ドラキュラが笑ってる・5
「しかしなー・・・やっぱり・・・まあ・・・」
ぶつぶつぶつぶつ。
昨日はただ驚いてばかりの夜空のフライトだったけど、今日は結構、あたしには余裕がある。
だけど、マサキは、飛んでいる間も、ずっとぶつぶつぶつぶつ。
「フミカ、やっぱりやめとかね〜?行っても面白いことなんか、なんもないぞ?」
「何言ってるのよ、今更」
あたしは抱きかかえられて飛んでもらっている立場でありながら、きつく言う。
「男のクセに、イジイジしないでくれる?」
「うーん・・・。・・・まあ、俺にそこまで言えるフミカだし、大丈夫か」
何よ何よ何よ?
大丈夫って何よ!?
また不安にさせることを言う。
「まさか、お話のドラキュラの通り、家は棺桶、なんて言わないわよね?」
「おっ、フミカ、分かってるね〜。じゃあ大丈夫だな」
・・・冗談のつもりだったのに。
そして、ついた先は、本当に、どこかの教会の墓地だった。
薄暗い原っぱに、墓碑があちこちに並ぶ。
洋画のB級ホラーの、ありがちな光景。
「・・・で、アンタの家はどこなの?」
もうちょっと、面白みがあってもいいんじゃないの?と思いながら、白けた声で尋ねた。
「・・・あれ」
面白くなさそうに、マサキが指差した先には。
あれ?
「あれって・・・普通に、家じゃん・・・」
今まで全く気付かなかった。白い外壁の、ちゃんとした家が、目の前にあったのだ。
「あそこだけ次元を捻じ曲げてるから、普通の人間には見えないし、触る事も出来ないけどね」
・・・いとも簡単に、マサキは言ってのける。
ドラキュラって、血を吸ったり、空を飛べたり、念力が使えたりするのは、まだ、なんとか理解できたけど・・・。
次元を曲げるって何なんだよ!
「アンタ、やっぱり、すごいんだねぇ・・・」
あたしは呆然としてしまった。
でも、当然と言わんばかりに、しれっとした表情のマサキ。
「あ、悪いけど、家の中は入らないでね、片付いてないから」
「え!何よ、そんなの、あたしんちは勝手に入るくせに」
あたしはそんなマサキの言葉を気にも留めずに、さっさと家の方へ向かう。
「おいおい、ダメだって言ったじゃん、ここでは俺の言うことを聞くこと」
背中からマサキの声が聞こえても、無視してあたしは前に進んで。
向かおうとしているはずなのに。
・・・あたしは前に進んでるはずなのに。
「・・・なに、これ?」
30秒ぐらい前に歩いて、いつまでも家に近づかない違和感に気づいて、後ろを振り向くと。
マサキは、あたしの真後ろで、イタズラっぽく笑った。
「だから言ってるじゃん、次元を捻じ曲げてるって。フミカ、頭悪すぎ」
「・・・意味がわかんない」
「だーかーらー、簡単に言うと、フミカが前に進んで歩いてるつもりでも、俺の意思ひとつで横にでも後ろにでも歩かせられるってこと」
「なにそれ!?・・・卑怯者」
すごく馬鹿にされてるような気がする。
「だから言ったじゃん、面白いことなんかなんもないぞって。それに・・・」
マサキは言葉をわざと中断すると。
また、真剣な表情を見せて、あたしを見つめる。
何?何なのよ!
「な・・・なに?」
あたしが恥ずかしくなって、先に口走る。
でも、マサキは何も言わない。むしろ、目がさらに鋭くなった気がした。
目の前の少年は、見とれてしまうほどの美少年だけど。
むしろ、今は、なにか・・・怖い。
「今から、ホラーショウの開催だぜ」
マサキの口元が、ひどくゆがんで見えた。
今までの無邪気な笑みとは、明らかに違う笑い方。
「フミカ、後ろ」
マサキがあたしの後方を指差す。
「え?」
あたしが振り向いた時。
全ての思考回路が、凍り付いてしまった。
そこにいてたのは、人なんかじゃなくて。
マサキみたいに、人間みたいなドラキュラでもなくて。
本物の、正真正銘の、見た目からすでにドロンドロンの、バケモノだったからー!
叫び声すら、出せない。
ガクガクと、全身が震えてる。
カチカチと、呆然とした口から聞こえる、噛み締められない歯が当たる音。
「ちゃんと俺の言う事聞いとかないと、コイツ等に食われちゃうかもよ?」
マサキの余裕たっぷりな発言も、右から左に耳の穴を通り抜けるだけだ。
だって。
バケモノは、1匹なんかじゃなくて。
数え切れないほどのバケモノが、いつの間にか、あたし達を完全に取り囲んでいたから。
「もう、そんなにビビるなよ・・・ちょっとやりすぎちゃったかな」
ニヤニヤと笑うマサキ。
その表情は、いつもの小憎たらしい子供の笑い方。
「この俺様がそばにいるんだから、だーいじょうぶだって」
どこからそんな余裕が出て来るんだよ、マサキは。
あたしは何も言い返す余裕なんかなかった。
「オマエニソノオンナノチハヤレナイ・・・」
魑魅魍魎と言うにふさわしいバケモノ達の大群。
口がどこかも良く分からないから、どこからそんな声が聞こえてくるのかも分からない。
・・・その女って、あたしの血?
相変わらず、あたしの頭はパニック状態だけど、少なくともマサキとこのバケモノ達が友好的な関係には見えなかった。
「うるせえよ、人のデートの邪魔してんじゃねえ」
マサキの笑い方が、いつもと違って見える。
悪魔的な、サディスティックな、笑い方。
はっきりとバケモノ達に向けられている瞳は、弱者をどうやっていたぶろうか考えている強者の目だ。
マサキの手のひらが、ぼんやりと青白く光りだした。
その光が、あたしに向けられると。
あたしの全身を覆って、あたし自身が青白く光った。
「とりあえず、それがある間は、あいつ等絶対にフミカには手が出せないから」
あたしの方に振り返って、ニヤリと笑うマサキ。
その表情は、やっぱりいつものマサキなのに。
「・・・フミカ、そこから絶対に1歩も動くなよー」
そんなマサキが、あたしに語る言葉だけは、いつものマサキだけど。
そこから飛び立って、バケモノの群れに襲い掛かるマサキは、もう、あたしの知っているマサキじゃなかった。
闘いは、まるで正義のヒーロー対悪の軍団のようだった。
マサキの圧倒的な力は、空を自在に飛び回り、手のひらからカミナリのようなビームを連発し、足からはカマイタチのような烈風を巻き起こし。
あたしはへたり込んで、ただ呆然とマサキを見ていた。
月夜をバックにバケモノを嬉しそうに狩るマサキの姿は・・・怖かった。
けど。
怖いけど、なぜか、魅かれていることに、あたしは気付いていた。




