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新宿二丁目の男の娘   作者: 小鳩
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第43話

 カメラを構えることもほとんどせず、第二部は過ぎていく。ただコスプレをしている皆を眺めながら、スタジオの隅っこにたたずんでいる勲。「なんなんだアイツ」という目で見られながらも、それに意にも介さず、ただただ彼女らの女性としてのコスプレイヤーとしての振る舞いを見ていた。そして時間は過ぎる。


「はーつっかれた。みんなもお疲れー」

「お疲れ様ー」

 二部も終わり、参加者のカメラマンは全員帰り、残ったのは主催側関係者のみ。スタジオのレンタル制限時間まで1時間弱。簡単な打ち上げを行っている。既に着替えも終わり全員素に姿に戻っている。勲も当然勲のまま。イサミにわざわざ戻るわけもないが、なぜか輪の中にいるものの借りてきた猫のように大人しい。というよりは、何か神妙な面持ち。

「どうしたイサミちゃん?」そんな面持ちに気付いた真白が声をかける。

「もう勲ですってばよ」

「どうしました、神妙な面持ちして。トイレですか?」佑奈も聞いてみる。

「お通じはいい方なので」それぞれに返すだけの神経は張り巡っているようである。

「皆さん見ていて思ったんですけど、やっぱり僕は男なんだなって…」

「は?」全員口を揃えて「その発言の意図、わかりかねます」という意味の言葉を返す。

「とうとうおかしくなったか」珍しくマジで心配そうな顔をする真白。

「熱、ないですか?」勲の額に手を当てる佑奈。

「正常ですし熱もないですよ」

「女装コスのし過ぎで自分を見失いかけたかな?」志帆が別の説を唱える。

「それもないですけど…」

「じゃあ一体」

「例の件、デートのための武者修行。武者? 違うな、何修行だろう…」どうでもいいところで悩む勲。

「そこはいいから」

「まぁいいか。二丁目で会ったあの人に頼まれて、僕は女の子の格好でデートするわけじゃないですか。でも、無理かなって」

「無理?」

「はい。どう頑張っても女性に成り切ることは出来ないと感じました、みなさんを見ていて」

「ほう」

「例えば性同一性障害とか、体と心が一致していない人ならば、自然と女性の振る舞いもできるでしょうけど、僕のはうわべです。自分の趣味で女装していて成り切ろうという意志もあるんだったら、また違ったと思いますけど。遊び半分はそういう方にも失礼かなって」

「ふむ」黙って聞き続ける他のメンバー。

「皆さんの素とコスプレイヤーの状態を僕は両方見させてもらいました。それを見て、どうやって本心を隠して別の自分で人に対応するか、それをずっと見ていました。純粋にすごいって思いました。嫌いかどうか直接聞いたわけじゃないですけど、嫌なことをあれだけの笑顔でスルーしてやり続ける根性、僕にはないです」

「なるほど、そういうことだったか」

 どうやら、女性に成り切ることに対しての不安というより、デートの際にもう一人を演じること、それに対する自信がないようである。

「何かに成り切るってすごいですね。僕どうしても地が出てしまいますね。演技とかできないタイプだなーってのは昔からわかってたんですけどね」

「十分できてると思いますけどね、前のイベントといい」

「いえ、随分ボロ出してみんなに助けてもらってますよ」

「じゃあどうするの、デート?」

「断ろうかなって。やっぱり失礼ですよ、というか自分が納得できないです。それに皆さんいないところ一人でやり切る自信は全くといってないです。ゼロに近いかも」

「そっかー。がっかりするだろうなぁあの人」

「来週にでも、直接は無理かもしれませんけどヨーコさんのところ行ってきます。もし会えるなら一回くらいお酒は付き合おうかなって。いや、飲まないですよ?」

「ま、ダーリンがそういうなら私たちは止めないけどね」

「じゃあもううちの店のヘルプも無理かー」志帆がちょっとがっかりした感じでこぼす。

「あの時だって、バレてますからね。何とかしましたけど…」苦い思い出がまた蘇る。

「どっちにしても、向いてないってことですよ」

 もろ手を挙げて背伸びをして声に出す。結論が出てしまった。今まで楽しんでいた佑奈と真白、志帆も少しだけさみしそうである。

「衣装はあるんだから、せめてそれは無駄にしないでねダーリン」

「ま、まぁ身内だけならやらなくもないですけど…」

 何とか引き留めようとする真白。その横で今度は佑奈が神妙な面持ちになっている。

「このままでは終わらせない。あの手を使いますか」

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