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【完】神様は嘘つき  作者: バひ゛ろン
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9.神の再来と傍らに立つ赤い飯

 静寂に息苦しさを感じるようになったのいつからか?

返事も無く吐いた言葉が独り言となってしまうのを恐れ、ただジッと黙り込む永遠のサイクル。


そして不意にそれを破る聞き慣れない声。

「もしかして後悔してる?」

籠もったようでいて聞き取り辛くあるそれ。


その声を追う様にスッと顔を上げると、いつの間にかそこに見覚えのない男が立って居る。

しかも酷く肥満体の。

「…誰?」


ふとこぼれる私の問いに男は

「神さ。さすがに信仰は貧乏神に劣るけど、知名度ならおんなじくらいじゃないかな?」

と答えると、此方へ背を向けて部屋の奥へと進んでいった。

その通路の先の扉を透き抜けるさまは正に人ならぬ者の所業だった。


「ちょ、おい!待て!」

お構い無しに突き進む男を追って扉を開け放ち、

「豚の神なんて聞いたことないぞ!」

と思わず悪態をつけば


それは

「ちょ、誰が豚だよ?んな信仰受けてねーよ」

と不満げに漏らし、やたらとキャラ立ちした様を見せる。

なんというか、ひきこもりやニート、ヲタクといった言葉が似合いそうな典型だった。

それから彼は一度咳払いをしやると

「僕は疫病神。怨みや妬み…他人の不幸を願う、人の負への信仰より生まれた誉れ高き神だ」

と自己紹介もひとしきり

「で、たった今から僕が君の同居人さ」

と信じられない──いや、信じたくもない言葉を告げるのだった。


──代わりに肉質の重厚なむさ苦しい男性が


そうふと思い出したのは初めて貧乏神と会ったあの日、彼女が冗談の如く返した脅し文句。


──さも当然のように同居することになりますが


眼前で胡座をかいて座り込む疫病神の姿を見やりながら私はそっと

「そうか…願ったんだったな…」

と呟いた。

まさか勢いで吐き捨てた言葉が願いとして叶えられているなんて。

しかもその代償はあまりに重く、かつて聞いた話の風貌に疫病神という上乗せ振り。


──よろしいですか?


(よろしくない!)

と過去の記憶に反感を抱きつつ

「今すぐ出ていけ」

と私は彼に告げた。


だが返ってくるのはいつかに同じく、暗に拒否をほのめかす脅し文句。

それもかつてより重く

「代償は不治の病ね」

という問題外の内容。

「お勧めは出来ないけど…どうする?」

続けざまにそう問い掛けてくる彼の口元には卑しな笑みが浮かんでいた。

それがあまりに気味悪く、私は直ぐに釣り合っているとは思えないと反論するが

「そんなことないね」

と彼もまた直ぐ様にそれを一蹴。

「僕が消えて不治の病にかかるか、僕が寄り添って災厄を招き続けるか…そう考えるとほら、大差ないだろう?」

と醜悪なほどにふてぶてしいさまを見せて

「だけどぉ、叶えてあげるつもりないんだけどね」

と嘲笑をこぼした。

「ここはもう僕のものだからさ」

と。

「誰にも渡すつもりはないよ」

と。

その後で彼は

「まぁ安心しなよ。死にたくなるほどのことはあっても、直接死ぬようなことはないようにしてあげるからさ」

と素直に喜べるわけもない劣悪な優しさの寄贈を宣言し、

「あ、そうそう…名前、呼んでくれてありがとね」

と満面の笑みで発した。


その言葉の意味は分からなかったが、そのさまを目の当たりにし、背筋も凍るほどの怖気を感じたのは事実。

なるだけ彼の側には居たくないと思った私は、家を飛び出すように慌てて島さんの下へ向かった。


一応に出掛けてくると一言を残して。

愛用のスクーターにて。


 道すがら脳裏に浮かんでいたのは何よりも不安や焦燥。

だが、風を切り、次第に家から離れていくにつれ、段々と落ち着いた思考の数々も浮かんできた。


(こんな時間に行って驚かれるだろうか?)

とそれは、普段ならまだ就業中の時間であるからして。

(変に勘違いされても困るしな…)

とそれは、別に仕事を放り出して想い人の下へ向かっているわけではないぞ!という事実を込めて。

その半ば

「あ」

と不意に一音を漏らし、

(手ぶらじゃ悪いだろうか?)

と仕方なく私は見舞いの品を持って伺うことに決めた。

(しかし何を買おう?)

と持ち合わせを思い起こしながら、適当に道中の店に目を配りつつ進んだ。


そうして途中、些細な寄り道を挟み、また目的の場所へと。

時に手押しで歩道を、時に手頃な敷地を横断して渡るなどという策を用いつつ。


「はぁ…」

ふとため息をこぼしながら

(気乗りしないな…)

と近付くにつれ拒絶反応を示す心中。

というのも幼い頃から薬の類が嫌いだった私にとって、病院という場所が落ち着く場所ではなかったから。

故に

(手紙挟んでナースさんに渡して貰おうかな…)

なんて帰りたい病が発症。

だが家の内の状況を思えばそれもまた憂鬱で。

「はぁ…」

とあからさまにため息をこぼしつつ、いざ病室に着くと違う形で帰宅願いを強めることとなる。

「えっと…404号室の…」

そう。

受付で部屋番号を聞いたところ、思わぬ数字の羅列を頂いたのだ。

(不吉過ぎるだろ…)

と普通ならば忌避する数字を2つも取り込んでいる異色の部屋番号に

(大丈夫か、この病院…)

とこみ上げてくる不安。

それでもどうにか意を決して病室に入るのだが、島さんのベッドの傍ら──そこに立つ収納棚の上部を見て思わず一言。

「誰だ入院祝いをしている馬鹿は!」

つい人目もはばからず、私はそこに鎮座していた赤飯に向かって突っ込みをいれた。

部屋中の視線が一斉に私の下へ集中した。

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