神堆肥、育て始めました
伝説の護竜モフドラゴン――タロー。
その一撃は空を割り、大地を震わせ、そして――
ひと塊のうんこを残した。
湯気をまとい、神々しく光るその塊は、畑の片隅に静かに鎮座していた。
精霊たちも、たすくも、ジローも、まごじいも……誰ひとり、軽口を叩けなかった。
「……これが……伝説の護竜の糞……」
地の精霊が、うやうやしく手を合わせる。
「でも、これってさ……発酵、大変じゃね?」
静寂を破ったのは、ジローの一言だった。
「うむ。だからこそ――みんなで力をあわせる時じゃ」
まごじいが、ゆっくりと前に出て、畑に向かって頭を下げた。
「村の再生は、ここから始まる。
命を育てるこの塊……わしらで、神堆肥に育て上げようぞ!!」
***
こうして、“神堆肥発酵プロジェクト”が始まった。
「温度管理なら任せて! 高温で分解一気に進めるで!!」
火の精霊が湯気に鼻を突っ込み、目を細めてにやりと笑う。
「……湿度調整、微生物のために必要……細菌、カビ、全部呼ぶ……」
水の精霊がぽつりと呟き、周囲の空気にしっとりとした湿度が満ちていく。
「空気循環、匂い管理、香りの設計もやったるわ!
テーマは“神々の朝”。ちょっと青リンゴ系にしとこか!」
風の精霊が両手を広げ、ゆるやかに空気を撫でる。
「……土や。最終的にこいつは、命になる。
ワシが見守る。……この子は、ええ土になる」
地の精霊が、うんこの隣に正座した。
「よし……なら、俺は記録係だな」
たすくはスコップを肩に担ぎ、どこからかノートを取り出した。
その表紙には、堂々とこう書かれていた。
『うんこ観察日誌』
「やめろおおおおおおおおお!!!」
ジローの悲鳴が村に響いた。
***
観察1日目――
湯気がすごい。たすく曰く「くさい。だが、神々しい」
3日目――
火の精霊が「今日の香りはナッツ系やな」と言い始めた。
5日目――
ふくに「そんなもんを居間に持ち込むな!!」と一喝される。
7日目――
畑の端で、勝手にミミズが群れ始めた。
10日目――
トマトの苗が植えてないのに発芽しかけた。
「……こいつ……動いてる……!」
たすくが言ったその瞬間、地の精霊が叫ぶ。
「土が……震えてる! これは……命の共鳴や!!」
火の精霊が涙ぐみながら言う。
「……もう火、いらんわ。こいつ、内側から燃えてる……」
水の精霊は湯気をすくいながらつぶやいた。
「……この中に、何万もの微生物がいる……もう、生態系や……」
風の精霊は畑全体の空気に手をかざして呟いた。
「……空気が……優しい。
こいつ中心に、風が回っとる……」
地の精霊がうっとりした声で言う。
「これが……命の密度か……!」
ジローがたすくの隣でぽつりとつぶやく。
「村長……お前、これが欲しかったのか……?」
たすくは深くうなずいた。
「……ああ。
これがあれば――もう、冬がきても怖くない。
飢える子も、泣く子も、減らせる」
タローは、少し照れたようにうんこの前に座り込んだ。
誇らしげに、尾を揺らしている。
「ぴっ」
それは、ただの糞ではなかった。
それは、“命の循環”だった。
***
この神堆肥は、後に村の神棚に小さなサンプルが納められ、
**「再生のうんこ」**として崇められることになる。
――そしてこの日が、
「モフドラゴン(護竜)堆肥による冬越え革命」の、始まりである。
――つづく。




