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第七話 花言葉


ゆうこさんに押し付けられたバーベナを届けた話からまたハナが怒り出した


 全く、オレに恋の駆け引きなんて出来ねぇっつんだ。言いたいことが有るなら

ハッキリ言ってくれ。ちゃんと、瞳を見て話すのに──────って!

またそうやってオマエは、またオレを置き去りにするように逃げ出すのか


ハナ!!


「いらないっ! バイクもあの人のヘルメットもキライ、ばかっ!」

「待てってハナ! なら駅まで送っ──────ったく!」


 またこうだ──────、ハナに誤解されないように手を尽くすと必ず

裏目に出る。とは言え、これもオレが何時までもウジウジアイツ(彼女)の事に決着

付けられないせいか。とにかくこんな時間だ、夜一人で歩かせるわけには・・・

ハナを追わないと、そう思って玄関を開けるとそこには見覚えのない

少年が立っていた。


「おっと! 何だオマエ──────」


「──────アンタ、美住に何をした」

「は? 何ってオマエ誰・・・」


そう言いかけた時、頬骨の辺りに衝撃を受け“ベチーン”と鈍い残響音が頭に何度も

リフレインした。不意打ちに思わずよろけて玄関のタタキにヘタレ込んだ。


「ッってぇ──────突然何スンだガキ!!」


「何スンだ、だとテメェ! 美住に酷いことシたんじゃねぇのかッ、あぁ!!」

「もしそうなら──────オマエ・・・殺すぞマジで」


 美住美住って──────あぁそうかコイツ、ハナの知り合いか・・・

そう思いながら頬の内側を犬歯で切ったのか、鉄の味が口いっぱいに広がって

くちびるのあたりに流れた、ヨダレだか血だかを手の甲で拭いながらに

キッチンまで後ずさりした。


 いくらなんでも、一時の怒りに任せた行動で他人様の家にまで上がり込む

勇気はないと踏んだんだけどな。


このガキはソイツを備えていたようで、キッチンまで土足で上がりこんできた

──────チィとマズイな・・・


「アンタ、美住の同僚だって云ったな、家に連れ込んで何しようとしたッ!!」


ガキが、完全に頭に血が上ってやがる・・・

でもそうか、同僚ってのは知ってる?


ハナとオレの関係は知ってるってことか。


「ボウズ、オレとハナになんか有って、お前さんになんか関係あんのか?」


「ッ──────あるさ、俺は美住・・・ハナのカレシだからなッ!!」

そう言いながらボウズはキッチンの流しに目をやった──────

マズイな、そっちには刃物が在る・・・


「カレシか──────、ハナはカレシは居ないって云ってたぞ?」

「ボウズ、今引けば許してやる。これ以上バカなことするようなら警察呼ぶぞ」

とは言ったものの、スマホは部屋の奥か・・・ここで引いてくれ小僧!


「お前、ハナになんか想う所があるならこの状況を考えてみろ」

「ハナが見てたらどう思うか──────アイツ、悲しむんじゃねぇのか?」


「なっ──────ッ、クソっ!」


 カマをかけて話してみたが効果ありだな。多少冷静になったのか、玄関まで

後ずさった。個人的にはこのまま蹴り出してやりたい所だが

そんな事したらオレもハナにまた嫌われるからな・・・


年の功で冷静に対応するっきゃねぇな。


「ついでだから教えといてやる。オレはハナに惚れてる──────」

「だが勇気がなくてな、まだ告っても居ない。無論手を出してもいないさ」


結局、ハナが飛び出していったタイミングを勘違いしたんだろうなコイツ

裁縫物が得意なハナの事知ってるなら、鏑木さんのエプロン見せれば

ハナの仕事だって理解るだろ・・・たぶん


「裁縫物を頼んで届けてもらった。仕事上の行き違いで怒られた」

「──────それだけさ」


「ハナはな、オレのことなんか気に食わないようでな──────」

「いつも怒ってあの様子だ。アイツの早とちり癖」

「ハナのカレシだってんなら、オマエも知ってるハズだな?」


「──────ッ」


 年格好から見るに、ハナの同級生といったところか──────

コイツもハナを想って行動したとなれば、一方的に殴られたのもそれだけ

ハナに本気だってことか・・・


 ったく、ハナに惚れる男ってのは──────

どうして、どいつもこいつも不器用なんだよ全く・・・


「ボウズ、名前教えろ。心配すんな警察に言いやしないさ──────。」

「一方的に殴られた、恋敵の名前ぐらい知っておきたいからな」


「チッ──────木野山 明日太だ。覚えておけ!」

「ハナを悲しませるような──────ッ」

「──────事し、してみろ・・・許さねぇからなッ!!」


・・・何だよ今の間は。

まぁいい、冷静さを取り戻したようだな。

今更血の気が引いたか


「ヨシ、明日太。今日は帰れ、オマエもハナに惚れてるなら自分の想いで

 ハナを射止めろ、こんなやり方は異常だ。理解るな?」


 そう言い聞かせると、明日太という小僧は一つ頷いて

あっさり玄関を出て走り去った。一応玄関の鍵を掛け、動揺して高鳴る心臓を

落ち着かせるために自室のベッドへ倒れ込んだ・・・


何だったんだよ全く。


「あーぁ、イッてぇ・・・誰かに殴られんのなんていつぶりだ?」


 頬の内側の傷を舌先で探りながら、ハナが倒したアイツの写真を持ち上げる

もしかしたら、オレがまた同じ過ちをしないように明日太を寄越したのかも

しれないな。


なんて、考えすぎか──────


「でも。そうだよな・・・いい加減、決着を付けなきゃいけない時期なんだ」

「明日太って言ったけ、アイツのパンチのおかげで目が覚めたよ」

「終わらせなければ終わらないと想っていた夢から覚めなきゃな」


「ハナの為にも──────」


 そう思って、明日の講義後に話が有るとアイツに約一年ぶりのメッセを入れた。

当然、既読は付かない。すっぽかされても仕方ないさそれだけの事をオレは

したんだからな。


 たとえ来なくても、大学の閉門まであのベンチで待ってるつもりだ。

別れを言うなら、始まりのあの場所が最適だと想ってたからな──────



- flower - 



 久しぶりの雨予報を的中させて、夕闇を照らす街灯が濡れた道をキラキラ

照らす中、ワイパーがまるで涙を拭うように雨が打ち付けるフロントウィンドウを

定期的な間隔でキュゥと泣き声のような音をさせる。そんな複雑な思いの帰路を

さとるさんが無言でわたしの家までの道に車を進めていた。



 昨日、カスミの家で彼がわたしをまっすぐ見つめながら語った未練の話。

カスミが彼女を想う気持ちと、それがもう叶わなくなってしまった現実

そして、あの時一筋溢れたカスミの涙。


そんなカスミとカノジョさんの終わりにも見えたベンチでの出来事が

頭の中で、何度も何度も繰り返し再生されて

何故かわたしもぽろぽろと涙がこぼれた。


 耐えているけれど漏れ出す嗚咽を両手で口元を抑え、必死に押し殺していると

さとるさんがラジオのスイッチを入れ少し大きめにボリュームを上げた。


「ゴメンねハナちゃん。こうなると理解っていたら──────」

「言い訳に聞こえちゃうかもしれないけれど・・・」

「絶対、連れてくるべきではなかったし、誘ってなかったよ」


「もし華墨と帰りが重なるなら、華墨も乗せて三人で藤乃宮に帰ったら

 なんて思ったんだけど──────」


「えへへ、すん・・・さとるさん、カスミっていつもバイクですよ?」

「さとるさんでも、そんなポカするんですね。わたし少し安心しました」


 きっと、さとるさんカスミを拾って何処かでわたし達を降ろしてくれるって

そんなつもりだったんだと思う。まさかカスミとカノジョさんがあんな事に

なってるなんて、完璧王子も思ってなかったんだろうな・・・


 カスミ一年近くも二人の関係に迷っていたのに、たぶんわたしと昨日

あんな話をして、わたし思い出させてしまったんだカスミに・・・

カスミはゆうこさんにもうダメって云われても忘れられなかったのに

わたしが自分の思いを優先させて、カスミの気持ちをちっとも考えずに

追い込んじゃったんだ──────


わたしの──────所為だ・・・


「ハナちゃん、僕たぶんゆうこにすごく叱られると思うけど」

「あとでゆうこに連絡させるから華墨の話、聞いてあげて──────」

「ハナちゃんのその涙は素敵なことだよ。華墨を思ってのことだと想うから」


さとるさんはそんな言葉を最後に

それからわたしの家まで無言だった──────



「じゃ、今日は本当にゴメンねハナちゃん。僕明日休みだけど──────」

「何か有ったら連絡してね、罪滅ぼしはちゃんとするからね」


 そんな言葉を残して、さとるさんはお店に帰っていった・・・

さとるさん、本当にやらかしたって顔してた。

でももう大丈夫ですよ、明日はゆっくり休んでくださいっやらかし王子!


言葉に出さずに口の動きだけでそう言って、エントランスからエレベーター前に

進み、自宅の階のボタンを押す。エレベーターが来るまで、エレベーターに

乗って目的の階に着くまでも、どうしてかこんなに時間がかかるのか

複雑な想いで、玄関までやって来た。


たぶん、カスミとカノジョさん両方の気持ちをわたしの心が写し取って

しまってるんだ、その上で自分の気持ちも重なって。切なさが倍増しちゃってる


人を好きになるって、こんなに苦しいんだってわたしは初めて実感した。


「ただいま・・・」


「おかえり、今日も残業だったのね・・・ってアンタまた泣いたの?」

「泣いてないもん、お腹すいたのっ!!」


 でも確かに、ママの言う通り。花福に務めだしてから帰ってきた時のわたしは

それまでの“いつもどおり”じゃないよね。オコだったりしょんぼりしてたり

心配掛けるから怪我や冷凍ハナの事は、ママには話してないけど、感情的な帰宅

なのは確か。イイのか悪いのかわからないけれど、ちっとも“いつもどおり”の

わたしらしくない。


「最近のはな生き生きしてるよ、テニスはじめたときみたいにね」

「さ、ご飯食べよ──────」


 最近すっかり遅くなってしまってるお夕飯を家族二人で済ませ

お風呂でシャワーしながら、なんかひとしきりしくしく涙を流してから

部屋に戻ると、スマホに何度か着信があったみたい。


 22時を回っていたのでお店のグルチャで着信の主、ゆうこさんに

遅くなった旨を伝えようと画面を開く、毛筆体で華と書かれたアイコンに

目が止まり、昨日のカスミをまた思い出す。


力なく両腕を降ろして天井に向けた顔。

寂しさに耐えるように繋いだ手だけにチカラが篭り

筋張った首筋まで一筋流れた涙・・・


思わずそのアイコンに指を当ててメニューを開くと

一番下の“無料通話”と記された文字を観て、何度かタップしようと考えたんだ

でも、そんな勇気はこれっぽっちもなくて、メニューを閉じては開いてを繰り返す


 結局そんな事をしていても電話をくれたゆうこさんを待たせてしまうと思い

グルチャ画面に戻って遅くなった旨をゆうこさんに伝えると

すぐに折り返しの電話があった・・・


『ゴメンねハナちゃん夜遅くに』


「いいえ、こちらこそ遅くなってしまって──────」

「あの・・・さとるさんを叱らないであげてください」

「わたしが勝手にカスミとカノジョさんの事を覗くような真似したから───」


 でもそんな思いはすでに遅かったようで、さとるさんはすっかりゆうこさんに

絞られた後だったみたいで・・・。昨日の夜カスミから聞いた話を伝えると

ゆうこさんもカスミから聞かされた範疇で、カスミとカノジョさんの事を

話してくれた。


そして話の流れがあの“いくじ・なさ男”の性格の話になり・・・


『──────そうね、華墨くんも悪いのよ。ハナちゃんなら理解るでしょ?』

『華墨くん、相手の気持ちも自分の思い通りになると思ってる所あるでしょ』

『それがカワイイ所でも有るのだけれど──────』

『自分の気持ちをちゃんと伝えるべき時に伝えて、相手の気持が理解らなかったら

 カッコつけずにちゃんと聞くべきなの。そう思わない?』


「あ、それすごく理解ります。カスミって自分が始めなきゃ始まらないって

 思ってる節ありますし、それにいつも自分で手を繋いでおいて勝手に離すし」


『あら、フフフそうなの? せっかく繋いだ手を勝手に離しちゃうのね華墨くん 』

しまった・・・何度か手繋いじゃってるの言っちゃった、絶対今眼開いてるよー


 カスミが云ってた通り、わたしもゆうこさんに隠し事なんてしてもたぶん無駄

ゆうこさんは味方なんだから、隠し事なんてしないで全部素直に話さなきゃ

こうして深夜に話を聞くために、わざわざ電話してくださるんだから


「あの・・・ゆうこさん。き、聞いておいてもらいたいんですけど」

「わたし、やっぱりカスミが好きです。み、認めたくはなかったんですけどっ!」


『フフフ、知ってる。そうじゃなかったら聞き間違いだとしてもあんなに

 怒らないものね。好きとキライは表裏一体よ──────』


うぅ・・・もろバレ──────なんかやっぱり恥ずかし


『でもねハナちゃん。華墨くんに想いを伝えるのは少し待ってあげて欲しいの』

『彼もきっと、心の整理をする時間が必要なの。理解ってあげてね』


「ぅ──────」


 考えても居なかった・・・カスミにこの想いを伝えるって事。

カスミにわたしが好きって。こ、告白するって──────えぇ!!


で、でもそうだよ。昨日はカスミにあそこまで云わせといて・・・

でも、二人の気持ちを確かめ合ったら、や、やっぱりその──────

お、お付き合いとか、そう謂うことになっちゃうよね、やっぱり・・・


「ゆうこさん、わたし──────その、やっぱりまだそういう覚悟とか

 ぜんぜん出来てない・・・かも、しれません」

「は、初恋なので。ど、どうしたらいいですかねわたし──────」


『そうね、まずはお互いの事を知り合うことからはじめたらどうかな?』

『ゆっくりお互いの気持を育んでいけば、そのうちもっとそばに居たくなる』

『その時に決めたらイイんじゃないかしら。どうしたいかを、ネ』


 うぅ・・・さすがゆうこさん、聞いておいてよかったぁ・・・

あのまま、あの時カスミにキ、キスされてたらわたし、たぶん勢いに任せて

スキですって、言っちゃってたかもしれなかった──────


『ハナちゃん、華墨くんが気持ちをハッキリ伝えてくれるのを待ってみるのも

 良いかもしれないわ、それまでのキュンキュンした気持ちを

 ゆっくり楽しむのも素敵な事よ』


『そういう素敵な経験って、人生の中でそうそう何度も出来ない物なの』


 キュンキュンした気持ちって・・・もうダメ、さっきからずっとわたし

顔真っ赤だよ──────あ、あしたカスミにどんな顔して合えばいいか

わからないよ意識しちゃって、明日一緒に一日中車で一緒なんて。うぅー!


『ハナちゃん、さとるはおバカだから無視して、これからは私に連絡して』

『私はいつでも大・歓・迎。フフフ──────』


 そんな、絶対おめめパッチリな微笑みを想像させるフフフを聞いて

お礼とおやすみなさいと伝え、スマホを枕元においた。 


これは──────私もしかしてまた盛大に

自爆したかも・・・



 座っていたベッドにそのまま横倒しになって、カワウソのぬいぐるみを

抱き寄せてカスミのことを考えた。キライ・キライってずっと想ってた

はずなのに、いつの間にかこんなにもこの胸はカスミの事で

いっぱいになってる・・・


 カスミの部屋の合い鍵を持ってきちゃったのって、冷静になって考えたら

相当、凄いことしちゃったんだなって、今更ながらにドキドキしてる。


 ま、また勘違いしちゃったらすっごく恥ずいけれど、ゆうこさんとさとるさん

の話しで合い鍵を渡す意味を聞いて、もし同じ気持ちでカスミが私に合い鍵を

渡すことにあんなに抵抗や戸惑いが一切なく、すんなり渡してくれたのって

わたしを信頼してくれてるのかなって・・・それって──────


「だ、ダメよハナ!! 態度で示されたって、カスミ本人の口からちゃんと」

「好き! って誓わせない内はただの片思いっ!! 勘違いしちゃダメっ!」


 そう、カスミに誓わせないと・・・きっと、あのカノジョさんみたいに

悲しい思いをしちゃうし、カスミもまた悲しむことになっちゃう。

もう! ほんとダメ男ッ!!


わからせ、わからせが必要なんだから!!


「でも──────わからせられちゃったのは、どっちなんだろう」

人差し指の絆創膏を月明かりに照らして、そんな事を呟いた。


「ズルいよカスミ・・・ 無意識にわたしをこんな気持にさせて」

「──────っ、あの小悪魔男子ぃ!! バカばかっ!!」


そんな事を言って、キラおうとしてもこの背中の羽は

ちっとも言うことを聞かなくって──────


悔しくてクヤシくって・・・

カスミの咥えた人差し指を軽く噛んで・・・

また頬を窓際のバーベナのような薄桃色に染める。


「はぁ──────」

「だめだ今日はしばらく寝れないかも・・・すごいキュンキュンしてる」


 窓辺に置いた、月明かりに照らされたバーベナの鉢植えを眺めながら

人差し指の絆創膏を手で包み込んで、高鳴りっぱなしの胸に抱いて

瞳を閉じた──────


 カスミはゆうこさんに仕向けられたとしても、バーベナのブーケを

わたしに贈ってくれた。アレがカスミの云ってたゆうこさん流、恋愛講座の

一旦だとしたら、今日の電話でわたしも、ゆうこさんにすっかり教わって

しまったんだと想う。カスミの事が本当に好きなんだって。


 でも、わたしがカスミの“関係を自分一人で勝手に出来る”って態度に

オコだったように、わたしだけの気持ちで先走っちゃいけないんだ。

カスミの気持ちも考えて二人で決めなきゃいけない事なんだって・・・


そう改めて想うと、今決めた片思いって状態がとてつもなく苦しい

物なんだって、カスミの気持ちが何となくわかってるだけに、もどかしい

気持ちで胸が張り裂けそうになって辛くなる。


「いくじなしのアンタのせいなんだから、ばか──────」


 どうして涙が出るのか全くわからないんだけど、アイツの名前を口に

出しただけで息が詰まるほどに苦しくなる。手の甲で目と鼻をグシグシ拭って

起き上がる。はぁダメだ、このまま寝るのなんて出来ない感じ・・・


 改めて部屋を見渡すと、いつの間にかカスミ由来の物がいっぱいな事に気付く

カスミが最初に贈ってくれた薄桃色のバーベナの苗物、最初のバンダナで作った

物とカスミがエプロンに乱暴に縫い込んだ糸を織り込んだバスケット一杯の

色とりどりのシュシュ、カスミの部屋の合い鍵、カスミを想って彼のために

選んで買ったまだ渡せない煙草入れ、カスミが手当してくれた人差し指。


そして、カスミとゆうこさん共犯で届けてくれたバーベナのブーケ・・・


「あによ・・・いつの間にかカスミだらけじゃないのよぅこの部屋・・・」


 泣きそうになりながら、ふと思った。

ここ数日、お客様にお花を届ける時たまに聞かれたアノ台詞。


花言葉──────


 つらい気持ちを紛らわすために、バーベナの花言葉をスマホで調べて後悔した。

なによこの運命的なイタズラ・・・今のわたしには猛毒じゃない。


十数秒で消灯する寸前の画面には、こう文字が記されていた──────

バーベナの花言葉。それは──────



enchantment. 魅力


pray for me. 私のために強く願い求めてください


I weep for you. 私はあなたのために泣きます


そして──────family union. 家族の和合



 思わず布団をかぶって枕に顔を埋めて、大声で泣いてしまった。

全部、今の自分に花言葉が語りかけているような気がして──────





- flower -





翌日──────


「ぅうーわ・・・アイアク──────」


 結局、泣き疲れてそのまま眠ってしまって見事に泣き腫らした顔・・・

いつもより早く起きたのが不幸中の幸いだった。熱いシャワーを浴びて

お店のポロシャツを着る前に、アツアツのおしぼりを顔に乗せていると

部屋をノックされた・・・


「はな、入るよー。あーぁやっぱり・・・」

「な! 何がやっぱりなのよ、疲れ目でクマが──────」


「そうね、夜中キッチンまで聞こえてたわよ。ホラこれしていきなさいな」


 そう言って、ママがお仕事で絵の参考に使う、赤縁の伊達メガネを

貸してくれた。うぅー、泣き声聞こえてたか、不覚・・・


「ねぇ、ママのファンでとかコンシーラーで隠せないかな、この泣きクマ」


「普段化粧もしないアンタが? やめときなさいな」

「健康優良児のアンタと、引きこもり絵描きの私とじゃ肌の色違うでしょ」

「私のメイクで隠そうとしたらアンタの顔お面みたいに成るわよ?」


 徹夜明けで打ち合わせとかに出向く為にお化粧でゴマかす

メイクが得意なママだけに説得力有りまくり・・・


仕方ないのでメガネを借りた。ぅうー・・・なんかこれ、余計に目立ってる気が

メガネに合わせてなんとなく下ろした髪。最初に作った赤いシュシュを

手首にして家を出た。



 すっかり“いつもどおり”になってしまった藤乃宮の改札を出ると

また仁王立ちのキサちゃんがお出迎え・・・。あからさまな伊達メガネに

照れながらその元へ歩み寄って手を差し出した。


「ウッハー!! kawaiiメガネっ娘が来たぞ・・・って」

「ハナ、アンタ何かあったでしょ泣き腫らした顔して──────」


 差出した手をキサちゃんに握られて、彼女にはこの眼鏡の仮面は

すっかりお見通しだった。もう隠していてもまた自爆して余計なウソを

重ねるだけだから観念して、カスミに好意を持ってしまったことと

バーベナの花言葉にヤッツケられた話をしながら本店まで歩いた。


「わたしの心に空いた足りないものを花言葉に教えられた気がしてね

 そしたら、なんか泣けちゃって・・・朝、鏡見たらこれなんだもん」


「ハナはやっと気付いたって事だなぁ自分のキラキラにさ」

「あーしは最初っからしってたけどなー!」


そんな事を云われながらまた恋人繋ぎをギュッとされたんだけれど

交差した指を器用にも工夫して握られた変則恋人繋ぎは

不思議と痛くなかった。


 二人で“おはようございます”と言いながらバックスペースへ入ると

サチ店長がスマホを耳にしながら一つ頷いていた。こんな朝早く誰とお電話

してるんだろうと思いながら二人で二階の事務所に上がった。


 もうすっかり体力的にも慣れてしまった開店作業をサチ店長、カスミと

末妹の二人でこなし、店頭に舞った砂埃をくわえタバコで水をまき

流してゆくカスミ。


 こうして見るに、カスミは昨日有ったことなんか全く感じさせない雰囲気で

ホッとしたのか、やっぱり感情的にドライなのかチョットわかんなくて

少しフクザツ・・・


竹箒の柄に顎を乗せ、カスミをなんとなく眺めていたら目が合ってしまう


「ん? どしたハナ──────」


「べ、べつに・・・ねぇ、苗物に水掛かってるよ土流れちゃってるし・・・」

「・・・うわマジだ、ヤベ!」


もう、ばか・・・


 カスミがカノジョさんと暮らした部屋を出た次の日、カスミはぼんやりして

配達中に捕まっちゃったらしいけど、今日はそんな事ないよね?

昨日二人の関係になにか重大な出来事が有ったとして、重たい尺鉢を抱えて

うっかりプールに落ちて溺れるとかないよね? 

怪我とか事故とかしないよね?

ねぇ、カスミ・・・


「ふぁーぁ。ま、こんなもんか。とりあえず休憩しようぜハナ──────」

「あ──────。うん」


 ホースリールを片付けて戻ってくるカスミを待ってお店に戻る時

なんとなく手を繋いでほしくて・・・ でも、そんな事──────

仕事中だし、サチ軍曹とキサちゃんに誂われること必至だし

絶対にできないけど。でも、やっぱりどこかこの心は

カスミに甘えたくて・・・


末妹が単に兄に甘えたいのか、それとも好きな人にそうして貰いたいのか

どっちなのか自分でもどっちかなんてわかんない。

何この感情、意味分かんないよ。


 こんな事想いながら今日も一日カスミと一緒に仕事なんて、出来るのかなわたし

ぼんやりしてたらカスミの事心配する前にまた怪我とかしそう・・・


「オイこら、そこ! 聞いてるのかハナ隊員ッ!」


ホラさっそく叱られた・・・。サチ店長が今日の売上作戦を話してるのをそんな

ウワノソラで聞いちゃってた。気持ちを切り替えなきゃダメだ。

ちゃんとカスミみたいにお仕事モードにならなきゃ・・・


「いいかお前等! 本日の売上目標だが──────」

「昨年は商店街の角、ラーメン屋の開店祝いのせいでイレギュラー」

「普通に売っては前年比達成はまず無理だな、そこでだな──────」


「ハナ、今日はミルクティーな気分だろ? はいよ」

「ん、ありがとキサちゃん──────」


 サチ軍曹じゃない、店長は昨年対比をボーダーにして、わたし達にも

わかりやすい売上目標をいつも立てる。外回りメインのわたしには実感は

あまりないけれど、きっとキサちゃんやハルナちゃんはこの目標を

達成するように毎日頑張ってるんだなって思った。

ミルクティーな気分ってなんだ?


「──────で、今朝のゆうこから連絡によると西口のハルナが熱出して

 今日は休みだ。アンテナ店の戦力を欠く訳にはいかん」

「ハナ! 西口にヘルプ行って」


「──────えっ・・・」


「呆けてるな、返事ッ!」

「は、ハイ!!」


 突然、憧れだった西口、お花の国で仕事する羽目に──────

たった三日前の自分なら、この作戦命令にきっとすごく喜んでただろうなって

でも、なんだろう。今は少し残念に思う・・・


「華墨、午前中の配達の前にハナを西口に送って」

「はいよ了解。ハナ、初日以来の開店作業二回戦だけど、大丈夫か?」


 ぅ・・・、今はそんな心配してくれるんだカスミ──────

もしかしてカスミって、人見知りする方なのかな

一週間前の初日はあんなに突っ慳貪な感じだったのに・・・


「さって、キサラ。今日も“店ごと”全部売ってイイから」

「ガッテン承知!」


「──────じゃ、西口行こうかハナ。荷物持っておいで」

「あ、ぅ・・・うん」


 二階から荷物を持って助手席に乗せ、配達のお花を藤乃宮のトラックに

積み込むカスミを手伝って、多分今日はもうお別れのサチ店長とキサちゃんに

挨拶をして助手席に乗り込んだ。はぁ──────西口かぁ・・・

わたし、あのお花の国でちゃんとお役に立てるのだろうか

わたし、メチャガテン系花屋なんですけど・・・

だいぶ不安──────


「あの・・・さ。カスミは午前中からすごい量だね配達」


「だな、いよいよ母の日まで最後の一週間だからな、正念場って奴だな」

「──────そう、だね」


 カスミからそんな事を云われて、少し胸が苦しかった。

そうなんだよね、あと一週間でわたし達は、花福をとりあえずの卒業になる

カスミや皆さんとお別れになってしまうのかなって・・・

今はただそれがすごく寂しくて──────


「ハナさ、今日もなんか怒ってるか?」

「なんか元気無いし、眼鏡なんかしてるしさ。機嫌悪いのかなって」


 もう、カスミってわたしが落ち込んでたり俯いてるだけですぐ

怒ってるって思うんだね。単純っていうかなんていうか──────


「怒ってない、女の子には色々有るのっ!!」

「あー・・・そっか、悪い」


なんか変な誤解されたっぽいけどまぁイイや、黙ったから。


 今、カスミと仕事以外の話をしたら昨日カスミの大学で有ったことを色々

聞いてしまいそうに成る。さとるさんが言ってたように、昨日わたしは

あの場に居なかった事にしないといけないんだから、カスミとカノジョさんに

何があったかなんて絶対に聞いちゃいけないんだ


理解ってるんだけど──────

もし、今カスミの隣の席が空席になったんだとしたら

真っ先にわたしが座って二度と席から離れられないように

シートベルトをキツく掛けてしまいたい欲望に駆られる・・・


頬が染まるような感覚に、慌てて話を逸らそうと今朝キサちゃんに

話したことをカスミに聞いてみた・・・


「ねぇ、カスミチョット聞きたいんだけど、花言葉って有るでしょ」

「カスミって花言葉詳しいの?」


「え? あぁ良く配達先のお客さんに聞かれるよな」

「花言葉ってさ、本とかサイトによって区々だったりするから当てにならないぞ」

「ネガティブな言葉も多いしな」


 そう──────なんだ・・・

じゃ、カスミは花言葉の意味を理解ってあのバーベナをわたしに

贈ってくれたんじゃ無いって事か──────


「オレがよく花言葉を訪ねてくるお客さんを黙らす必殺技教えてやろうか?」


「今、このお花を見てあなたはどう思いますか?」

「今思った事が、あなたにとっての花言葉ですよ。ってな」


「これで大抵のお客さんは納得するよ。困った時はそう言いな」


 何よそれ・・・カスミらしくもない。

あ、そうか。きっと、ゆうこさんに教わったんだな・・・

末弟め──────


「それって、ゆうこさんからの受け売り?」


「いーや。オレが考えたやつ──────」


──────なによ、カスミのくせに・・・

でも、今なら理解るよカスミなんとなく、そんな気がする。

カスミって、本当は純粋で優しい奴なんだ。それが男の子として照れくさくて

恥ずかしいと思ってるからきっと変にカッコつけたり、ムリするんだ・・・


 ねぇ、カスミ。わたしまだ貴方の事、こんなに知らないことがいっぱい。

貴方はわたしのこと全然聞いて来ないけど、知りたくないの?

お互いもっと相手の事知りたいって想えば、自然と距離が縮まるって

ゆうこさんそう言ってたけど、距離を縮めたいのはわたしだけみたい


もしそうなら、わたし泣くよカスミっ!!


「さ、つーいた。ハナ、明日シフト休みだろ?」

「明後日はオレ休み。じゃ! 週中までガンバな。ホラ、グレープ味」


「あ、うん・・・ありがと」


 じゃ! なんて、わたしが降りたらまっすぐ前向いて走り去っちゃったけどさ

忙しいのは理解るけど・・・もしかしたら三日以上会えないんだよ?

なによもう! カスミやっぱりドライすぎだよ──────


カスミのばか・・・


 ため息を付いてお店の方を見ると、姫店長がコッチ見てるぅ──────

見開いた瞳で・・・うわぁ~。カスミめ、だからそそくさ逃げたのかアイツっ!


「お、おはようございます。今日一日よろしくおねがいします・・・」

「フフフ、ハナちゃんおはよう。さっそくだけどコッチにおいで~」


 ユキさんとタカコさんがお店を飾り付けてる最中なのに、ゆうこさんに

バックスペースに連れ込まれてしまった・・・。あ、朝から何のお話だろう


「ハナちゃんお裁縫は得意よね? タカちゃーん。ちょっといい?」


 どうやら、ゆうこさんは店売り初心者のわたしに、今日一日の役割を考えて

下さってたようで、デザイン学校卒でカラーコーディネーターの有資格者の

タカコさんから幾つか、色合わせのクイズを出されて8割正解すると・・・


「やっぱり予想通りフフフ──────」

「じゃ今日ハナちゃんはわたしの助手さんよろしくね!」


 西口のお店は、藤乃宮と違い街場のお花屋さんだけ有って鉢物より切り花が

よく売れるそう。また忙しい時間も昼下がりの十五時過ぎから夜がメイン。

袋に入れてお金を頂いたら終わりの鉢物と違い、花束やアレンジメントは

お客様の注文に合わせてその場で拵えないといけないだけに

社長が母の日イーゼルを前に語ったように、お客様一人に掛ける時間が

売上に直結する。いかに手早く素敵な品物を作るかが鍵になる。


昨日までのお客様の動線は、ハルナちゃんとタカコさんがお客さんを店内に

ご案内しユキさんが、お客様のご予算と用途、お渡しする方の印象などを聞いて

最適なお花選び、それをゆうこさんが姫君の魔法でアレンジメントや

花束に仕上げる。


 最初に担当した店員が、わたしだとしたらたとえ花束やアレンジメントを

作れたとしても、お花のお渡しまで二十分ぐらい掛かってしまいそう・・・


得意分野で分担して、お客様一人にかける時間を少なくして回転率を上げる

作戦なんだってゆうこさんは教えてくれた。


そう教わって思い出した。


 こどもの日に社長とさとるさんがまるで、テニスのダブルスのペアのように

阿吽の呼吸で一つの花束を手際よく拵えていた。今日はわたしがさとるさんの

役目をすれば、ゆうこさんがいち早く次のお客様のお花を手がけられるんだ。


「──────でね、ハナちゃんはお裁縫が得意みたいだから、ラッピングを

 上手にできるんじゃないかしらって。午前中はお客様も少ないから

 一緒に練習してみましょ!」


 店内のショーケースに陳列された切り花達。それぞれに品種名が有って

お店の皆さんは、けっこう品種名で呼んでいる。品種名どころかお花の名前も

怪しいわたしは、ざっと見渡してもバラ、カーネーション、ユリ、キクぐらい

しか判断できない。そのカーネーションにしても、茎からまっすぐ一輪咲きの

ものもアレば途中幾重にも枝分かれして、一茎多花咲きの物も有る・・・


たとえば、ゆうこさんが“赤いカーネーション取って”とお店の娘にお願いしたら

多品種あるショーケースからどれを取っていいかわからない。

だから皆さん品種名で呼んでるんだ・・・


「ハナちゃん、わたしも皆も全部覚えてるわけではないのよ」

「これ、市場の伝票ね。ココに書いてある品種名をなんとなく覚えてるだけ」


「品種名はねそうしている内に、自然と覚えてしまうから大丈夫よ」

「暗記しようとしても二週間じゃムリだから気にしないで、それより・・・

 ショーケースの中でハナちゃんが一番好きなお花どれかしら?

 インスピレーションでいいわ、教えて──────」


ゆうこさんにそう云われて、ショーケースの中をざっと見回した・・・


「あ、これカワイイ。これ好きです」

「あらクルクマちゃんねお目が高い! 今年の初物よ」


「あ、そ~言えばフフフ。ハナちゃんはカレーライスが好きなんですってね」

「クルクマはね、ショウガ科ウコン属のお花よ。カレーに重要なスパイスの

 ターメリックはクルクマの根の部分なのよ──────」


 そうなんだ・・・ あの、ゆうこさん。わたしカレーライス好きっていうか

メニューにいちいち悩むのが面倒くさいからカレーばかり頼んでしまうコレは

癖なんですぅ・・・


でも、そう云われるとなんだか運命的な何かを感じてしまう──────


「ハナちゃん、このケース中で今一番お客様におすすめしやすい花。

 もう分かるわね? そうして好きな花を少しずつ増やしていけばいいのよ

 一年もすれば好きな花でいっぱいに成れるから、ムリに覚えなくても平気よ」


 な、なるほど・・・ お花屋さんに勤めてお花を売るのがお商売なのに

そのお花の名前を知らないって謂うのは結構問題かも・・・

配達の時にお客様に聞かれたし・・・


 今度本屋さんでお花屋さんで売ってるお花の本でも探してみよう。

そうだ・・・さっきカスミと話した事で出てきたお花の本の話・・・

本に拠って書いてあることが違うってあの・・・


「あ、あのゆうこさん。ちなみになんですが・・・」

「クルクマの花言葉って、ご存知だったりしますか?」


昨日バーベナにヤッツケられたから、聞いとこうかなって・・・・

そう思ったんだけど、ゆうこさんは知らなかったみたいなのだけど──────


「クルクマの花言葉は“あなたの姿に酔いしれる”です」


 お店の飾り付けとお水やりを終えたユキさんが、すれ違いざまに

クルクマの花言葉を教えてくれた。それを聞いて、何故かゆうこさんが

プーと吹き出して・・・


「弐号ちゃん、弐号ちゃん! あとこんなのも有るよー」

「“忍耐”と“因縁”だって! ガッツある弐号ちゃんにぴったりじゃん!」

「そう言えば・・・ だーれかさんに初日からメチャ噛み付いてたよね~」

「もしかしてー、因縁ってそれかなー?」


 スマホ片手のタカコさんに、ほっぺをツンツンされながら

そんな事を云われて・・・


「あらあらまぁ、ハナちゃんにぴったりじゃない!」

「や、止めてくださいゆうこさん! わたしやっぱり花言葉は信じませんっ!」


わたしの花言葉の話題は見事に、朝のお茶の時間のアテになってしまった・・・


 近所のドーナツ屋さんでタカコさんが買ってきたオールドファッションを

頂いて、お昼までゆうこさんの助手になるべく花束ラッピングの練習。


こどもの日に、社長の助手を務めていたさとるさんの話をゆうこさんに

伝えるとまさにその通りだったらしく、わたしはあの時のさとるさんの動きを

思い出してトレースする。


 ユキさんが選びだした切り花から、完成状態の花束を思い浮かべ

お花を引き立たせるような色合いのラッピングシートを選んで・・・


「ゆ、ゆうこさん長さはどれぐらい──────」


お客様とお話しながら、花束のカサ似合った長さを指差してもらい

裁ちばさみで一太刀。ラッピングシートより少し長めに透明フィルムも

切り出して、同系色のリボンを編む・・・


「メッセージカードをお付けできますので、よろしければ如何ですか?」


 これは藤乃宮でキサちゃんが接客していた時のマネ。

お客様にそうお伝えしたタイミングで、色々なメッセージカードが入った木箱を

ユキさんがお客様にお渡ししてくれてメッセージを書いていただく。


リボンが編み上がるタイミングでゆうこさんが花束を“ラフィア”と呼ばれる

椰子の葉の紐でステムを縛り上げながら


「ハナちゃん、8,800円頂いて──────」


 そう言い付かってお会計をさせて頂くと、即したようなタイミングで

ゆうこさんが見事に出来上がったカーネーションの大きな花束をお客様に

お渡しして思わず実践練習に成ってしまったお客様に皆で

“ありがとうございまーす!またお越しください”とお見送りをして

ホット一息──────


「ハーナちゃん! か・ん・ぺ・き。サチちゃんのお見立て通りね」


 ゆうこさんがそう言うと、ユキさんが微笑んでタカコさんは見事な

サムズアップをわたしに向けてくれた。





- flower -





 結局、お昼前から花束やアレンジメントのお客様が立て込んで

練習らしい練習も出来ないまま、即実戦でゆうこさんの補佐をさせてもらい

お客様が切れたタイミングでゆうこさんとお昼休みに入ることに・・・


どうせなら藤乃宮では食べれない物を食べましょ! とお店からそのまま

手を引かれて、お店裏のイタリアンのカフェ飯をテイクアウトで買い。

バックスペースで一緒にお昼した・・・


「ハナちゃん。カスミ君、今朝の様子はどうだった?」

「♪~ ──────え゛ッ!」


 唐突にカスミの話を振られて思わずゆうこさんを二度見した

たぶん、相談を受けてたゆうこさんも心配してるんだと思う・・・


「──────まさか、あの場面をわたしが見てたとは、カスミ

 思ってなかったんでしょうけれど。まるで何もなかったように振る舞って・・・

 なんかわたし、勝手にもらい泣きしちゃったのが悔しくて・・・

 カスミってなんであんなに変にドライなんですかね?」


 そうだよ、カスミの部屋で未練の話をした時は、あんなに優しい雰囲気で

誰よりあの人のこと想ってる風で、なんか今思えば嫉妬しちゃうぐらい

感傷的だったくせに・・・。


「ひょっとして今朝のカスミのアノ態度って──────」


「そうツヨガリ。華墨くんね、そういう所あるのよ。

 特にハナちゃんの前では、人前で弱い自分を見せたくないんじゃないかしら。

 フフフ、男の子よねー」


 やっぱり・・・ カスミの部屋での出来事が引き金になってカノジョさんとの

関係をどうにかしようとしてたなら、わたしに怒ったり、寂しい顔を見せたり

してほしかった・・・ たぶんこのなんか腑に落ちないソワソワってそのせいだ


「でも、そういう時こそわたし・・・ た、頼ってほしいと言うか」

考えてみたら、カスミがわたしの胸で泣いた時も、すぐに自分から離れて・・・

カスミ、どうしていつも自分から離れてしまうんだろ。

そういうのって、すごく不安になるんだよ?

必要とされてないのかなって・・・


「でも、あの子自分でも解ってると思うの。じつは強くなくて甘えたいって」

「昨日の今日ですもの、少し様子見ましょ・・・」

「ねぇハナちゃんそのメガネ。もしかして伊達?」


ぅ──────、やっぱり理解っちゃうよね突然メガネしてたりしたら・・・


「はい、じつは昨日寝る前にバーベナの花言葉を調べたら今のわたしに

 ドンピシャで。なんか、運命的なものを感じちゃって泣けちゃって・・・」


「あら、そうだったの?」

「そう言えば華墨くんがハナちゃんにあげてたわよねバーベナの苗物」


 ゆうこさんやっぱりバーベナのブーケも自分が関与してないような

素振りだ、花言葉も知らないみたいだし・・・。


今わたしがゆうこさんにあのブーケの事聞いても、たぶん答えてくれない

だろうし惚けられちゃうと思う。聞いた所で、もうそんな事よりカスミがあの

ブーケをどう想ってるのかの方が重要になっちゃってるから

もうゆうこさんにブーケの事聞く必要もないか・・・


それより


 不思議なのは、バーベナの花言葉がこの花福の皆さんやわたしにぴったり

すぎるほどの意味を持ってたのに、誰もそれを狙って居たんじゃないんだって

それがなんだか余計に運命的なものを感じて、胸がキュってなる・・・


「ハナちゃん、チョットゴメンね」

「──────ゆきちゃんタカちゃん、忙しそうだけど大丈夫?」


「大丈夫です。時間までゆっくりしていて下さい」


 わたしがカスミの事で頭が一杯になってる最中も、ゆうこさんはお店の様子も

ちゃんと気にしていたんだ。店長さん流石と思うけど、同時にやっぱりわたし

カスミのことばっかり考えてちゃダメだ・・・ 末妹に甘えてたら

いつまで経っても皆さんの“家族”になれないよね──────


そう思ってソワソワしてると、ゆうこさんがハーブティーを入れてくれて

食後のお茶までごちそうになり、気にしないでと気遣われてしまった。

もう、ホント。この人はわたしが憧れるべき存在で、社会人として

お手本にすべき“お姉ちゃん”なんだって、そう思えた。


「弐号ちゃん! お昼終わったらアタシと倉庫にお花取りに行こ!」


 タカコさんにそう云われて、時計を見ると丁度お昼休みも終わりかけていたので

歯磨きをしてバックスペースを出た。お店をゆうこさんとユキさんに任せ

タカコさんと西口の軽トラックで倉庫に向かった。



「焦ったー、さすが日曜だね。なんか近くで発表会が有ったみたいでさ」

「花束爆売れで切花足りなくなっちゃってさ──────」


改めて考えてみたら、こうして西口の方と二人っきりになったのって

一週間勤めて初めてだ・・・


「ねぇ、弐号ちゃ──────じゃなかった。ハナっちってさ」

「カスミンの事、好きでしょ?」


──────ぅ?!


「えっ! そ、そんな事ないですって! アイツ、キラいです!!」


「ひひっ、じゃそういう事で。カスミンさ、カノジョいるの知ってる?」

「じつはさぁ、アタシそれ知っててカスミンにアタック掛けてたんだよねー」


・・・う。そ、そうだったんだ。

そうして考えれば・・・一次面接の時も、初日の歌舞伎揚げ配り事件の時も

タカコさんとカスミ、なんとなく距離感近いなって思ったのは

そういう──────


「カスミンさ、カワイイじゃん? アタシもカレとチョイ倦怠期でさ」

「当て付けにカスミンと浮気でもしてやろうかってさ──────」


た、たかこさんって・・・ 意外としたたかというか、大人の考えで恋愛を

捉えてるのかな・・・。でも!


「そ、そういうのよくないと思いますっ!!」


 言ってしまってからシマッたと思った・・・

カスミは自分の彼氏でもないのに、よくそんな事堂々と言えるなって──────


「──────たはは、やっぱそう思うよね」

「実はさ、一度終電逃したふりしてバイクで送って貰ったことあんだけどさ」

「すぐバレて、カスミンにもやっぱ叱られてさ。最寄り駅で降ろされちゃった」

「ハナっちさ、アイツ良いやつだよ。絶対浮気出来ないタイプ」


「ぅう・・・タカコさんはカレシさんとその後どうなったんですか?」


 いひひやっぱ心配? なんてクスクス笑いながら、わたしを流し目で見てた

そ、そりゃ心配ですよ! 恋敵になるかもしれないと思ったら・・・

タカコさん、わたしより大人ですしぃ? そ、そういう経験も豊富そうですし

きっと・・・カスミもわたしみたいなお子様で扱いの面倒くさい娘より

フランクにお付き合い出来る大人の女性のほうが──────

カスミは・・・そう思うのかな──────


「結局さ、アタシ今彼とより戻してね。カスミンにごめんなさいしたよ」

「バカだなってカスミンさ、すべて理解ってたみたいで・・・」


 カスミ、自分がそうされたらツライの知ってるから

カノジョさんのこと、あんなに思える人だから一時の情動に動じないんだ

そう言えば・・・ わたしに彼氏がいるんじゃないかって話の時

横恋慕とかそういうのキライだって云ってた──────


「カスミンにとっての彼女は、アタシじゃ役不足だったんだーって思った」

「カスミンが彼女に求めてるのってさ、守ってあげるような存在なんだよ」


「その点アタシはさ、一人でも何とかしちゃうって思われたんだろうね」

「実際そうだし。それか、軽い女って思われたのかも・・・」


 タカコさん、結局わたしにその話をしてどういうつもりなんだろ・・・

ライバル心? わたしにカスミの事は諦めろって言いたいの?


そりゃ、わたしはまだカスミと付き合いも浅いですよ。

でもね、タカコさんみたいな気持ちでお付き合いしたらきっと二人共

悲しい思いすると思う。カスミのあの涙を見た今なら

確信を持ってわたしはそう言えます!


「さ、つーいた。ハナっちさ、アタシがストッカーから持ってく花選び出して

 入り口に置くから、トラックの下まで運んでー。積むのは二人でしよ!」


 話の意味もわからず、モヤモヤした気持ちで運び出した切花を

二人で積み込んで、助手席に乗り込んだ。倉庫のシャッターを閉めて

ペットボトルを二本手にして、タカコさんが運転席に戻ってきた。


「ふぅー。ちょっちサボろー、10分ぐらいさ。姫にはナイショだよー」

そう言いながら、ミルクティーを差し出された・・・


「──────ストッカー奥の白い花桶にさ、飲み物隠してあるの。さとるっちが

 月曜にいっぱい補充してくれるからさ、ハナっちも好きな時に飲んでいいよ」


「あの・・・さっきの話──────」


 その真意を聞きたくて、ミルクティーのフタすら開けずに居たわたしに

タカコさんは、カスミについてご自分が知る範囲のことを語ってくれた。

彼女が居る事、倦怠期を迎え関係が上手く行ってない事、でも別れられない事

忘れられないほどに、あの人を好きなこと──────


「でもね、カスミン見つけたんだよ、きっと」

「彼のキラキラ星をさ。誰のことかは知らないけどねー」


「ねぇ、ハナっちはカスミンのどんな所が好き?」


 そんな事を云われてまた戸惑う。わたし、誂われてる?

そう言えば、カスミも言ってたっけ。末弟だからいつも誂われるって・・・

このすぐ上のお姉ちゃんも末妹を誂ってるのかな──────


「アタシはね、カスミンのあの一途な所が好き・・・だったかな」

「ゆうこさんに色々相談してるみたいだけどさ、それがなんでアタシじゃ

 ないんだろうって、すごーく嫉妬した」


「前に一度カスミンにそう言い寄ったんだけど、詳しい話アタシには全然

 教えてくれなくてさ。恋人同士の関係がダメそうでも、彼女のプライベ話

 ゆうこさん以外に話さないって凄くない? そこまで好きな人の事

 大事にしてるって、惚れちゃうでしょそんなの普通」


「アタシもそれだけ一途に大事にして貰いたいってそう思った」


「うぅ・・・・・・」


「ハナちゃん。アイツ、きっとハナちゃんの事好きだよ。観てれば理解る」


 そ、そんな急にわたしの話になるんですか?! てっきり恋敵宣言されて

カスミに手を出すなって云われてるのかと思ってたのに・・・

どうしてそう思うんだろ? それだけカスミのこと知ってるから?


「例えばさ、カスミンってハナちゃんに自分の事色々しゃべる?」

「何が好物だとか、犬と猫どっちが好きかとか、絶叫マシンが大の苦手とか

 実はコーヒー飲むと胃が痛くなるとかさ──────」


「ぅ──────・・・ 全然」


「ホラ、アタシにはベラベラしゃべるよアイツ──────」

「もう解ってると思うけどアイツ、テンパるとツヨガルでしょ?」

「もし、ハナちゃんにベラベラ自分の事喋らないってことはさ──────」


「二人でいる時安心してるんだと思う、華墨くん」

「だからさ──────、焦ん無くてもいいよ。大丈夫」


 結局・・・タカコさんもわたしが不安に思ってることお見通しなんだ・・・

それだけじゃなくて、初日のわたしの勘違い本気ポニーからカスミの事

気になってるのバレバレだったって事かぁ──────うぅーなんか恥ずかし


「でもま、アイツやっぱ良いやつだからハナっちが二の足踏んでたら」

「アタシが奪い取る!」


「やだ、ダメです・・・!!」


「ならキライキライって言ってちゃダメだぞ、お姉さん本気だかんねー」

「さ、帰ろっか。ゆうこ姫に怒られちゃうからさ!」


 結局、カスミのこと知りたいって本人から聞かされて無い事をタカコさんから

教わってしまった。って言うか、カスミってコーヒー苦手だったの?!

なら、どうしてスタカフェやカスミの部屋でコーヒー入れたりしたんだろ・・・



 そんな疑問がまた一つ増えたまま、お花を補充し午後も結構バタバタし

ゆうこさんの助手役をこなしている内に定時の18時をほんのり通り過ぎていて。

連休中の繁華街、暗くなる頃には客足が遠のき、すっかり暇になってしまい・・・


「ハナっちさ、裏で待っててくれるなら藤乃宮に売上持っていくから

 本店まで乗せってあげるけど、どーする?」


 タカコさんにそう言われ、十九時のレジ閉めまで待って藤乃宮に送って

もらった・・・よくよく考えたら、西口から私鉄で帰ればソッチのほうが

遥かに近かったんだけど、なんでだろ──────


「ん? あれ、ハナ帰ってきちまったのか・・・」


 カスミが本店のお店を閉めて外の水撒きをしてる丁度その時にタカコさんに

西口の売上を持たされてカスミの真ん前に降ろされてしまい、ニヤニヤしてる

タカコさんはクラクションを二回鳴らしてそそくさと西口に戻って

いってしまった──────やられた~。コレを見越していたのか

お姉ちゃんメ・・・


「カスミこれ西口のさ、売上。もうお客さん引けちゃって──────」


「そうなんだ。ま、日曜だし飲み屋街も閑古鳥だろ」

「まってな、本店の分も合わせて社長のとこ持っていこ」


 キサちゃんは定時で上がったみたいだけど、やっぱりだいぶ売ったみたいで

サチさんとカスミだけでお店閉めるのも楽だったみたい。


「お、ハナ隊員戻ったか。どうだった憧れの西口は?」

「なんか・・・物足りませんでした」


「ハッハッハ、だろうな。ハナはもう立派な藤乃宮部隊員だからなー」

そう言いながらサチ軍曹はヘルメットを被って白いスクーターで帰っていった。



 それから、カスミと二人で社長のお家に両店の売上を持って行って

社長がカスミに晩ごはん食べてきなってお金を渡してるのを見て、ママに

お夕飯は済ませて帰るからって、連絡を入れた・・・


 カスミが、どっかそのへんで晩飯でも食べて帰るかなんて言ってきたんだけど

そのカスミの顔がいつもどおり砂埃で真っ黒で・・・一緒にお店に入るのも

なんか恥ずかしいよって言ったんだ・・・。


そしたらカスミは──────


「ふぅー。さっぱりした。ハナ、コーヒー飲む? 入れるけど」

「あ、わたし入れるよ・・・カスミはさ、コーヒー以外いつも何飲んでるの?」


「へ? あぁ、冷蔵庫に烏龍茶水出ししてるの有るからそれかな」

「ん、わかった・・・」


 って! 何でカスミの部屋でイーツ待ってるんだろう・・・

なんとなく流れでカスミの部屋まで付いてきちゃった。

だって! 今朝のままほっといたら木曜日まで会えないんだもん

仕方ないよ。うんこれは仕方ない!


「ハナ、チョイコッチ来て」

「まって、お茶もう出来るから──────」


 自分のカフェオレと烏龍茶のグラスを持って、カスミの部屋に戻ると

タブレットを観ていたカスミがそれをわたしに向け、どれが良いと聞いてきた


「バイクキライって言われてもさ、すぐ車買うわけに行かないから」

「とりあえずメットだけで我慢してくれな。どれがいい?」


そんな事言いながら、画面いっぱいにヘルメットが映し出された通販サイトを

見せられてた・・・


「え、なんで? いいよあのヘルメットで・・・」


「嫌なんだろ? いいよ買おうよハナの──────」


 確かにこの間、嫌って言ったけど・・・それは、なんていうか

あの時勢いで言っちゃっただけだし、そんな本気でもなかったし・・・


「あの・・・ね、わたしよく解んないからカスミ選んでよ・・・」

「なんだよ、なんか嬉しくなさそうだな・・・ってか、怒ってるかハナ」


 そうは言っても、なんだか少し気が引ける・・・

なんですぐ怒ってるって思うのよ。ねぇ、カスミ? あの時大学でカノジョさんと

どんなやり取りしたの? お別れ? それとも──────

そう思って、カスミのベッドの枕元の倒されてたはずの写真立ての方をチラ見

するも、写真立てと化粧水の瓶はそこにはなく・・・


「あぁ、そうだ。一応ちゃんと報告しとかなきゃな」

「土曜の夕方さ、ハナもしかして見たろ? オレのこと大学で・・・」


「──────見てない」


「そっか・・・オレは見たぞ、店のトラックの助手席にいたハナをさ」

「高幌のトラック、土手っ腹にHANAFUKUって入ってりゃ見間違えないよ」

「気を使わせちまったな。いいよ見てても見て無くてもどっちでも──────」


 なによ・・・それ。たしかに二人の横をさとるさんが運転して通り過ぎたけど

バレバレだったんじゃない・・・王子のバカ。


「あのベンチな、二人が最初に知り合った場所だったんだ」

「別れを言うならさ、始まりのあの場所で・・・って。なんとなく決めてたんだ」


「カスミ・・・わたしのせいで──────」

「ハナ、それは違う。オレ自身がもう潮時だって決めたんだ」

「だからさ、気にしなくてイイ。お前のせいじゃないよ」


「隣来て、手繋いで話聞いて──────」


 かなり、だいぶ・・・戸惑って、結局言いなりになるように少し離れて

隣りに座って、左手を差出した・・・


「別れたよ。かなりキたけどな、自業自得だ──────」

「えーっと、また自分勝手なこと言って怒らすかもしれないけど」


「ハナ、少し・・・さ、待っててもらえないかな」


「──────ね、その事ゆうこさんに言った? 色々相談してたんでしょ?」

「ちゃんと報告しなきゃダメだよカスミ・・・」


「そうだな、後でメッセ入れとくよ。ありがとな心配してくれて──────」


「──────うん」


 結局さ、ゆうこさんの言った通り。あのお姫様は全部お見通し・・・

ゆうこさんにわたしの想いを伝えるのは待ってあげてって

そう言われてなかったらきっと今、カスミの待っててってこの言葉を

待たず、わたしは貴方のすぐ隣、肩が触れ合う距離に座ってしまって

たかもって・・・。寂しいけど待つよわたし、でも──────


「カスミ、一個だけ──────お願いがあるんだけど」

「こうして自分で繋いだ手、勝手に離さないで・・・」


「すごく寂しいの、勝手に離されると──────」


 すこしびっくりした顔してるカスミ・・・

自覚、無かったんでしょ。でもね──────ほんとだよ。

そんな些細なことでも積み重なって泣きそうになるんだよわたし


そんな時、ドアベルがお夕飯の到着を知らせた・・・

ホラ、さっそく試されてるよカスミ──────


「あーメシ来たな。ハナさ、離していい?」

「──────や」


「じゃ、一緒に玄関行こ、配達ご苦労さまって」

「──────うそ。行ってきて恥ずいから」


 そんな事を言ったからなのか、カスミは少し名残惜しそうに繋いだ手を離した。

たった、その一瞬の躊躇いが有るだけで、こんなにもドキドキしてしまうのが

なんだか恥ずかしくて、同時にすごく悔しくて・・・



 結局、何頼んでなに食べたか味も覚えていないまま、二人だけの

はじめての夕食を済ませ、たぶんこれが最後になるだろうあの人のヘルメットを

被せられて、二十二時には自宅に送ってもらった・・・


カスミの家に行ったのは、わたしに何も語らない彼自身の事を、きっともっと

色々聞くつもりだった気がしたのに、ぜんぶ吹っ飛んでしまうほどの結末を

聞かされて。カスミのバイクの音が聞こえなくなる頃、ぽろりとまた涙がこぼれた


「この切なさって、どういうことなのかな・・・」


結局今日も涙の帰宅を果たして、ママにクスクス笑われた・・・





- flower -





 明日は登校日、学校の支度を終えてベットに飛び込み、カワウソの

ヌイグルミを抱きながら、今日のことを回想した。西口と藤乃宮のお店の違い

はじめてちゃんとお話したタカコさんの事・・・


 今となってなんとなく思い当たった。タカコさんは結局、カスミとの出来事を

前もってわたしに白状したんじゃないかって。でもひょっとしたら言葉通りに

わたしが二の足を踏んでいたら本当に、カスミを取られちゃうんじゃないかって

たぶん、あの時は火遊びみたいな言い方だったけど、タカコさんがカスミに下した

評価は、カスミのことを本気で見ていないと言えない言葉な気がする。


あの時カスミのどんな所が好きかと聞かれて、すぐにタカコさんの様にカスミの

好きな所がスラスラ出てこなかった事が今になってすごく悔しい・・・


「でも、わたしタカコさんが知らないカスミの事もっといっぱい知ってるもん」


 カスミはカノジョさんとの結末を、ゆうこさんより先にわたしに知らせてくれた

それはカスミの中での優先順位一番がわたしだって事。

タカコさん、わたし負けないから・・・


 そう思った時、枕元のスマホが着信を知らせ震えた。

画面の名前を見て、心臓が止まりそうになった・・・

華という字の毛筆体──────


「──────も、もしもし」

『あー、うんオレ華墨。悪い寝てたか?』


「ううん、まだ。どうしたの?」


『あー、あのな。──────うー、いや怒られる前に白状するよ。

 ゆうこさんにさ、ちゃんと報告してさ。ハナの写真見ながらスマホいじってたら

 通話押しちゃってさ、そのままワンギリしたらたぶんまた怒るだろうなって

 それはダメだからカクゴ決めて、ちゃんと謝んなきゃってさ』

『悪かったなこんな遅く──────』


 もう・・・。たぶん昨日の夜わたしも同じようなことしてたから、なんとなく

その、やらかしは理解る気がするよ。押してしまったんだね。


もう、ばか・・・


「うん、大丈夫。わたしも寝る前に声聞きたいなって思ってたから──────」

『そっか、よかった・・・』


「ね、どうしてわたしが怒ってるかそんなに気にするの?」

『あー、いや。うーん・・・嫌われたくないから?』

『今だから言えるけどさ・・・初日のアレ、かなり辛かったんだ』


もうやめてよ・・・そんな事言うの、顔真っ赤だよわたし。

よかったビデオ通話じゃなくて──────


「あの・・・ね、す──────スマホちょっと声遠いなぁ・・・」

「いまさらさ、そんなに簡単に嫌わないから──────安心して」


あぶな・・・思わず言っちゃうところだった──────


「ね、ねぇ。何で写真見てたのわたしの・・・」

『オ・マ・エ──────言わせるのかそれを・・・』


「やっぱいい、今のナシ・・・」

『あぁ、そうして・・・』


「あ、そうだ。ねぇカスミの好きな花って何?」

『──────唐突だな・・・色々有るけど青い花かな』


「それじゃわかんないよ、たとえば?」

『んーそうな、一番はキキョウとか。──────なんで?』


「なんとなく、聞きたかっただけ・・・」


キキョウって花なんだ好きなの。後で調べてみよ花言葉──────


『あそうそう。ヘルメットの話だけどさいくつか候補挙げたから──────』


『──────・・・』


「──────カスミ?」


『起きてる。後で写真送るからこの中から選んで──────』


「ねぇ、ホント前のでもイイんだよわたし・・・」

「あんなこと言っちゃって、ごめんなさい 」


『いや、これもケジメみたいなもんだから──────さ』

『──────ハナの気持ちも分かるしさ』


 そこまで言われちゃ、カスミの気持ちを汲んでお言葉に甘えることにするよ

あの人にもなんとなく悪い気がするし・・・


「ねぇ、カスミもう眠いでしょ、意識怪しくなってるよ?」


『──────なんか、さ。声聞いてると落ち着く』

『たぶん──────オレさ今、メチャ心細いんだと思う』


「ふふ、けっこう甘えん坊なんだね──────」


『な、ハナ。──────またこうして寝る前に電話してもいい?』


「──────うん、いいよ」


『さんきゅな、おやすみハナ』

「おやすみカスミ・・・」


『──────』



「カスミ? 寝ちゃダメだよ先に切って」


『ハナ先に切れよ・・・って、きりないかそれこそ』

『ふふ、なんか懐かしいなこの感じ、じゃ──────』


結局、お互い意識が怪しくなってきたので、そんな話で今日は通話を終えた。

そうだね、カスミはあの人とこんなやり取りをしてたんだねきっと。

わたしはね! はじめてだよ・・・こんなドキドキ!!


もう、教育が必要だなやっぱり、わからせないと──────


 スマホを枕元に置いて、明日の朝のことを考える。

カスミは一年半以上続けてしまった未練を断ち切った。わたしも覚悟を決めて

決断して明日太にちゃんと謝らなきゃ──────

明日、朝の電車に明日太が居なくても・・・ 

ちゃんと謝って理解って貰えなかったとしても──────


ちゃんと・・・





翌日──────


 姿見の前に立つ。

右手にカスミのお守りシュシュ、カバンにはウチの鍵とカスミの部屋の鍵。

明日太が電車に居なくても、今日は大丈夫。もうきっと乗り越えられる・・・

決意を固め、両手で頬を打って部屋を出た。


「はな。一人で大丈夫? 一緒に行くつもりだったんだけど」

心配してくれたママに大丈夫だって伝えて家を出た・・・


 私鉄を降り、西口のお店の前を通りかかる。

昨日はすぐ上のお姉ちゃんに誂われ、一番上のお姉ちゃんに色々教わって

このお店の前も、今までは通り道ぐらいな感覚だったけれど、今はウチの

庭先の様に見慣れた風景になってる。


 そんな第二の自宅前を通り過ぎ、すずらん通りを通り過ぎ地下鉄駅に

たどり着く。カバンからカスミの部屋の鍵を取り出し、ブレザーのポケットへ

仕舞い、いつでも握り締められるように準備した・・・


 覚悟を決めたつもりだけど、心の何処かで一摘みの不安がチクチク心を

刺激して、思わず目を閉じ大丈夫となんども唱え

いつもの時間の電車を待っていた・・・


「よっ──────」

「──────ひッ」


突然に背中をぺしりと叩かれ、血の気が引いて振り返る──────


「──────おはよ美住」

振り向いて居たその姿に、思わず涙がじんわりと浮かんだ・・・


「一本前のに乗ってさ、降りて待ってりゃ良いんだな、よく考えたらさ」


「明日太──────」


「おれさ、考えたんだ。んでさ決めたよハナ、おれプロ目指す!」

「負けねーから、お前全力で逃げろよな。手抜いたらおれがブチ抜く」


 そんな幼馴染がいつもより大人に見えて、うかうかしていたら

本当に置いていかれてしまいそうな気がして──────


なんだかすごく、頼もしかった・・・




- flower -




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