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製作大詰めと予兆

第7話から、さらに5ヶ月半ほど月日が流れた。

かつてお婆ちゃんと暮らした郊外の街も、今や世界規模の魔力過負荷による異常気象に怯えていた。しかし、頑強な防衛結界に守られたこの第一魔科学研究所の周囲だけは、皮肉なほどに美しく豊かな緑を保ち続けていた。

世界が塵ひとつ残さず完全消滅する『滅亡の日』まで、あと、ほんの数日。

研究所の地下最深部では、ベレルムが最後のリレー回路を繋ぎ、手元の魔科学端末の起動スイッチを押した。

――ブゥゥゥゥン……!!

その瞬間、空間を割るような重低音とともに、巨大なリング状のフレームの内側に、どこまでも深く澄んだ「未知の夜空」のような漆黒の空間が出現した。星々のように瞬く魔力の粒子が、らせんを描いて渦巻いている。

ベレルムのすべてを懸けた『異世界転移扉(次元ゲート)』。

まだ本完成には至っていない。だが、簡易組み立てによる起動テストとしては、今まさに完璧な稼働を見せていた。

「ふむ……。次元膜の固定化、および転移先の座標ロック、簡易テスト段階としては100%の成功確率だ。これなら世界が跡形もなく吹き飛ぼうとも、私の計算通り、ミリーを安全な新天地へ連れていくことができる。あと数日で、完全に仕上げてみせるさ」

ベレルムは、青白く光るゲートを見つめながら、満足そうに眼鏡を押し上げた。

あとは滅亡のカウントダウンに間に合わせるだけ。政府の追手も、世界の崩壊という絶対的な災害も、彼の超天才的な頭脳の前には、ただの「折り込み済みのスケジュール」に過ぎなかった。

地上では、そんな世界の危機など露ほども知らないミリーが、今日も元気に外の森を走り回っていた。

十二歳になったミリーの運動能力は、一般的な女の子のままだ。切り株を飛び越えようとしてちょっと足をもつれさせたりしながらも、彼女は緑の芝生の上をドタバタと楽しそうに駆け抜けていく。

ミャアが旅立ったあの陽当たりの良い場所へ行き、小さなお墓の前に新しいお花を供える。

「ミャア、おじちゃんがね、もうすぐ新しいお家に引っ越しするんだよって教えてくれたの。今度のお家は、どんなところかなあ? ミリー、おじちゃんと一緒に、お外の珍しい生き物さんともお友達になれるといいな!」

ミリーはニコニコと無邪気に笑っていた。

箱入り娘として無自覚に守られ、愛されて育ってきたミリーには、「世界を救う」という発想そのものが初めから存在しない。ただ、大好きな伯父さんと一緒に、新しい場所へ行く。それが彼女にとっての、疑う余地のない未来だった。

「ミリー、そろそろ夕ごはんだよ。今日のメニューは君の大好物、絶対に形が崩れない特製オムライスさ!」

「はーい! おじちゃん、いま行くー!」

ベレルムの声に答えて、ミリーは元気いっぱいに研究所へと駆け出していく。

どこまでも青く澄み渡る空。小鳥たちのさえずり。未完成ながらも形になりつつある脱出計画と、ミリーの天真爛漫な笑顔。

研究所には、いつも通りの、穏やかで平和な時間が流れていた。

――けれど、二人はまだ、夢にも思っていなかった。

世界が完全に終わりを迎える日の、わずか『二日前』。

この誰も立ち入れないはずの箱庭に、彼らの運命を、そして別の世界へと向かう旅路を大きく変えてしまう【ある来訪者】が、突如として姿を現すことを。

チリひとつ残らず消滅していくこの世界の片隅で、彼らの物語は、その来訪者と共に新たな局面を迎えようとしていた。

迫り来る運命の日の足音は、すぐそこまで近づいていた。



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