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【完】神様は嘘つき  作者: バひ゛ろン
17/19

17.得失繰り返し先の帰結


──麻衣…


懐かしい声がする。

それほど長くこの場所を漂っている様な。


辺りは暗く、また以前の様に目を開けていないだけかもしれなが、その開閉の感覚もやはりない。

水底の様に深く、重力と浮力がない交ぜになった様な感覚だけがあった。


その中で声がどこからともなく聞こえてくる。


──麻衣…!


何かを呼んでいるように。

叫ぶ様に荒々しく。


──麻衣!


ただその声のする方が、白く温かく感じられた気がした。

私はその方へ、感覚の無い腕を伸ばした。


(ヒトミ…)


「麻衣ちゃん!」

やっと見えた景色は、天井を背景に真っ直ぐ私を見据える彼の姿だった。


「東城…さん?」

と言いつつ先ほどまでの水底の様な感覚を探すが、今となっては何処にも見当たらない。


その姿を不思議に思ったか、彼は

「…?麻衣ちゃんの、自分の家だよ」

と教えてくれる。


(それは分かってますが…)

こぼれそうな溜め息を噛み殺しつつ

「ですね…」

と私は答えた。

その後、彼の手を離れて上体を起こして私は辺りを見渡す。


「ごめん。僕のせいだ…」

と不意に出る彼の言葉に


思わず

「え?」

と返した。


「僕が、頭に響いた声の通りに札を破ったら…そこに居た皆がスッと居なくなって…ごめん」

「…そうですか」

彼女達は消えてなくなったわけじゃない。

ただ見えなくなっただけ。

「………」

分かっているけれども、認識出来ないことは居ないのと同じだと思った。

もう会話をすることさえ叶わないと思うと尚更。

「う゛」

ふと感じた引ききっていない痛みに胸を押さえる。


「大丈夫?」


「ん…はい、なんとか…」

されど未だ晴れずモヤモヤする様な胸中。

段々と痛みは引いていくものの、どうも釈然としない感覚。


「(これでだいぶん…)」


「え…」

驚いた。

耳を疑った──いや、正確には自分の脳裏を疑っていた。

けれども確かにその声は響き、

「…ヒトミ?」

と私の声を無造作に引き出した。

「居るのか?…そこに」

じわりじわりと少しずつ浮かんでくる違う視点の景色。

その視線を逆送し、居ない彼女を捉えようと必死で見開く目。


「(麻衣…分かるの?)」


「まだ、繋がってたんだな…」


「(ぅん?)」


「麻衣ちゃん?」

また不意に彼が口を開く。

その方を見やると、不思議そうというより心配そうに見てくれているのが分かる。


「ヒトミは生きてます」

私は彼の抱えた罪悪感を取り払う様に言葉を紡いだ。

「見えなくなったけど、ここに居ます」

移す目線で彼女の位置を示す。

「私…別の神様との契約で、今、ヒトミと精神とか、感覚とか…そういうのが繋がってるんです。だから、分かるんです」

同時に2人へ説明する様に私は言葉を組み立てた。

正直、未だ繋がっている理由は分からないけれど、そんなことはどうでも良かった。


「(私は全然分かんないよ)」


「あー、これは一方的なものなんだ。詳しくは弁天に聞け。今は他に話したいことが…」

と言いかけたところで私はまた東城さんを見やる。


すると彼は全てを悟った様に

「僕は気にしないで良いから」

と笑ってくれた。


「ありがとうございます」

深々と頭を下げ、また彼女へ向き直す。

そうして真っ先に口にするのは

「ヒトミ…ごめんなさい」

という謝罪の言葉だった。


「(何?突然)」


「私…ヒトミの過去を覗いたんだ…。此処に社を築いた、彼とのこととか…その他にもいっぱい…全部…」

そう懺悔するように私は俯いて、床に額を押し付けて、精一杯の謝罪の気持ちを表すように。

余命いくばくもないであろう命の最後を、彼女の手で幕引き出来るなら──そう思えば割と覚悟は早々に決められた。


だが、意外にも彼女は

「(なんだ、そんなことか)」

と言ってのけた。

「(別に良いよ)」

と多分、微笑んでくれた。


しかし私の気は済まず。

「彼の願いを…無駄にもした…」

と更に罪を吐き重ねる。


それでも彼女は

「(うぅん、そんなことない)」

と断言した。

「(お陰で麻衣と会えた。短い間だ─けど、凄く楽し─)」

ふと彼女の言葉がぷつぷつと途切れ、伝わってくる映像もあやふやになってきた。

契約による効果が薄まっているからだろうか?


「…私も、だ」

無駄な問答は時間の無駄。

そう感じて直ぐに私は、なかなか折れてくれそうにない彼女の意思を尊重することを選んだ。


「(私─これか─もずっと麻衣─側にい─ら。見えな─も、ずっ─側に居る─。─から…忘れ─いで)」


「あぁ、絶対に忘れない…」

どうにか想いを汲み取り返事をしたのちに私は

「そろそろ、分からなくなりそうだ…」

と彼女へ伝える。


「(麻衣…だ─)」

そこで全てが途切れた。


「ヒトミ…ありがとう」

その声が届いたかを知る術はない。


 ヒトミとの最後の会話を終えた後、私は向き直って東城さんの姿を確認した。

気付けば、その隣にはひっそりとノートパソコンが佇んでいる。


「…お手数かけました」


「ん?」

と一瞬不思議そうに首を傾げるも、私の目線から言葉の意味に気付いたようで彼は

「あぁ、気にしないで良いよ。もしかしたら直ぐ不要になるかもしれないし」

と続けて言った。

「少し前に島の母から連絡があってね、麻衣ちゃんについての…誤解?って言うのかな?まぁとにかく、それを解きに近々職場に来るってさ」


「無理しないと良いですけど」


と言いつつも私は、内心グッジョブと彼の気概に賞賛を送った。

割と良い人なんだな、と認識を改める機会にもなったように思う。

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