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旦那様はゴリラ系  作者: 夕焼け
2/2

後編

相変わらずの雑い設定でお送りします

 ──ゴリラじゃない



「なんですって!? 村の人達は貴方達ほど大きくないし筋肉もムキムキじゃない。滝から落ちても無傷な丈夫な体を持ってないわ。それにどっからどう見てもゴリ……」


 シャナイアはフィリップの鋭い視線に最後まで言うのをやめた。


「えー、ごほん。あの、お腹空いてない? 口に合うか分からないけど、食べ物を用意したの。食べながらどうして貴方達が滝から落ちてきたのか説明してくれない? ほら、まだ服も濡れてるし乾かした方がいいわ」


 シャナイアは騎士ゴリラ二人を焚き火の方へ誘導し、さっき焼いた子豚の丸焼きを切り分けた。



「これはどうやって食べるんだ? 皿に乗ってないぞ。ナイフとフォークは?」


「皿? これがそうだよ。ナイフ? フォーク? 手で食べるのよ」


「皿の代わりに草!? ナイフとフォークも無くて手で食べる!? だいたいこれは何なんだ!? 子豚の丸焼き? 野蛮過ぎる!!」


 フィリップが悲鳴をあげてる隣でロバートは豚足を口に頬張っていた。


「シャナイアの手料理、バナナの次に美味しいよ」


 ロバートは褒めてるのか貶してるのか分からないコメントをした。


「子豚の丸焼きは嫌い? じゃあ、こっちのピラニアの塩焼きは? あ、もしかして虫を食べるの? 虫はどれが好きか分からなくて色々揃えるの大変だったんだ」


 シャナイアは捕まえてきた虫を葉っぱの皿いっぱいに並べてフィリップに差し出した。


「ぎぃやぁああああああ!! よせ!! 俺は虫なんて食べない!!」


 フィリップは泡を吹いて倒れた。


「ゴリラって意外と繊細なのね」


「ゴリラじゃなくても虫は食べないと思うよ。それよりバナナはないの?」


「バナナ?」


「そう、バナナ」


「ごめんなさい。バナナは時期じゃないからないの」


「そうか。そういえばそうだった。ウルベルクでは品種改良で一年中バナナが収穫出来るようにしたんだった」


「バナナ好きなの?」


「バナナを嫌いな奴がこの世に居るとでも?」


「一人くらいは居ると思う」


 バナナ談義をしながら、フィリップが気絶している間にロバートは自分達がここに来るまでの出来事をシャナイアに話した。




「そんな事があったの。大変だったのね。ってことは、もしかして野盗が一人この近辺をうろついてるかもしれないの?」


「大丈夫。シャナイアの事は俺が命を懸けて守るから」


 子豚の丸焼きをほぼ一人で平らげたロバートは彼女に精一杯アピール(ドラミング)した。


 シャナイアはロバートの食べっぷりに感心しつつ、どうやって結婚してもらうか考えた。


バナナで釣る? でも今はバナナが手に入らないわ。


 結局、いい考えは思い浮かばず正直に話すしかないかと思い始めていた。


「ところでシャナイア、俺達の事情は話したから今度は君の事が知りたいな」


「私の事?」


「そう。命の恩人である君の事が知りたいんだ。好きな物とか、家族構成とか。あと、カトイ族の言葉も教えて欲しいな。家族になるなら嫁の部族の言葉の一つも喋れないなんて恥ずかしいもんな」


 ロバートは自分の願望をさり気なく入れながらシャナイアに聞いた。

 隣で倒れてたフィリップは覚醒しつつも、ロバートの暴走を止めるまでには回復してなかった。


「カトイ族の言葉?」


「そう、最初に両手を挙げて声を掛けてくれた時の」


 ロバートはその時の再現をして両手を挙げた。


「カトイ族に独自の言語はないよ。あれはゴリラ語があるなら、あんな感じかなってやったの」


「ゴリラ語」


「そう、ゴリラ語」


「もう一度言うけど、俺はゴリラじゃないからね。それと一応聞くけど、そのゴリラ語で何て言ってたの? もしかして愛の告は」


「いや、普通に挨拶だけど。私は敵ではないって両手を挙げて」


「お前がゴリラみたいだからゴリラに間違われたんだろ」


 やっと虫ご飯ショックから回復したフィリップが横から口を出した。


「この俺のどこがゴリラなんだ!? どっからどう見ても騎士だろう」


「いや、ゴリラです」


「ほら見ろ、シャナイアさんだってゴリラと言ってる」


「二人共ゴリラです」


「「…………」」


「そんなゴリラな二人に聞いてもらいたい話があります」



 ゴリラショックを受けて固まってる二人を無視してシャナイアは村の現状、そして精霊達との約束を全て包み隠さず話した。そして頭を下げた。


「お願い、私と結婚して」


「喜んで!!」


 ここではない異世界の居酒屋店員みたいな返事をロバートはシャナイアの両手を自分の両手で包んで食い気味で言った。


「やっぱり、いきなり今日会ったばかりの人と結婚は無理…………え!? そんな簡単に決めていいの?」


「ああ。シャナイア、結婚しよう。俺も君を一目見た時から惹かれてた。まさか二人が同じ気持ちだったなんて! これは運命だったんだ」


「え!? え!?」


 シャナイアはグイグイくるロバートに引き気味だ。

 まるでキングコングに襲われてる娘みたいだ。



「おい、ロバート、いつ誰がお前と同じ一目惚れって言った? シャナイアさんは村のために結婚して欲しいって言ってるんだ。耳までゴリラになったか」


 フィリップは呆れて言った。


「そんな事は分かってる。それでもお前と俺のどちらかと結婚しなければならない二択で俺を選んでくれたんだ。それは俺に惹かれたからだろう。それに耳までゴリラって何だ! ゴリラは何でもありなのか!」


「お前が選ばれたんじゃない! お前が迫ったんだろうが!!」


「フィリップ、さては俺とシャナイアの仲を羨んでるな? それで俺をゴリラに仕立て上げて遠ざけようと……。悪いがいくらお前でも彼女は譲れない」


「いつ、俺がお前と彼女を取り合う流れになったんだよ!! いい加減、その頭の中の万年花畑を焼き払うぞ!!」


「なんだと!? 毛根が焼き切れて死滅したらどうする! それに俺の頭は花畑じゃなく常にシャナイアの事でいっぱいだ」


「余計に悪いわ!! そしてお前の毛根なんて死滅しろ」


 二人のいつもの言葉の応酬を初めて見たシャナイアは面食らった。

 直ぐに正気に戻り、ロバートの言葉を思い出していた。



 あっさり結婚を了承してくれた。

 帝国の騎士は人助けで結婚するのかな?

 それともロバートさんだから?

 もしかしてバナナが食べたくて結婚を? いやいやいや、なんか私の事を好きだと言ってたような……

 好きとは言ってなかったな、でも、これで一族は救われる。

 とりあえず結婚しなきゃ。



 シャナイアは一族を救う事しか頭になく、一番大切な事を忘れていた。



 シャナイアは言い争ってるゴリラを放置して族長の所へ向かった。

 精霊達との約束と結婚の事を伝えるために。



 カトイ族の族長はシャナイアの話を聞いてすぐさま結婚式の準備をするように村中に伝達した。

 シャナイアの結婚が一族を救うからだ。



 急いで準備を始めて一週間後


 村をあげての結婚式が行われた。


シャナイアはウルベルク帝国騎士団第一団長ロバートと結婚した。






 ──しかし雨は降らなかった。





 精霊達との約束で滝での会話の後、最初に出会ったモノ(精霊も確認済)と結婚したのに村には一滴の雨も降らなかった。



「どうして……」



 シャナイアは精霊達に何度も声を掛けたが言葉が返ってくることはなかった。




 一族はシャナイアの巫女の力が無くなったと判断し、シャナイアを責めた。


 ─雨が降るというからウルベルク帝国の騎士を一族に迎え入れたのに。

 ─このままでは帝国に村が占領される。

 ─ゴリラにバナナが食い尽くされる

 ─その前に飢饉で皆全滅だ。



 沢山責められたがシャナイアは言い返すことはしなかった。


 ただ、精霊達に裏切られたショックで何も言えなかったのだ。




 そんな中、ロバートは彼女を守るように傍を離れなかった。


 シャナイアは精霊の滝で拾ったゴリラ、ロバートの事を考えた。

 運命のようにシャナイアの前に現れたゴリ……じゃなく騎士は、シャナイアの突拍子も無い願いを引かずに、むしろノリノリで応えてくれた(逆にシャナイアが引いた)。


 辺境の力のない少数民族、周りからは蛮族と罵られてるカトイ族。

 そんなカトイ族の小娘のおかしな言い分を真面目(?)に聞いてくれた。そして本当に結婚してくれて毎日シャナイアを大事にしてくれる。

 シャナイアが一族のために結婚したと分かってるから彼はシャナイアの気持ちを優先して彼女には指一本触れてないのだ。


 精霊の約束で結婚したのに雨が降らないことも彼は何も言わなかった。

 シャナイアを責める所か自分は素敵な女性を嫁にしたといつもにこにこしている。


 そんな紳士ゴリラ、ロバートにシャナイアは少しずつ心を傾けていった。


 出会ってまだそんなに時間が経ってないのにシャナイアは精霊との約束抜きでロバートために何かしたいと思い始めていた。



 ロバートはシャナイアと結婚してから帝国騎士団の第一団長から辺境騎士団長となり、カトイ族の村と国境を忙しなく行き来していた。


 ウルベルク帝国国境の騎士団詰所にロバートはいつものように団長室で報告書を読んでいた。

 これといって変わりない報告書。ただ、あの大討伐で取り逃がした野盗が未だに捕まってないのが気掛かりだった。



「相変わらずここは品位の欠片もないな」


「嫌味を言いに来たなら帰れ」


 団長室にノックもせずに入ってきたフィリップにロバートはしかめっ面で返した。


「辺境で嫁を貰ったお前に代わって中央の手続きを全て引き受けた超絶いい男の俺に随分な言い草だな」


「はいはい。俺は素晴らしい友を持って幸せだよ」


 応接用の長椅子にドカッと腰掛けたフィリップにロバートはおざなりに答えた。


「そういえば、俺達が取り逃がした野盗は、まだ捕まえられないのか」


「ああ。森に潜んでるみたいでな。チラホラ目撃情報は入るのだが、逃げ足だけは素早くて。一応森には入るなと近隣住民には通達してる」


「カトイ族にもか? 日照りが未だ続いて森で狩りやキノコを採らないと食べていけないだろう」


「カトイ族は死活問題だから一人で森に入らないように伝えてる」


「なら、安心か」


「お前がシャナイアの事を言うから会いたくなったじゃないか。もう今日は仕事切り上げて帰ろ」


「どこにシャナイアさんの事が出てきた!? カトイ族か? カトイ族なのか? こじつけ過ぎるだろ!! 人のせいにして帰るんじゃねーよ!」



 ロバートとフィリップは何だかんだ言いながら詰所を後にした。

 二人共シャナイアに会いたいのだ。





 その頃、シャナイアはフィリップが結婚式ぶりにこちらを訪ねてくると聞いていたので、歓迎のお菓子を作ろうと材料を採りに出掛けていた。


 体が大きいから沢山果物が必要ね。

 籠を持ってきて正解だった。

 確か、まだオレンジが実っていたはず

 バナナがないのが残念だわ。

 一人で森に入るなってロバートに言われてるけど、少しなら大丈夫かな。

 直ぐに戻るし。


 シャナイアは森の奥へ進んで行った。




 籠いっぱいに果物を入れてシャナイアはいくつお菓子を作ろうかと献立を考えていた。


 タルトに焼き菓子、ジャム、喜んでくれるといいな。

 雨が降らなくて穀物が厳しいけど、フィリップさんが来てくれるんだから、ちょっぴり贅沢しよう。


 はあ、どうして精霊達は約束を破ったんだろう。私は、ちゃんと結婚したのに。

 何か間違ってたのかな?


 シャナイアは精霊の滝での会話を思い起こしてみた。


『僕達はいつでもシャナイアの傍にいるよ。どちらと結婚してもいいけど、僕達にも感情があるように相手(ゴリラ)にも感情があることを忘れないで……』


 結婚は双方の気持ちで成り立つ……

 あの時そう気付いたんだった。

 お互いの気持ち。お互いの……


 シャナイアは考え事に夢中で近づく背後の影に気付かなかった。





 ロバートとフィリップは念のため、森を巡回しながら家に帰ろうと森の中を歩いていた。


 ロバートは既に慣れた道のりをさっさと歩いていった。


「おい、ロバート。お前、俺を家に招待する気ないな」


「誰が招待すると言った」


「はあぁぁ!? 結婚の証人になった親友になんて冷たいんだ! お前、だから俺を撒こうとさっきから森をジグザグに歩いてるな!」


「ちっ」


「どんだけ独占欲強いんだよ!」


 森のゴリラ二匹はお互いを威嚇しながら森の出口を進んでいた。




「きゃあああああああ!!」


 森の出口の方から悲鳴が聞こえた。


「あれはシャナイアの声」


「行くぞ、ロバートって! もう居ないし!!」


 ロバートとフィリップが悲鳴の聞こえた所まで急ぐとそこには、以前、取り逃がした野盗がシャナイアを人質にして刃物を突き付けていた。



「シャナイア!!」


「おっと! こいつの命が惜しかったらおかしな真似をするんじゃないぞ」


 野盗がシャナイアの首に刃物を近付けた。


 じりじりと野盗とゴリラ達の距離が離れていく。

 野盗は戦っても勝ち目がないのは分かってるのでこの場を逃げようと必死に様子を伺ってる。




 シャナイアは死ぬかもしれないと感じて初めて自分の気持ちに気付いた。


 ロバートと精霊の約束で結婚したけど、彼の元からいなくなるのは嫌だ。

 もっとずっと彼と一緒にいたい。

 彼と共に生きていきたい。


 ロバートの事が好き……



 シャナイアはロバートを残して死ぬのが嫌で涙を一粒落とした。




 ゴッ


 暴風と共にシャナイアにナイフを突き付けていた男が一瞬で消えた。


 ロバートが手に持っていたバナナを力の限り野盗の顔に向けて投げつけて吹っ飛ばしたのだ。


「俺の嫁に汚い手で触るんじゃねえ!」


 ロバートは吹っ飛んだ野盗を無視してシャナイアの元へ駆け寄った。


「シャナイア!! 大丈夫か!? 怪我は!?」


 あっという間の出来事に茫然としているシャナイアにロバートはどこか異常はないか確認し、無事と分かるとほっと息をついた。


「おい、今の時期、カトイ地方にバナナなんてあったか? つか、どこから出てきた!? バナナは武器じゃありません!」


 フィリップはバナナアタックを受けて気絶してる野盗を縛り上げながらロバートに文句を言いながら聞いた。


「オヤツ用に中央から取り寄せたんだ。腹が減っては戦はできないから常に最低一本は携帯してる」


 ドヤ顔で言うバナナ狂にフィリップはドン引きだ。


「これで取り逃がした野盗も全員捕まえたし安心だな。フィリップ、後で報告書頼む」


「はあぁぁ!? 辺境騎士団の仕事を何故俺が!? お前の仕事だろう」


「俺は野盗に少しの間でも怖い思いをさせられた可愛い可愛い嫁を慰める仕事があるから無理」


「ふざけんな!! 俺だってシャナイアさんの野性的な料理を楽しみにしてわざわざ辺境まで出張してきたのに!」


「お前は一体何しに来たんだ。仕事しろ仕事。俺の可愛い可愛い可愛い嫁の手料理は俺の物だ。いくらお前でも渡さん」


「お前こそ仕事しろ! 嫁ばかりにうつつを抜かすな!」


 相変わらずのゴリラ同士のじゃれ合いにシャナイアは、やっと落ち着く事ができた。





「私……ロバートの事、精霊との約束とか関係なく好き」


 ぽつりと今まで自覚してなかった思いを言葉に出した。そして、シャナイアは自分の気持ちに素直になってロバートに抱き着いた。


 ロバートはシャナイアの行動に喜びの雄叫びをあげて抱き返した。



 結婚は一方的ではなくお互いの気持ちが通じてするものだと精霊達の言っていた事が真の意味でやっと分かったのだ。


 ロバートだけじゃなく、自分も相手を思う気持ちがないとダメだと。




『おめでとう シャナイア』




 本当の夫婦となった二人に精霊達が祝福の雨を降らした。




精霊達の祝福の雨で村は救われました。(めでたしめでたし)

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[良い点] 結婚後の嫁すら『ゴリラ』って言い切ってて笑った。 世紀末救世主みたいな絵柄でイケメンを想像すべきなのか、顔の皮膚だけペールオレンジのミッキーマウス方式ゴリラで想像すべきなのか…ずっと脳が混…
[良い点] 脳筋ゴリラの良さに気付けた点 [一言] みんな軽妙で可愛くて楽しめました! 明るい気持ちにしていただいたことに感謝を(*^^*)
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