3 闇の中の出会い
シエルの穏やかな日々は、ある夜、突然終わりを迎えた。
村の北の森から現れた異形の魔物たちが、怒号のような咆哮とともに村を襲った。
家々が焼かれ、畑が踏み荒らされ、悲鳴が夜を引き裂いた。
「シエル、逃げろッ!!」
ユラじいさんの叫びが耳に響いた瞬間、シエルの視界は炎と涙で滲んだ。
リネばあさんの手が最後にボクの背中を強く押した――それが、最期だった。
何も守れなかった。何も、できなかった。
夜明け前の森の中で、シエルはただ、泣いた。
うずくまり、声を殺して、土に手を突っ込んで……それでもどうしようもない無力感に打ちのめされた。
そのときだった。
「……泣いてるの?」
不意に聞こえた、冷たくも不思議に澄んだ声。
顔を上げると、そこには――
真っ白な髪に、赤い瞳の少女がいた。
その存在は夜の中で異様なほど際立ち、まるでこの世界のものじゃないみたいだった。
村で見たことはなかった。でも、どこか懐かしさのようなものを感じた。
「……君、誰?」
「サーシャ。……でも、関わらないほうがいいよ。わたし、“悪魔の子”って言われてるから」
彼女はそう言って、かすかに笑った。
けれどその瞳の奥には、誰にも触れられない深い孤独があった。
「君が……魔物を呼んだって、言われてるの?」
「そう。わたしが来たせいで、村に災いが来たって」
サーシャはどこか達観したように語った。まるでそれが“運命”だとでも言うように。
でもシエルは、ふるふると首を横に振った。
「違う……そんなの、誰にもわかるはずない。君が悪いって、証拠なんてないのに……!」
その言葉に、サーシャの目が少し見開かれた。
「……どうして、そんなふうに言えるの?」
「だって……ボクだって、ずっとそうだったから。何もしてないのに、いじめられて……
誰も信じてくれなかった。でも――“誰かひとり”が信じてくれたら、それだけで、生きられたかもしれないから……!」
気がつけば、シエルは涙を流していた。
悲しみも、悔しさも、優しさも、全部がぐちゃぐちゃになってあふれていた。
しばらくの沈黙のあと、サーシャがぽつりとつぶやいた。
「……変な子。ほんと、変な子だね。そんなふうに言ってくれた人、初めて」
その言葉は、どこかあたたかかった。
ふたりは、その夜を一緒に過ごした。
焚き火の音だけが、森に響いていた。