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魔法の射手(マジックシューター)~この矢はきっと誰よりも遠い場所へと届く~  作者: らる鳥


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 空を飛ぶシュイの視点で逃げるゴブリン達を追う。

 一部はパリファントの冒険者達に討たれたり、逸れて行方が分からなくなったりしたが、四十くらいのゴブリンが森の中で集まった。


 ……さて、ここからゴブリン達がどうするか。

 当たり前に考えると、ホブゴブリンを加えた百の数で敵わなかったのだから、素直にとっとと巣に帰るべきである。

 ただゴブリンの頭は人間程には良くないから、再集結した事で強気になって、再びエーレン村や、或いは他の村を攻めようとする可能性が皆無じゃない。

 流石にそれは馬鹿すぎてあり得ないと思ってしまうけれど、人間にだって思いもよらない馬鹿な真似をする者は少なからずいるのだから、より知能に劣るゴブリンが、そうしないという保証はないのだ。


 逃げ延びたゴブリン達は暫く顔を突き合わせて何らかの相談をしていた様子だったが、流石に今は不利だと悟ったのか、村とは逆方向へと移動を始めた。

 その姿を、シュイに意識を乗せた僕は空から追う。

 ゴブリンの足は短いから、移動は遅々としていて少し焦れるが、そこは我慢するより他にない。


 日が沈めば、ゴブリン達は足を止めて思い思いに地に転がって休みだす。

 僕は、一瞬どうするか悩んだけれど、意識を自分に戻さずに、シュイの体に留め続けた。

 こんなにも長くシュイに意識を預けるのは、随分と久しぶりだ。

 シュイは木に留まり、うつらうつらと眠り始めるが、僕は意識を眠りに落とせない。

 眠ってしまうと、僕の意識は自然に体に戻ってしまって、ゴブリンを追う事ができなくなる。


 僕はまんじりともせずに夜を明かし、ゴブリン達が移動を始めたら、その後を追ってシュイを空へと舞い上がらせた。

 それにしても、幸いだったのはゴブリンが夜通し移動をしようとはしなかった事だ。

 多くの面でゴブリンは人間に劣るけれど、繁殖力の強さともう一つ、夜目が利くという点では優れてる。

 だから夜通し歩いて移動をしてもおかしくはなかった。

 鳥目って言葉はあるけれど、大鷲であるシュイの目は暗くてもある程度は見通せる。

 しかしそれでも、やはり昼のようにハッキリと対象を捉えられる訳じゃないから、ゴブリンが夜通しの移動をした場合、追い続けるのは少しばかり厳しかったかもしれない。


 ……だがゴブリンがそれを避けたって事は、この森は夜間の移動に何らかの危険が伴うのだろうか?

 単に疲労が積もっていたってだけかもしれないけれど、一応は気に留めておくとしよう。


 ゴブリン達は夜は休みながらも三日間、進み続けて、やがてある場所に辿り着く。

 空高くから見下ろせば、そこはレーフォム伯爵領の西にあるという三つの山の、ちょうど真ん中。

 半ば森の木々に埋もれてはいたが、周囲を石の壁、防壁に囲まれた、大きな町程の規模がある石造りの遺跡が、そこには存在していた。


 尤もその遺跡は、恐らく古代魔法王国期の物じゃない。

 時代的にはその後で、けれどもシュトラ王国の成立よりはずっと以前の、滅びた国の忘れられた町。

 僕もこんな場所にこんな物が存在してるなんて、聞いた事もなかった。

 実際、空から見ないと森の木々に埋もれてわからないし、或いは未発見の遺跡かもしれない。

 あぁ、いや、僕よりも先に見つけたのはゴブリンで、僕は連中に案内して貰っただけなのだけが。


 どうやらゴブリンはそこを巣として、いいや、自分達の町として、棲み付いているのだろう。

 だとすると、この場所から溢れ出る程にゴブリンが増えているという事は、……下手をするとゴブリンの数は、万にも及ぶのかもしれない。


 仮にそうだとしたら、今のようにちょこちょこと攻めて来てるくらいならどうにかなっても、本格的にゴブリンが動き出したら、エーレン村どころか、レーフォム伯爵領そのものがゴブリンに飲み込まれる。

 もちろんそれは、最悪のケースを想定しての話だけれど、上空からゴブリンの町の様子を観察すると、その想定もあながち外れていない気がした。

 僕はシュイに、大急ぎで戻ってくるように指示を出すと、一足先に自分の意識を体に戻す。

 これは流石に、あまりに猶予がなさ過ぎた。

 ゴブリンが動けばどうにもならない。

 そしてそれを伝えられるのは、実際にゴブリンの町を目の当たりにした僕しかいないから。



 目を開ければ、そこは見知らぬ天井で、僕はベッドに寝かされていて、けれども傍らの椅子には、見知った顔、ステラが座ってこちらを覗き込んでいた。

 目が合えば、彼女は嬉しそうににっこりと笑って、

「おかえり、リュゼ。こっちは先任の冒険者達と合流して、村の防衛に関しての打ち合わせは終わったよ。皆、リュゼが帰ってくるのを待ってたんだけれど……」

 追跡の結果を聞こうとしたのだろうけれど、僕の顔色を見た彼女は、きゅっと眉根を寄せて口を閉ざす。

 どうやら今の僕は、余程に切羽詰まった顔をしているらしい。


「皆に話すよ。でもステラ、大急ぎで村の人に足の速い馬を一頭用意して貰って。大急ぎでパリファントの冒険者組合と、それから、シャガルにも手紙で連絡を取らなきゃ」

 正直、エーレン村の人々にはパリファントに避難して貰った方が良い気もするけれど、向こうに受け入れ態勢があろう筈もないし……。

 まずは情報を共有して、動くのはそれからだ。

 ここに留まり続ける事は正直リスクが高いけれど、ゴブリン達の居場所は突き止めたので、シュイの力を借りて定期的に森を見張れば、大軍の動きはいち早く察知できる。

 つまり、一目散に逃げる暇くらいはあるだろうから。

 今はここに踏み止まって、集められる限りの情報を、集めよう。


 誰かが、否、できる能力を持つ者がそれをしなければ、場合によっては本当に多くの犠牲者が出る事態になりかねなかった。



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