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芽出し。タローと、命の卵パック

朝――


納屋の裏に広がる畑には、昨日混ぜた“伝説のクソ肥料”の匂いが、ほんのり残っていた。


腰はまだ痛い。でも、気持ちは不思議と軽い。


 


「よし、今日は“芽出し”だな」


 


ぴぃ!(キリッ)


 


ふくさんがタオルを頭に巻いて、手に箱を持ってやってきた。


 


「これ、使って。卵パック。村の人が持ち寄ってくれたのよ」


 


「卵パック……これに種、入れるんすか?」


 


「ええ。土を入れて、水を含ませて、あったかい場所に置いてあげるの。

赤ちゃんみたいに、大事にね」


 


(……ふくさん、やっぱりすげぇ)


 


たすくは受け取った卵パックを見つめた。


懐かしい。ホームセンターでも、こんなやり方を見たことがある。


でも、こうして“命を育てる道具”として手にするのは、初めてだった。


 


「よし。いくぞ、タロー」


 



 


畑の脇に置かれた作業台。


タローが土の入ったバケツを押さえ、たすくが手で卵パックに詰めていく。


 


「このへんはトマトで……あとは枝豆……こっちはきゅうりかな……」


 


タローが土をこぼす。


「ぴぃっ!」


 


「いや、そんな豪快に詰めるんじゃなくて!そこ……きゅうりゾーンだから!」


 


タローが申し訳なさそうに耳をしょぼんとさせた。


 


「……でも、まあいっか。多少混ざっても、出てきたやつで判断しよ。生きてりゃわかる」


 


タロー「ぴぃ!(立ち直り早っ)」


 


そうして、土を詰めた卵パックに小さく穴をあけ、種をひとつずつ落としていく。


指先に伝わる、かすかな重み。命の予感。


 


(育て……育ってくれよ)


 


水をたっぷり注ぎ、日当たりのいい棚の上に並べる。


タローが満足そうにぴょんぴょん跳ねた。


 


ふくさんがにこやかに近づいてくる。


 


「いいわね。その子たち、うまく芽が出たら、土におろしてあげましょ。

まごじいも、楽しみにしてたわよ」


 


「はい……がんばります」


 


ふくさんが帰った後、たすくはじっと卵パックを見つめた。


タローが隣にちょこんと座る。


 


「……命って、不思議だな。

あんな小さな粒が、ちゃんと息をしてるみたいだ」


 


タローがそっと、卵パックに鼻先を寄せた。


 


「ぴぃ……(がんばれ)」


 


その夜。


たすくは初めて、村で“明日が楽しみ”と思いながら眠りについた。


 


――次回、芽が出るか出ないか、それは誰にもわからない。


でも確かに、今ここに“希望の種”がまかれた。


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