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9 牙を剥く町

 朝焼けに包まれた丘の上。焚き火の残り火がぱちりと弾け、ボクたち三人は静かに町を見下ろしていた。


「……カルナス、か」

 ローレンが低く呟く。その横顔には懐かしさと、どこか警戒する色が浮かんでいた。


「穏やかそうに見えるけど……空気がちょっと重たい感じがする」

 サーシャが不安そうに隣に立つ。


「ここは表の顔と裏の顔がまるで違う。気を抜くなよ」

 ローレンは斧の柄を肩で鳴らす。


「大丈夫だよ。ボクたち一緒なら、どこだって進める」


 町の門へ向かうと、門番が鋭い目つきで声をかけてくる。


「旅の者か?身分を証明できるものはあるか?」


「……ローレンだ。昔、ちょっとだけ世話になっただろ」


 門番は眉をひそめたが、すぐに「ああ」と小さくうなずいて道を開けた。


「面倒起こすなよ。頼むから」


「こっちの台詞だ」



 町の市場は活気づいているが、サーシャの白髪と赤い瞳に人々の視線が集まる。

 誰かがひそひそと囁き、露店の主人も目を逸らす。


「……また災いが来た」「あの子、魔法使いだろう」


 サーシャはそっとうつむいた。ボクは彼女の手を握る。


「大丈夫、ボクは信じてる」


 それでも、サーシャの手は少しだけ震えていた。


 そのとき、通りの奥で大声が響く。


「コラ、ガキ!ぶつかったら謝れ!」


 乱暴な男たちが子どもを囲んでいる。サーシャは思わず駆け寄った。


「やめて、その子は悪くない!」


「なんだ、その髪……!やっぱり魔女だ、魔法使いだ!」


 一気に人垣ができ、誰かが「自警団呼べ!」と叫んだ。

 サーシャの体から淡い光が漏れ、魔力がほんのわずかにあふれる。


「やめろ、サーシャは……!」


 ボクが叫びかけた瞬間、ローレンが一歩前に出る。

 斧の刃を太陽にきらめかせ、重い声を響かせる。


「――悪魔扱いしたいなら、俺も付き合ってやる。この子が悪魔なら、俺は地獄の門番だな」


 自警団の男たちが戸惑い、武器を構える。


「こいつら、町の平和を乱す気か!」


「上等だ。斧を振るう理由は十分だぜ」


 一触即発の空気。だが、騒ぎの中心に一人の少女が割って入る。

 薬草を束ねた腰、茶色い髪、快活な声――


「ちょっとあんたたち、ここで騒いだら騎士団が来るよ!そこの三人、早くこっち!」


 少女――フィーナの誘導で、三人は人混みから抜け出す。



 フィーナの薬草店。香りに包まれた小さな部屋で、ボクたちはほっと息をついた。


「アタシはフィーナ。薬師をやってる。ここじゃ魔法使いは肩身が狭いけど、アタシは違うよ」


 サーシャは緊張をほぐし、微笑む。


「ありがとう、フィーナさん……」


「礼はいらないさ。でも忠告だけはする。カルナスの空気は今、最悪だ。何かが裏で動いてる。……“本当に守りたいもの”があるなら、この町には長居しない方がいい」


 ボクはサーシャとローレンを見て、強くうなずいた。


「分かった。でも、ボクは絶対にみんなを守る。どこに行っても」


 ローレンは斧を肩に担ぎ、ぼそりと呟く。


「俺もだ。……仲間だからな」


 夜の薬草店の奥、外の闇にはどこか怪しい人影がうごめいていた。

 新たな試練の気配が、すぐそこまで忍び寄っている――。

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