第41.5話
私服に着替えイサミから勲に戻る。女性陣は二部に備えて化粧直しや衣装調整の真っ最中。部屋を追い出され下で志帆の連れのカメラマンと二人待ちぼうけを食らっている。とはいうものの、カメラマンの連れは機材整理やデータチェックなど、寡黙に自分の役目をこなしている。それを横目に除く勲。
「…、興味ある?」
「あ、いえ。ごめんなさい覗いちゃって」
「いいさ。自分の写真でも見てみるかい?」
「それは、今は心の準備ができていないので遠慮します…」
「なら。どう、少しはこういうジャンルに慣れた?」
話してみると割りとすらすら言葉の出てくる人だなと感じる勲。志帆とはよくしゃべるものの、彼自身と直接面識はなく、会話を交わすための話題もなく、今まではただ用件のみくらい一言二言しか話したことのない人物。
「そうですね。慣れちゃまずいんですけどね、アレに」
「確かに」
「あぁ、すいません。お名前も聞かずに」
「そういえばそうだったね。柏木かしわぎといいます。町村くんだよね」
「はい。えっと、柏木さんってどうしてこういうことやってるんですか? というか、どうやってこの世界に」
「私は元々写真が趣味でね。電車とか風景とか撮っていたんだ。こっち関係は全く知らぬ存ぜぬの業界だったんだよ。いつだったかな、知り合いに連れられてコミケにいって。そこで初めて撮影してね。そのときかな、志帆さんが変なカメラマンに絡まれていたのを助けたのがきっかけで。そこから専属みたいになった、そんな感じかな」
「へぇ、漫画みたいな出会いですね」
「だろう。でも別に付き合っているわけじゃないからね」
志帆もいっていたことだが、やはりこの二人はあくまでビジネスライクな付き合いにとどまっているようである。それを双方理解したうえでの付き合い。この業界、割とこういう関係が多いのかもしれない。なんて考えている。
「今でも好きなのは自分の趣味のほうだからね。こっちはあくまで頼まれてやっているって感じ。別に嫌々やっているわけじゃないから構わないし、時間を持て余すくらいなら、ね」
「へぇ」勲が問うと10は返ってくる。割りと話し好きなのかもしれない。
「これなんか、私が撮ってる写真の一例だよ」ノートパソコンをこちらに傾け、自身の作品を勲に見せてくる。
「うわ、すっげぇ」
そこに写っていたのは、一枚の蒸気機関車の写真。プロとアマの境界がどこにあるかなんて専門的なことは何一つわからない勲だが、その一枚は確実に「プロ」が撮ったといっても過言ではない作品だった。
「すごいですね」
「もともと鉄道が好きだからね。動いているものを撮る方が好きなんだけど。コスプレはあんまり動かないからなぁ。あ、これ志帆さんには内緒ね」
「はい」
「で、町村くん」
「はい?」
「君はやっぱり女装が好きなのかい?」
「それは大いなる誤解です」やっぱり多少誤解されていたらしい。




