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Phase6-1:私は道を見つけるか、さもなければ道を作るであろう

 日本時間午前八時。オムニス内時間午後十時。イーオン、ウォルプタース。

「よう」

「あ、イッテツさん! おはよう! あれ、こんばんは?」

 二人はロス・オブ・タイム屋外の特設会場で待ち合わせていた。すでに会場は人で溢れ、それぞれ仕入れてきた情報を交換している。

 特設会場の北側には巨大スクリーンが設置されており、その脇には無数のサブスクリーンが。会場を覆うようにスタンド席もあって、観戦の場所取りに勤しむ人々も見受けられる。

 イッテツとシイナはボーイから適当に飲み物を受け取って、空いている端のテーブル席を見つけて腰かけた。

「さ、宿題のチェックだ」

「うえー、嫌な響き。学校のこと思い出しちゃったよ」

「学校に行ってるのか」

「一応ね。かったるくてやってらんないけど」

「ああ……そりゃそうだろうな」

「はいはい。つまらない話はやめて、ギャンブルの話をしようよ」

「そう言われると、悪いことを教えてるようで罪悪感があるんだが……」

「大丈夫大丈夫。たぶんイッテツさんより、悪いこと沢山知ってるから」

 ストローでジュースを啜る少女の発言に、イッテツはうなだれた。

「さ、宿題のチェックだ」

「聞かなかったことにしたんだね」

 イッテツは咳払いでごまかした。

「まず二択だ。イーオンとアエラ、どっちが勝つと思う?」

「間違いなくアエラ」

 シイナの即答に、近くのテーブルでイーオンの勝利を願って盛り上がっていた一団が顔をしかめた。

「ずいぶん強気だな」

「だって、過去のデータを見れば明らかじゃない」

 シイナは携帯端末を取り出し、指で軽く操作してから、イッテツにも見えるようにテーブルに置いた。

「これが過去の戦績ね。一昨年の十月からアエラは勝ち続けてる」

「今回は負けるかもしれないぞ」

「ううん、たぶんそれはない。なぜならアエラは偶然勝ち続けてるわけじゃないから。ちゃんと根拠があるよ」

「なるほど。良く調べたな」

「そりゃもう、大金がかかってるからね!」

 シイナは楽しげに携帯端末を操作する。表示されたのは、一昨年十月のショウタイムの緩衝地帯のマップだった。マップ上には無数の光点が点滅しており、プレイヤーの動きを示している。

 その中で、シイナはアエラ側の三つの赤い点を指差した。

「まず、火力の差。アエラは三体のボスキャラのうち、二体が火力職。ウォーリアーのウンディーネと、メイジのサラマンダーね。イーオンにはシーカーの索敵能力を持つボスキャラがいるけど、三体の内二体を補助職に取られてるから、単純に火力で負けてる」

「確かにな。シーカー役のラインの乙女を最大限に活かすには、それを用いた人海戦術が必要になる。だがイーオンには自由人が多い。能力が突出しているソロプレイヤーは多くいるが、軍の作戦に協力的な者は、アエラに比べて圧倒的に少ない。ただ、昔はそれでも強いプレイヤーの多いイーオン側が勝つことが多かった」

「そこで編みだされたのが、アエラの壁を背にした横陣作戦!」

 シイナは携帯端末の光点の帯をなぞる。

「それまでイーオン側は、ラインの乙女でルートを確保しての一点突破を狙う戦法で勝ちを収めてきた。対してアエラが考案したこの作戦は、防御に特化した布陣。壁を背にすることによって、例え部分的に陣を乱されても、後ろを取られることはない。さらに壁が弧を描いていることも、どの地点からでも攻撃を一点に集中できるというメリットになってる。この方法で守り切って、相手が疲弊したところで、じわじわと戦線を上げて攻め落とすわけね」

 イッテツは満足気に頷いた。

「参ったか! そういうわけで、勝利世界分配は期待できそうにないねー。イッテツさんはどう読んだの?」

「さてね。どっちが勝ったとしても、賭けには関係ないからな」

「じゃあなんで聞いたの?」

「テストだ」

「……イッテツさん、性格悪いね」

「よく言われる。じゃあ次の問題だ」

 シイナは嫌そうな顔で舌を出した。

「これで最後だ。誰にどう賭ける?」

「えー、それって言わなきゃダメなの?」

 言いながら、シイナはテーブルの下で足をバタバタさせて抗議する。

「別に言わなくてもいいが、言えばなにかアドバイスできるかもしれないぞ。参加者はイーオンとアエラの総勢で百万人に近い。一見強そうでも、絶対に賭けるべきではないプレイヤーも沢山いる」

「んー、確かにね。一応有力なプレイヤーの戦績にはざっと目を通したつもりだけど、私そんなにしっかりショウタイムを見たことないから、アドバイスは欲しいかも」

 シイナは携帯端末を操作して、ノートアプリを立ち上げた。その中から、“注目プレイヤー”というファイルを開く。そこには数人のプレイヤーの名前と、簡単なプロフィールが並んでいた。

「戦闘機乗りが多いな」

「うん。白兵戦に参加してる人は、いくら強くても事故に近いダメージを受けたりして戦闘不能になることが多いんじゃないかと思って」

「一理ある。この全員に均等に賭けるのか?」

「まっさかー! それじゃきっと儲けが出ないよ」

 シイナが画面をスクロールすると、赤い丸が付けられた三人のプロフィールが出てきた。

「まず一人目は、イーオン空軍総司令のグラン・ヴァレイさん。空軍はイーオンでは数少ない指揮系統のある集団だし、なんと言ってもヴァレイさんが艦長を務める戦艦“アーク”の存在がでかいよね。イーオンにある唯一の飛行戦艦だもん。ただこの人は大人気だから、オッズも低めなのが難点かなあ」

「……ああ」

「ん? どうかした?」

「いや、続けてくれ」

「そう? えっと、次がハンスさん。普段は第二首都港の管理をしてるけど、戦闘機に乗せたらその腕は超一流で、前回のランキング上位にも入賞してる。でもこの人も人気でオッズが低い。そこで最後がこの人」

 シイナが指差したのは、スーツを着崩した、中性的な顔の男性キャラクターだった。

「ガイドラインっていう初心者お助けチームのスカウトマン、ケイ。緩衝地帯の神殿で有能な新人をスカウトしまくって、ガイドラインの力を一気にのし上げた張本人」

「……こいつを選んだ理由は?」

「ガイドラインには独自の指揮系統と人材があって、しかもリーダーがライナーっていうかなり注目の団体だったんだけど、そのリーダーがライナーの役目を新人に譲っちゃったんだよね。それも数日前に。本当はリーダーに賭けたかったのになー。まあそういう事情があって、ほとんどサブリーダー的な立ち位置のこの人を選んでみたんだ。貢献度は与被ダメージや撃破数だけじゃなくて、部下として登録されているプレイヤーの貢献度も何割か加算されるみたいだから、空軍の次に選ぶならここかな? と。操作の腕も良いしね」

「……悪くない。儲けは大きくないが、堅実な選択だ」

「ありがと! じゃあこのままでいいかな?」

「ああ。やってみろ」

 イッテツは自分の携帯端末を取り出して、シイナに百万ロスを送金した。

「やった!」

「馬券は窓口か、端末からウォルプタースのサイトを開いて買えばいい」

「そのくらい調べてあるってば。……で、イッテツさんはどう賭けるの?」

「秘密だ」

「……ふーん」

 シイナはもの言いたげな目でイッテツを見た。

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