霜注意報と、モフ毛マルチ作戦
夜――
ふくさんの家でご飯をご馳走になり家に戻る途中、空を見上げたたすくは、思わず足を止めた。
「……やば。星、やたらキレイ……ってことは、冷えるなこれ……」
空気がピンと張り詰めている。
タローも「ぴぃ……」と不安そうに鳴いた。
(この寒さ……明日、霜が来るかもしれない)
急いで納屋に戻り、日当たりの棚に並べていた苗たちを見つめた。
卵パックに並ぶ、小さな芽たち。
まだ細くて弱くて、土におろすのはこれから。
(……この霜に当たったら、全部やられちまう……)
そのとき――
コンコン、と扉がノックされた。
「夜分すまんのう」
まごじいだった。
「明け方、冷えるぞ。……芽、守る用意はしとるか?」
「いや、まだ……。畑にはまだ植えてないけど、この苗たちがやられたら終わりです」
たすくは棚の下から、ふくさんが袋に詰めてくれたものを取り出す。
「……これ、使います。タローの毛」
まごじいが目を見開いた。
「……あんた、それ、何のためにとっといた?」
「なんか……使える気がして。霜よけになるかもって」
まごじい、にやりと笑う。
「よう気づいたな。あったかくて、軽くて、通気もええ。
自然のマルチじゃ。立派な“苗床守り”になる」
「ありがとうございます、師匠」
*
月明かりの中、たすくとタローは苗たちの卵パックの上に、ふわりとモフ毛をかけていった。
柔らかくて、まるで毛布。
ひとつひとつ、大事そうに覆っていく。
「ぴぃ……(ぬくぬくしてね)」
タローが、鼻先でそっと毛を整える。
たすくは、静かに言った。
「明日が、無事に来ますように」
まごじいが、ぽつりと呟いた。
「その気持ちが、育てる力になるんじゃ。……あんた、立派な苗守りじゃ」
*
夜が明けて、霜の光る朝。
納屋の棚の上、モフ毛に包まれた芽たちは――
青く、小さく、でもしっかりと立っていた。
「……守れた……!」
タローが跳ねる。
「ぴぃぃぃっ!!」
たすくはタローの頭をなでながら、ぽつりとつぶやいた。
「よし……次は、畑におろす日だな」
――“育てる”物語が、いよいよ動き始める。