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ヴィオラム様と

こんにちは。読んでくれてありがとうございます。これにて完結です。短い間でしたが楽しんでいただけたら嬉しいです。よろしければブクマ、評価、感想等いただけたら幸せです。

 ポーン、ポーンと大きな音が鳴っている。空は澄み渡っていて、遠くの音でも良く聞こえるだろう。


「花火だ。ティナ、行こうか」

「エリック、私……」


 花火は神殿の祝い事があるときだけ上げられるものだ。空は神の領域であることから、そう決められている。


「ティナ、自分で確認しなきゃ――」

「わかってるわ。でも、認められるのかしら?」

「当事者が皆認めているのに、反対できるものじゃないよ」


 当事者、ヴィオラム様、律様、そして私だ。


「アルティナ様、お時間でございます」


 侍女長のセリナとリスティの旦那様でもある騎士団長が迎えに来た。もう準備は整っているのだ。


「行きます!」


 エリックにはついつい身内の甘えが出てしまうけれど、王妃教育を受けている私はどれほど戸惑っていても顔には出さない。


「ティ……姉様。素敵だよ」


 いつものようにティナと呼ばず、エリックは姉様と呼んだ。


「エリック、ありがとう」


 私と似た顔で手を振るエリックはまだ成人していないので一緒に着いてくることはできない。笑顔に励まされて、私は階段を登っていく。高い場所、城のバルコニーで発表が行われる。そこに国王ヴィオラム様が待っている。律様、そして神殿の関係者がいるだろう。


 私は騎士達に止められることもなく、バルコニーに辿り着いた。途中でマルガル様にすれちがったが、彼は言葉なく私を見ただけだった。ヴィオラム様と仲直りしていればいいのだけど。

 私を見つけたリスルが飛んできた。彼はやっぱり神官服が似合っている。


「アルティナ様、どうされたのですか? 今日は……」


 ここ数日の間になれてしまった可哀想なものを見る目。私は視線をリスルでなく、私を見据えるヴィオラム様に移した。

 誰も、私達の邪魔などさせない。


「アルティナ、待っていた」


 私は差し出された手に操られるようにして歩み始めた。


「駄目です!」


 リスルの鋭い声、私を掴もうとする手、それらを無視した。ヴィオラム様はまるで宝物のようにそっと私に触れ、指先にキスするとマントで包むようにして私を抱きしめた。

 リスルも私を止めようとした他の神官も騎士団長に阻まれて指一本触れることができない。


「ヴィオラム様……」

「アルティナ……」


 私達の気持ちはこれだけで伝わっただろう。けれど、簡単に納得して引き下がってくれる神殿ではない。なにより神官長様が『自分が神官長のときに聖女様が降臨されたのは神様の思し召しなのだ』と張り切っている。


「陛下、神より下された聖女様を隣に置いて、そのような振る舞いは国民が誤解されるのでは」


 本当は『離れろ』と言いたいのだろう。言葉を選んだ神官長に、ヴィオラム様は冷たく強い視線を送った。言葉にしなくてもわかる。神官長に対してヴィオラム様は『俗物め』と思っているようだ。


「国王として言葉を伝える。国民には我が伴侶のお披露目が遅くなったことを申し訳なく思う」


 ヴィオラム様が声を張らずとも、このバルコニーで『国王として言葉を伝える』と言えば、この国に住む全ての民に伝わるようになっている。映像として頭に入ってくるので多分私の姿も見えているだろう。神が国王を任命したという神話が信じられているのはそのせいだ。

 城の庭に集まっている貴族達から「おお!」と歓声があがる。


「聖女、律。この聖女がやってきたのは私の結婚を祝福するためだと言う。律、国民へ挨拶を――」

「聖女を娶るのではないのですか」

「ここにある古書を見よ。そもそも聖女を王妃とすると決めたのは昔の王だということが書いてある。神が……というのなら、ちょうどここに神に会った人間がいるではないか」


 神官達の声もきっと届いている。国民たちは王の言葉に戸惑っているだろう。今日は聖女律様と国王ヴィオラム様の結婚の報告だと思っているのだから。


「ご紹介にあずかりました。神様に王妃を癒すようにと派遣された聖女です」


 庭からどよめきが起こった。


「聖女様! 何を――」

「神官達が何を願っているのかわかっていますが、私には使命があるのです」

「使命は――」

「王妃となられたアルティナ様を癒すこと。残念ながら私が命じられたのはそれだけなのです」


 聖女様はそういう設定に決めたのだ。子供だけ治せるということにしても大人が納得しないからだ。気付かれないように治していくことにしたらしい。


「それでは聖女とは言えないではないですか!」


 神官達の声に怯まず、聖女様はいつもの飄々とした顔で頷いた。


「だから私は来た時から言ってるではないですか。聖女ではないと」


 その場は騒然となった。それをおさめたのは騎士団長様だった。


「この場より神官の立ち入りを禁ず」


 別段暴力を振るうこともなく、騎士団長の声に従った近衛騎士の先導によって神官達は下がっていった。リスル様は一瞬抗ったけれど、ヴィオラム様の腕の中にいる私を見て肩を落として去って行った。

 リスル様、哀れまれても私は困るのです。私はそんな目で可哀想にと見られながら生きていくくらいなら、一人で生きていくことを選ぶでしょう。その優しい気持ちをどうか神に助けを求めてくる民にお与えくださいと後ろ姿を見送った。


「聖女が来たと喜ぶ国民達に水を差したくはないが、事実なのだ。私の妃となったアルティナは、小さな身体だが災害が起こったと聞けば救援物資を募り現地に駆けつけ配給を配るような行動的な人で……、神様は心配なさったのだろう」

「小さいは余計です」


 ヴィオラム様にだけ聞こえるように反論した。救援といいながらも食べ物を配るしかできないのに(させてもらえない)自慢げにいうことでもない。


「私はアルティナ様しかお救いできませんから聖女の称号及びそれにともなう権利をお返しいたします。これからはアルティナ様付きの医師として皆様にお会いすることもあるでしょう。よろしくおねがいいたします」


 聖女様、いや律の言葉に戸惑いながらも眼下に見える貴族達から承認したように拍手が起こった。


「アルティナ、挨拶を――」


 私はヴィオラム様に微笑み、頷いた。


「国王陛下の妃、アルティナでございます。わたくしは国王陛下と共に歩み、この国によき神の祝福を賜らんことを願います」


 天の神様、色々申し上げたいことはありますが、心配してくださってありがとうございますと、心の中で言った。本当に言いたいことは山ほどあるけれど、あのことがあったからヴィオラム様との関係も昔と少し変わった。自分の意志を伝えることができるようになった。だから、ありがとうと心から感謝している。心配性の父親が増えたような気分だ。

 私が空に向かってお辞儀をした瞬間、神様がいる天から虹がかかった。上から下へ降りていく虹に驚きの声が上がる。


「神様が、アルティナ様を祝福されたのだ――」


 誰の声かはわからない。けれど、その声につられて歓声があがる。


「綺麗……」

「そなたの方が綺麗だ――」


 この瞬間に虹でなく私を見つめるヴィオラム様。そこには私への愛情が溢れた笑顔があった。


「神様も粋なことするじゃない」


 弾むような律の声。

 人々の興奮は醒めやらぬまま、その日、王国に新しい王妃が誕生したのだった。

                                     終わり

久しぶりの健全TL楽しかったです♪ もうちょっと書きたい気もしますがイチャイチャしてるだけのような気もしますし笑。

年の差、体格差cp好きなんです☆読んでくれてありがとうございしました。


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