1、あと3分で到着する」

 試合は大きく動き始めた。

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