第27話
「デートぉ??」
勲以上に激しく反応したのは上の三人だった。階段から転げ落ちんばかりに身を乗り出し、勲への告白にやれ嬉しそうに、やれ本気で驚いてと、反応は様々。当の勲は顔をカウンターに突っ伏したまま、器用に目線だけあっちこっちと動かしている。
「はい。今日だけで十分満足できると思ったんですが…」
なぜか勲ではなく三人に話し始める中村。いや、当事者じゃないんですけど。今はただの「賑やか士」にジョブチェンジ中なんですけど。
「しかも、その恰好って…」志帆が勲を指差す。
「はい、女性のままで構いません。惚れました」
「惚れ???」
「たしかに、私は町村さんを男性として好意がありました。ですが今日の格好を目にして、最初は驚きましたが…。悪くない」
「は???」
「最近女装男子なるものが世間では流行っていると聞きましたが」
「いや、そうでもないですよ」
「彼は本当の女性にしか見えない。ちゃんと内面は男の人で、彼はノンケでしょうが。それでいてこの美しさを醸し出せる。只者ではありません。素晴らしいじゃありませんか、全てを満たしてくれる存在!」
「はぁ…」
「たしかに僕は男の人しか愛せない、社会ではマイノリティーな人間です。ですが、その心を動かした町村さんの女性姿。一度でいいから普通の男性のように男女の付き合いをしてみたい!」
「だから、コレ男ですって」
ここまでのツッコミ、相づちは全て志帆。他二名はずっとニヤニヤしながら中村の熱意を聞いている。たぶんもうなんかよからぬことを考えている。
「お願いします! 是非皆さんからも一日、いや、数時間でも構いません。私に夢の体験をさせてもらえるよう町村さんにお願いしてもらえないでしょうか!?」
土下る中村。
「いや、私たちが決めていいことじゃないんで…」
「善処しまーす!」喜々として返事をする佑奈と真白。
「はい!?」
「ありがとうございます!」
「本人の意思は?」ない。
「プランはそちらにお任せします。こういうことには慣れていないもので。あ、ご連絡はまたマスターを通してで構いませんので」
「わっかりましたー!」
「…、ごめん。かばいきれなかったよ」
いつの間にか意識のない勲に詫びる志帆。そして4人は帰路に就く~。
「どこに行かせましょうか?」
「ネズミーでよくね?」
「ベタですけど、それでいいですかね。年間パス買ってもらいましょうか、この際」
「何回付き合わす気さ」
既にデートプランを勝手に練り始めている二人。勲が起きたころには恐らく綿密に練られたデートコースが完成していることだろう。
「でも、撮影会に出す意味は?」
先のことはもうよしとしよう。自分主催の撮影会に参加させるといわれた志帆。その真意を二人に尋ねる。
「ねえさん、その撮影会だけど。当然一般のカメコ来るよね?」
「うん、もちろん。会費制で参加募ったヤツだよ。何人くらいだったかなぁ、20人はいたはず」
「なら余計にオッケー。ダーリンには身も心も女になってデートに備えてもらう」
「はぁ」だと思った。
「撮影会に来てもらうのは構わないんだけど、衣装はどうするの? 前は佑奈ちゃんの着れたからいいだろうけど、今はもうちょっときついんじゃない?」
そう、あの日以来男の娘化はするものの、コスプレという行為はしていない勲。背が伸びて佑奈の衣装はもうきついこと請け合い。さて、どうやって参加させるのか微妙なところである。
「ご心配なく、ぬかりないです」手は打ってあった。
「え?」
「冬コミのROM用に、実はメグルさんに頼んであります。もちろん町村さんはこのことを知りません」
「勝手すぎる…」
もう「この二人と別れて私と付き合わない?」といいたくなるほど勲を不憫に感じている志帆。でも、それはそれで面倒そうなのでやめておく。この二人がグリコのオマケとして付いてくるわけだし。落ち着いた大人の付き合いは望めない、やらなくてもわかる。
隣の部屋では何も知らない勲がうなされている。




