精霊式グリーンハウス、村に爆誕。
冬が来る。
空気が乾き、風が冷たくなってきた。
たすくは空を見上げながら、畑の中心でスコップを握っていた。
「……今のままじゃ、この畑、雪に潰される」
「でも……ここを守れたら、冬でも作物が育つ。迎える子たちを、飢えさせずにすむ」
たすくが口にしたその瞬間――
精霊たちが、動いた。
***
「囲いを建てるんやったら、風の流れはあたしに任せとき!」
風の精霊が腰に手を当て、勢いよく言う。
「……土の温度、上げる。断熱層、作っとくわ」
地の精霊が、土にそっと手を添えながら言った。
「……地下から湧き水、ひく。凍らないように……」
静かに水の精霊がうなずく。
そして――火の精霊はにやりと笑った。
「いよいよ来たわね……“あたしの見せ場”が!!」
「この畑……温室にしちゃいましょ!!!!!!」
***
村の総力を挙げての作業が始まった。
ジローが木材を切り出し、たすくが鉄骨を組み立て、
タローが土台をならし、ふくとまごじいが苗床を整える。
風が流れを調整し、火が天井の石に熱を蓄え、
水がミストを微調整で送り込み、あたたかく湿った空気が内部に満ちていく。
それは、まさに“精霊式グリーンハウス”だった。
たすくはスコップを立てて言った。
「――この中で、トマトもナスも、ピーマンも……
冬でも、元気に育ててみせる」
その声に、精霊たちは真剣な眼差しでうなずいた。
「……これは“食べる”だけじゃない」
「“生きる”ための畑や」
「“迎えるための希望”の場所や」
***
数日後――
建物は完成した。
天井は透明の石板。中には風の通り道があり、
温水が走り、地熱がじわじわと土をあたためていた。
だが、その翌日。
たすくは畑の端で、地面を見つめていた。
「……ねぇ、地の精霊。
この中の土、さ。育つと思う?」
地の精霊は、しばらく目を閉じ、静かに手を土へ当てた。
そして、ぼそりとつぶやいた。
「……無理や」
たすくは、地面に崩れ落ちるように両手で頭を抱え、叫んだ。
「やっぱりかああああああああ!!!!!!!
なんで!?なんでぇぇぇ!?囲って!断熱して!風もミストも完璧だったじゃん!!!なのに!!!!」
地の精霊が顔をしかめる。
「……肝心の“命の糞”が足りてへん。微生物、ほとんどおらん」
水の精霊がため息をつきながら言った。
「……つまり」
風の精霊が叫ぶ。
「うんこ不足や!!!!!!!!!!」
たすくは絶叫した。
「うんこーーーーーー!!!!!!」
***
その日の午後、たすくは真剣な顔で、タローとジローの前に正座していた。
「……あの、タローさん。
この温室を維持するには、たくさんのうんこが必要なんです」
ジローが呆れたように声を上げる。
「お前、急に何言い出してんだよ!?」
「真面目な話だよ!!」と、たすくは真剣な目で言い切った。
「ここの土は、養分がまだ足りない。あの時……タローがドラゴンになったとき、
あの姿で一発出せたら、絶対……とんでもねぇのが出る!!」
横で震えていたタローが、か細く鳴いた。
「ぴぃぃ……」
ジローが肩をすくめて言う。
「そもそも、ドラゴンになるのって、偶然だったよな?
どうやってまた、あの姿にさせるつもりなんだよ
しかもこいつ伝説の護竜様なんだぜ?」
たすくは立ち上がり、スコップをマイクのように構えて、静かに言った。
「伝説だが、なんだかしらん。
とりあえず俺は歌うしかない」
タローの目が大きく見開かれる。「ぴぃっ!?」
ジローが叫ぶ。「やめとけ!!!魂が死ぬ!!!」
しかしたすくはお構いなしに歌い出した。
魂のボイパと、震える節回しの唄が、村中に響き渡る――
「チカチカ……ずっぷぅっぴ!!ぴぃぴぃぴぃぴぃ~~~~ぃぃ!!!!」
モフが震える。
「ぴぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!」
ジローは顔をしかめながら叫んだ。
「もうやめろおおおおおお!!村が死ぬうううう!!!」
……だが、どこかで期待している顔もしていた。
***
そして三日後。
たすくは寝ずに歌い続けた。
朝も昼も夜も、唄い、ボイパを刻み、スコップをマイクに熱唱し続けた。
唾は村中に飛び散り、モフはそのたびに震え、涙目だった。
「……タロー、耐えるなよ。変身しろ。
じゃねぇと俺たち、マジで“歌殺され”になるぞ……」
ジローのぼやきが響いた。
たすくはスコップを握ったまま、最後の一声を振り絞る。
「……信じてるからな、お前の……ドラゴンの力……そして、うんこ!!」
ジローが即座に叫ぶ。
「やっぱり目的それかーーーーーーー!!!!」
その瞬間だった。
タローの身体がふるふると震え、まばゆい光を放ち始めた。
「きたああああああああああああ!!!!!!」
たすくの絶叫とともに、
モフは――再び、ドラゴンへと進化した。
***
空が唸り、地が鳴る。
モフドラゴンとなったタローは、ゆっくりと身体をひねり、
畑の隅――空き地の方向に、お尻を向けた。
ジローが目を細める。
「……え?今……いま何してんの、あいつ?」
少し離れた場所から、精霊たちの声が聞こえてくる。
風の精霊がぽつりとつぶやいた。
「……まさか」
火の精霊が口元を押さえる。
「まさか……ねぇ……」
水の精霊が震える声で呟いた。
「……これが……伝説の……」
拳を握りしめながら、たすくが祈るように言った。
「頼む……出てくれ…この村を救ってくれ……!!」
モフドラゴンが吠えた。
「ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!!」
――ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!
畑の空き地に、黒くて、温かくて、まばゆい蒸気を放つ巨大な塊が、静かに着地した。
精霊たちは言葉を失っていた。
水の精霊が震える声で言う。
「……はぁぁぁぁぁ……すごい……湯気……」
火の精霊は額に汗をにじませながらぽつりと呟く。
「あたしの火力、いらんわ。これ、あったかい」
風の精霊は、空気の流れに指先をかざし、目を見開いた。
「風の流れも、今これ中心に回ってるで……」
地の精霊は、まるで宝物を見るような目でこう言った。
「これが……命の密度か……!」
ジローがたすくの隣でぽつりとこぼす。
「村長。お前……これが欲しかったのか……?」
たすくは、ゆっくりとうなずいた。
「……ああ。やっと……“足りた”よ」
モフドラゴンはゆっくりとお尻を拭った(※蒸発済み)。
その表情は、どこか誇らしげだった。
「……ぴっ」
村人たちは、自然と頭を垂れていた。
このうんこは、やがて“神堆肥”と呼ばれ、村の神棚に納められることになる。
精霊たちは静かに言葉を重ねた。
「これでもう、グリーンハウスが“命の箱舟”になる」
たすくは空を見上げて、深く息をついた。
「ありがとう、タロー。
お前のうんこで、世界がちょっと優しくなった気がする」
タローはどこか照れたように、控えめに鳴いた。
「ぴぃっ」
――こうして、伝説の“モフドラゴン堆肥”が爆誕した。
世界の再生は、一発の糞から始まる。




