↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/132

芽出し。タローと、命の卵パック

朝――


納屋の裏に広がる畑には、昨日混ぜた“伝説のクソ肥料”の匂いが、ほんのり残っていた。


腰はまだ痛い。でも、気持ちは不思議と軽い。


 


「よし、今日は“芽出し”だな」


 


ぴぃ!(キリッ)


 


ふくさんがタオルを頭に巻いて、手に箱を持ってやってきた。


 


「これ、使って。卵パック。村の人が持ち寄ってくれたのよ」


 


「卵パック……これに種、入れるんすか?」


 


「ええ。土を入れて、水を含ませて、あったかい場所に置いてあげるの。

赤ちゃんみたいに、大事にね」


 


(……ふくさん、やっぱりすげぇ)


 


たすくは受け取った卵パックを見つめた。


懐かしい。ホームセンターでも、こんなやり方を見たことがある。


でも、こうして“命を育てる道具”として手にするのは、初めてだった。


 


「よし。いくぞ、タロー」


 


*


 


畑の脇に置かれた作業台。


タローが土の入ったバケツを押さえ、たすくが手で卵パックに詰めていく。


 


「このへんはトマトで……あとは枝豆……こっちはきゅうりかな……」


 


タローが土をこぼす。


「ぴぃっ!」


 


「いや、そんな豪快に詰めるんじゃなくて!そこ……きゅうりゾーンだから!」


 


タローが申し訳なさそうに耳をしょぼんとさせた。


 


「……でも、まあいっか。多少混ざっても、出てきたやつで判断しよ。生きてりゃわかる」


 


タロー「ぴぃ!(立ち直り早っ)」


 


そうして、土を詰めた卵パックに小さく穴をあけ、種をひとつずつ落としていく。


指先に伝わる、かすかな重み。命の予感。


 


(育て……育ってくれよ)


 


水をたっぷり注ぎ、日当たりのいい棚の上に並べる。


タローが満足そうにぴょんぴょん跳ねた。


 


ふくさんがにこやかに近づいてくる。


 


「いいわね。その子たち、うまく芽が出たら、土におろしてあげましょ。

まごじいも、楽しみにしてたわよ」


 


「はい……がんばります」


 


ふくさんが帰った後、たすくはじっと卵パックを見つめた。


タローが隣にちょこんと座る。


 


「……命って、不思議だな。

あんな小さな粒が、ちゃんと息をしてるみたいだ」


 


タローがそっと、卵パックに鼻先を寄せた。


 


「ぴぃ……(がんばれ)」


 


その夜。


たすくは初めて、村で“明日が楽しみ”と思いながら眠りについた。


 


――次回、芽が出るか出ないか、それは誰にもわからない。


でも確かに、今ここに“希望の種”がまかれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。