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【完】神様は嘘つき  作者: バひ゛ろン
10/19

10.女は愛嬌度胸母最強

聞いた話によると、なにやら彼女は昨晩、夢の中でコクアンなる者に告げられたという。


──赤飯と油揚げを側に


と。

「そしたら災いの気は晴れるだろうって言われちゃって」

なんて言う辺り、さすがは島さんの母。

家族共々信憑性のないオカルト話に関心を示すなど、最早お家芸である。

「油揚げも添えて…っと。はい、出来上がり」

そうして眼前にて組み上がったのは赤飯の油揚げ乗せという不思議物体。


その異様な光景には思わず呆れ笑い。

無論、それを悟られまいと速やかに口元へ握り拳を当てがいはしたものの、

「それで容態のほうは…?」

と間を置かずに訊ねるさまは、まこと不安の表れそのもの。


だが、そんな私の心中など彼女は微塵も意に介さず

「全然大丈夫よぉ。事故って言ったってそんな大したものじゃなかったんだから」

と笑いながら語ってくれた。

その姿に思わず心痛くなるのは、恐らく言葉の裏側に私の心配を拭わんとした優しさが感じられたからだろう。

次いで

「ただ少し打ち所が悪かったみたいでまだ眠ってるけど…」

と述べることから、彼女自身が抱える不安の有無が分かる故に痛みもまたひとしお。

「体調は良好らしいのよ?でもね、お医者さんもまだ目覚めないだろうって言うし、例え起きたとしても暫くは経過を見たいって…」

と不意に続いた彼女の明確な不安を前に


「じゃあ職場復帰は当分先になりそうですね…」

と私は嘆息を漏らして同調した。


「そうねぇ…」

返事もまた一瞬は同調を重ねたが

「ほんとウチの子が迷惑をかけて申し訳ないわぁ」

と直ぐに謝罪へ転じられ、むしろこちらが申し訳なくなってしまう。

更には

「それなのにわざわざ仕事まで抜け出して来てもらって…」

と勘違い全開の気配りを受けて困惑。

どうにか事実を述べようにも

「ところで、この子とは一体どんな関係で?」

と隙無く問いを詰められ、否定の余地なく断念することとなった。


「ん…えっと…」

そう口ごもるは先の困惑に後の困惑が重なった故。

親心か野次馬魂か、ずいぶんと込み入った話しを直接ぶつけてくるのだからなんとも困ったもので。

そうして暫くの熟考のち

「全く何の発展も始まりも起こっておりません」

と恐らく当たり障りのないだろうありのままを告げた。

「ただの同期です。本日はあくまで課を代表しまして見舞いに…」

なんて方便を踏まえつつ。


「あらあらぁ、母さんこんな綺麗な同期が居るなんて聞いてないわよぉ」

なにやら高いテンションは置いといて、ともかく病人に物理的突っ込みをするのは止めてあげてと思った。

「これからも息子をお願いしますね」

だから何も始まってないと言ったろう?


不可解な言葉に心中反感を抱きつつも愛想笑い。

どう説明しても無駄と悟った私は

「えっと、そういえば…これ、粗品ですけど」

と話の流れを切って後ろ手に持参してきた見舞いの品をようやく登場させては手渡す。

値段を見てメロンから切り替え選んだ林檎の詰め合わせを。


「あらぁ~ほんとに悪いわねぇ!美味そぉ」

貴女のものではありませんからね?

別に食べるなとは言いませんけど。

「目覚ましたら真っ先に食べさせてあげましょ~」

楽しげにそう語るさまには思わずこちらも笑みがこぼれた。

「やっと笑ってくれたわねぇ」

ふと吐かれたその言葉にキョトンとしてしまった事は言うまでもない。

「女は1に愛嬌、2に度胸、屈強さなんてのは家庭を持てば自ずと身に付くんだから」

そう呈すると彼女は

「若いうちは無茶しなさい。そんで沢山笑いなさい」

と私にはなんとも耳に痛い言葉を告げ、贈り物の林檎の1つを取って返してきた。

「あげたものはいずれ返ってくるから」


「…ありがとう」

それは思わずこぼれたもの。

その後でふと我に返り

「ございます」

と遅ればせながら礼節を重んじるが


「どういたしまして」

とやはり彼女は此方の些細な言葉使いや様子などには、一切意に介さない姿勢を保っていた。

かと思えば不意に

「母親…甘く見ちゃ駄目よ?」

と意地悪な笑みを浮かべる。


「ですね」

なんて苦笑するしかなかったのは痛いほどにそれが分かるから。

「…また来ます」

と一言、私は会釈をしてから病室を出た。

その背に当たる待ってるわという返事に温かみを感じつつ、そのまま病院をも後にした。


だが、そんな心地良さも道半ばまで。

今もまだ部屋に居るであろう疫病神のことを思うと、なんとも気分を落とさずにはいられないのだった。

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