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冷えた体と、あったかいお風呂と、モフの抜け毛

朝――


納屋の軒先で、たすくは地面に突っ伏していた。


 


「……無理。限界。俺は人間としての尊厳を保ちたい……」


 


隣で、タローも「ぴぃ……」と目を細めている。


 


理由は、ただひとつ――風呂に入っていない。


 


「最初はな、サバイバル気分で楽しかったんだよ。でも臭いが……」


 


タローも「ぴっ……ぃぶしっ!」と、くしゃみのような鳴き声をあげた。


 


「……お前もか。よし、決めた!風呂をつくる!!」


 



 


村の広場。洗濯物を干していたふくさんに尋ねると、あっさり答えが返ってきた。


 


「川の近くに昔使ってた湯場があるよ。納屋からそう遠くないし、モーさんが水飲みに来る場所のすぐ裏手さ」


 


たすくとタローは、工具と薪をかついで出発した。


 



 


川辺の石風呂は、確かにあった。ちょっと崩れてるけど、雰囲気は最高。


「こういうのも売ってたなぁ……“おうち露天風呂セット”とか……」


 


石を組み直し、湯を張り、焚き火で温める。


じんわりと立ち上る湯気に、心までほぐれていく。


 


「……完成。よし、タロー、いくぞ!」


 


ぴぃっ!(ジャポーン)


 


先に飛び込んだタローが、幸せそうな顔でぷかーっと浮いている。


 


「お前……かわいすぎんか……」


 


たすくも、そっと湯に浸かる。


冷えた体に、あたたかさが染み渡っていく。


 


「……はああああ……生き返る……」


 


そのとき、川の向こうでガサガサと音がした。


振り向くと――モーさんが、静かにこちらを見ていた。


 


「お前も、水飲みに来てたんだもんな……」


 


モーさんはちょっとだけ鼻先を湯に近づけて、「モォ……」とため息をついた。


 


「なんか……ほんとに一緒に暮らしてる感じするよな……」


 


ふくさんが差し入れのタオルとおにぎりを持って現れる。


 


「いいお湯になってるみたいね。はい、これ」


 


「ふくさん、女神か……」


 


その時だった。


 


「ぴぃぃぃぃ……?」


 


タローが、湯の中でくしゃみをした。


そして――毛が、ふわっと抜けた。


 


「あっ……!」


 


みるみるうちに、お湯の表面に白い毛が浮いていく。


 


「お、お前……換毛期か!!?」


 


タローは、キョトンとした顔で自分の体を見下ろした。


 


「……これは……けっこうな量だぞ……」


 


ふくさんが毛をすくい取りながら言った。


 


「これ、何かに使えないかしらね。捨てるの、もったいないわ」


 


たすくも、湯気の向こうでつぶやいた。


 


「……あったかいし、軽いし……ワンチャン、霜よけとか……」


 


タローが「ぴぃ!」と、やたら誇らしげな顔で胸を張った。


 


――こうして、“モフ毛マルチ”計画が、湯けむりのなかでひそかに始まった。


 


次回、霜注意報と、モフの毛で畑を守れ!


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