6.賢者の召喚
調査隊が進んだ先、連邦の動向を探る旅は一層の緊張を孕んでいた。
山脈を越えて進むにつれ、エリオットはその目を鋭く光らせながら周囲の変化に敏感に反応していた。
その夜、突如として連邦の中心部と思われる場所から、一筋の強い光が天に向かってそびえ立ち、一瞬空を切り裂いた後、消え去った。
愛も克之も誠も、その光をしっかりと目にしていた。
「賢者の召喚だ。」エリオットは冷静に呟いた。
古くから連邦に伝わる言い伝えには、賢者の召喚の際に発せられる光について記されていた。
「連邦があの力を引き寄せようとしている。」
エリオットは沈黙し、しばらくその光の消えた場所を見つめた。
腹心のセオドアが近づいてきたのを感じ、彼に声をかける。
「セオドア、あれを見たか?」
セオドアは言葉を失い、ただ頷いた。「あれは…まさか賢者の召喚?」
「間違いない。」エリオットは断言した。
「あれは古い伝説に語られる賢者の召喚の儀式だ。連邦はその力を求めている。」
「賢者の力…」セオドアはその言葉を繰り返し、思案を巡らせた。
「もしそれが成功すれば、連邦の勢力はどうなってしまうのでしょう?」
「想像もつかない。」エリオットは答えた。
「連邦がその力を手に入れれば、状況は一変する。それを防ぐためには、今すぐにでも動かなければならない。」
セオドアは不安げに息を吐いた。「愛様たちには知らせますか?」
「現時点では、愛たちには知らせられない。」エリオットは冷静に言った。
「今はまだ確かではないし、彼女たちがどれほどの影響力を持つか分からないからな。」
その後、調査隊は再び連邦の動きに関する情報を集め、愛たちには何も知らせずに進行することとなった。
しかし、エリオットの胸には新たな疑念が渦巻いていた。連邦の賢者召喚の目的は一体何か?その力を手に入れれば、世界はどう変わってしまうのか。
その夜、再びキャンプが設営され、調査隊はひとときを休息にあてていた。
しかし、愛はエリオットとセオドアが昨夜の光について何かを隠していることに気付き、彼らがいつこの話を自分たちにするのか、じっと見守っていた。
(恐らく、彼らは私たちに話す気はないわね。)
愛は意を決して声を上げる。
「エリオット、セオドア、何か隠しているでしょ。」愛は冷静に言った。
「巻き込まれているのに、情報を隠すのはフェアじゃないわ。判断が間違うかもしれないでしょ。」
エリオットは少し驚き、そしてため息をついた。
「あの一瞬の光を見ていたのか…。すまない、君たちを巻き込むべきではないと判断した。」
愛はその言葉に反応し、まっすぐにエリオットを見つめた。
「何度も言うけど、巻き込んでおいて今更よ。私たちにも知る権利がある。」
エリオットはしばらく黙っていたが、愛の目を見つめ返して言った。
「君たちが知ることで、君たちの安全が脅かされるかもしれない。それが理由だ。」
その言葉に、愛は少し考え込む。
「あなたの言うことも理解できる。あなたの国王という立場もね。
でも、私たちはあなたの民ではないわ。守ってくれるのはありがたいけど、自分で考えることを放棄したいわけじゃないの。それは理解して。」
エリオットは少し黙り込んだ後、決意を固めた。
「分かった。今後はできる限り情報を共有することにする。ただ、君たちを巻き込みたくないという気持ちは変わらない。」
「賢者の召喚が行われた可能性がある。」エリオットは慎重に言った。
「賢者の召喚は、連邦が外部の敵勢力や内部の政治的な不安定を抱え、国家を守るために発動するものだ。永らく召喚は行われていなかったが、我が王国が女神の召喚を行ったことで、焦って行動に移したのかもしれない。」
愛はふと疑問に思った。
「何故、女神の召喚なんてしたの?」
その問いに、エリオットは少し間を置いてから答えた。「実は、我が国では長らく続いている伝統がある。国王が即位する際、もし伴侶がいない場合、女神を召喚する儀式を行うことが決まっているんだ。」
「それはどういうこと?」
愛は眉をひそめた。
「この儀式は、国が誕生した頃に設けられたものだ。当時、我が国は小さな領土で、隣国との争いが絶えなかった。そのため、王に適した伴侶を見つけることが難しく、国の存続を守るために、無理にでも王妃を選ばなければならなかった。」エリオットは少しの間、言葉を切った。何か胸の内に秘めた思いがあるようだ。
その時、克之がぽつりと言った。「そういえば、エリオットさん、何歳なんですか?」
誠も少し気になったようで、「俺も気になるな。もう若いとは言えないだろ?」と冗談めかして尋ねる。
エリオットは笑って答えた。「30歳だ。」
「そういえば、俺はまだ君たちの年齢を知らないな。」エリオットが今更ながら尋ねる。
誠は笑いながら答える。「じゃあ、教えてあげるよ。俺、24歳。愛と同い年だよ。」
克之も続けて言う。「俺は28。」
エリオットは少し俯き、けれどはっきりと謝罪する。
「俺よりも若い前途有望な君たちをこの世界に呼んでしまったこと、申し訳ない。」
「……あはは!思いつめすぎるとハゲるわよ。」
それまで黙っていた愛が陽気に口を開く。そう、起こってしまったことはどうしようもなく、今できることを考えるのが彼女の長所だ。
そんな彼女の明るさにエリオットは助けられた。
「だからこそ、女神の召喚に頼らざるを得なかったんだ。適した伴侶を見つけることができなかったし、政情安定が最優先だった。」
エリオットは再び話を続けた。
「国を背負い、共に同じ目線で歩んでいける女性がいなかった。それが俺が今まで伴侶を迎えなかった理由だ。」
愛は少し黙って考え込む。
「その理由なら、少しわかる気がする。」
「だからこそ、女神の召喚に頼らざるを得なかったんですね。」克之がしみじみとつぶやいた。
「女神の召喚もだが、賢者の召喚も、その儀式がもたらす利益と危険を真の意味で理解するのは難しいと思っている。」エリオットは改めて皆の顔を見ながら、静かに言った。
その言葉に、全員が沈黙し、夜の闇の深さだけが色濃くなる。




