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不穏②

「本当に姉上とは何もなかったでござるな?」


 隣を歩くオーウェンを探るような瞳で見つめるリリアム。


「別に何もない」


「なら、何で姉上がオーウェン氏を空き教室に連れこむでござるか?」


 某が席を外している間に姉上がオーウェン氏を連れて行ったと聞いた時は焦ったでござる。


「別に……お前をよろしくって言われただけだ」


「なな⁈ 某をよろしくなどと……某はマリーたん一筋の男でござるよ!」


「だから、マリーを変な呼び方するな。それと、姉は結婚しているから諦めろ」


「某はそのような邪な心を抱く奴と同じにしないでほしい。某の推しへの気持ちは純粋な気持ちでござる」


「はいはい」


「んな⁈ 聞いていないでござるな!」


 オーウェンはリリアムの様子を見ながら、先程の彼女の話を思い出した。自分が知らない彼の過去に心を痛めたのだ。


「リリアム・スロインド」


 突然足を止めて名前を呼ばれたリリアムは首を傾げた。


「皆の前で本音を出すのは怖いか?」


 唐突な問いかけにリリアムは驚いたが、彼の真っ直ぐにこちらを見る瞳に息をついた。


「怖い……と言うよりも、某の本音を皆は求めていないでござる。某の見た目……皆は自分の想像である儚い美少年であるリリアム・スロインドを求めているから……()はそれを演じるだけだよ。本当の俺を見てくれる人が少しでもいればそれでいいんだ」


 リリアムは目を細めて穏やかに笑った。その瞬間、オーウェンは止まっていた足を動かして、目の前までやって来た。


「オーウェン……氏?」


「俺にはそのままのお前でいい。遠慮はするな」


「あっ、ありがとう……」


「それと……俺の虐めの事で怒ってくれてありがとう」


 その言葉にリリアムは目を瞬いた後に笑った。


「これからも某を頼ってくだされ」


「別に俺は守られなくても大丈夫だ」


「んな⁈ オーウェン氏は知らないんですかー? 小さなストレスは溜まると大変になるんですよー」


「…………知ってる。だから、そのストレスを無くす」


 リリアムは隣に立つ彼の顔を下から覗き込むと、彼は悪役のように笑っていた。


「まるで悪役でござるな」


「俺は別にヒーローじゃない」


「そうですな。オーウェン氏は主人公の弟って立ち位置ですからな」


「何だそれ?」


「そのままでござるよ」


 二人は色んな事を話しながら、寮まで並んで歩いた。


 そして、次の日からオーウェンは反撃に出ることにした。


「靴箱にゴミって……」


 リリアムは靴箱の中あるゴミを見て顔を顰めた。だが、オーウェンは笑った。


「オーウェン氏? 変な物でも食べた?」


「……このゴミの持ち主を調べようと思うんだ」


「え⁈ どうやって⁈」


 ゴミの持ち主? そんな事が可能でござるか? どう見ても生ごみだし……?


「できるわ」


 会話に突然入り込んできた女子生徒に二人は驚いた。


「リリアム様。お久しぶりですわ」


「リッ、リノザちゃん……」


 そこにはリノザ・ロマダンニがいた。常に笑顔を浮かべている彼女は魔法の天才として有名な上に姉の一番の友人であり、リリアムとも幼い頃からの知り合いである。


「ヴィヴィアン様にお話は伺いましたわ。私がそのゴミの持ち主をお調べ……と言うよりもそのままお返ししてあげます」


 突然の彼女の登場にオーウェンは警戒して身構えたが、リリアムが親しそうに話すので警戒を少し緩めた。


「何故、そんな事をしてくれるんだ?」


「あらあら? 私も無料でしてあげるつもりは本当はないのですが……強いて言うなら、お礼ですわ」


「お礼?」


 オーウェンだけが何を言っているのかわからなかったが、リリアムだけはすぐにわかった。この前の空き教室で行われた『〇〇しないと出られない部屋』のことだろう。やはり、幻影魔法の正体はリノザで、あの部屋の出来事を彼女も見ていたと言うことだ。


「あっ、あっ、あーー。オーウェン氏。せっかく、リノザちゃんがしてくれるなら、手を借りよう! ねっ? ねっ?」


 必死な様子のリリアムにリノザは微笑んだが、オーウェンだけはまだ困惑していた。


「では……私がこの生ごみを返しておきますね」


 リノザはにっこりと笑うとオーウェンの靴箱にあったゴミを引き取った。


「本当にできるのか?」


「ああ。それと……」


 リノザは靴箱に軽く魔法をかけた。


「この靴箱は今から貴方しか開けられなくなりましたよ。では、私はこれで……」


 彼女が去ると、二人は顔を見合わした。そして、本当なのか試してみた。


「リノザちゃん。すごー」


「…………すごいな」


 彼女の魔法は本物のようで二人で感心していた。


 そして、教室では机は汚れていなかった。リリアムが悲しむと思い、クラスメイト達が机を綺麗にしてくれていたのだ。


「チッ!」

「物でも隠してみるか?」


 物を隠そうとしても用心深いオーウェンは全ての物を持ったまま移動したため、物が無くなることはなかった。そして、オーウェンの靴箱に入れた筈の生ゴミが絶対に彼らの元へと返ってくるのだ。


「おい! また、戻ってきたぞ」

「何でだよ」

「くそっ!」


 そのため、オーウェンをよく思わない人間たちの鬱憤は溜まるばかりだった。


「来週の課外活動で絶対にやっつけてやる」


 課外活動というのは定期的に行われる魔獣討伐訓練である。騎士科と魔術科の生徒で行われる。

 魔獣というのは動物に近い形の獣だが、その凶暴性は計り知れない。だが、学園で行われる魔獣討伐訓練は危険度が低い魔獣で行われる。


「俺、魔獣粉を手に入れてきた!」


 魔獣粉と言うのは魔獣が好む物で作られた粉末である。主に、魔獣を討伐する時に呼び寄せのために使われるのだが、それは騎士団や手練れの物が使うから大丈夫なだけ合って、学園の生徒。しかも、貴族の子息が使うには危険とされている。しかし、貴族の子息のため、それを手に入れる事は簡単なのだ。


「これで……オーウェン・コーランに恥をかかせてやる」

「身の程をわからせてやろうぜ」


 だが、彼らは魔獣粉の危険性を甘く見ていた。だから、あんな事になるなど思いもしなかった。彼らの中で誰か一人でもその危険性について知っていれば、起きえなかったのに。

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