169話:王都へ行く
島左近清興だ、ワシは国王より【国士】の称号を賜った。【準男爵】の称号も相まって、ワシの家は【国士準男爵家】に昇格し事実上、ワシは貴族になってしまった。立ち位置は領地の広さによって決まり、ワシは貴族の筆頭である【公爵】に匹敵するほどの地位となった。今、ワシはアリーナとティアから御茶会の作法を学んでおり、前世の記憶と完全記憶能力も相まって、貴族の礼儀作法を難なく習得したのである
「お見事ですわ、旦那様。」
「はい、隙もなく、それでいて気品が漂っております!」
「アリーナとティアのおかげだ。」
アリーナとティア曰く、今のワシはどこからどう見ても公家【貴族】に見間違えるほど礼儀作法が見事なのだという。ワシの漂う歴戦の猛者の風格も相まって、数少ない武家貴族【軍事貴族】に見えるとのことである
「まぁ、表向きはワシは正式な貴族ではない。古くから仕えている古参貴族たちからすれば他国から来た田舎者としか見ておらぬ。」
「旦那様、他の貴族の方々が何と言おうとも隙を見せなければよろしいのです。それに旦那様の醸し出す武人の風格を前には古参であれ、新参であれ、表だって意見するような御方はおりません。」
「ふふ、アリーナには叶わぬな。」
ワシは貴族としての礼儀作法を学んだ後、何事もなく平穏そのものであった。追跡動物を使って王宮に探りを入れ、向こうは様子見を決め込んでいることが分かった。まぁ、面倒な御茶会とやらをやらずに済むならこのままでも良いと思うがな・・・・
「左近様、一台の馬車がこちらへ向かっております、しかもシュバルツ王国の家紋付きで。」
「そうか、とうとう来たか。」
追跡動物で調査をした結果、国王ロバート・シュバルツはワシと対面するという事が分かった。馬車に乗っているのは勿論、ルナ・キサラギである。ワシは色々と準備をしていると玄関口から馬の嘶きが響いた。ワシらは玄関口へ向かうと、馬車戸からルナ・キサラギが出てきた
「これはルナ殿、今日は何用で?」
「サコン国士準男爵閣下、陛下よりの御召しにございます。」
「・・・・左様か。」
「私と共に王都へ。」
「しばし待たれよ。」
ワシはアリーナたちに王都へ行くことを伝えた。皆々、この時が来たことを覚悟した表情であった。すると与一が前に出て、供をするよう願い出た
「左近様、某に御供を。」
「それはならぬ、そなたはこの屋敷の執事長だ、共にはサスケの他、【お庭方】の者を連れていく。それまではこの屋敷を守れ。」
「・・・・ははっ。」
「旦那様、後は私たちに任せて、どうぞ御役目を果たされませ。」
「あぁ、行ってくる。」
与一は悲痛な表情で返事をし、アリーナはワシに役目を果たすよう励ました。そこへアルグレンとサリーナ、ウルザに抱かれたシリウスがいた
「「ちちうえ。」」
「父は王都へ出かける、土産を持って帰るから、母上の言うことをよく聞いて、待つのだぞ。」
「「うん、おみやげ、かってきて!」」
「ははは、では参ろうか、ルナ殿。」
「ええ。」
ワシはルナと共に馬車に乗り、王都へ向かった。その道中、ワシはルナと暇潰しがてらに話をすることにした
「ルナ殿、ワシは陛下に二度ほど対面したが、仮面をつけ、一言もお話をなされなかった。」
「存じております。」
「だが今回は、【国士準男爵】として陛下に拝謁する事となった、何やら因果を感じる。」
「サコン国士準男爵閣下、貴方はかつてロゼオ・シュバルツ元王太子殿下をジュリアス王国から放たれたスパイからお救いし、我が国をお救いいたしました。陛下はサコン・シマの名を胸に刻み、今日に至りました。サコン殿、最早逃れられないところまで来ているのです。」
「それは承知しておる。【国士】の称号を賜った時から感じておった。」
ワシは表向きは貴族ではないが、事実上貴族になったのは言うまでもない。【国士】の特典についても国王なりに譲歩した条件でやってくれた事にワシも年貢の納め時ということか。そうこうしている間、ワシらは王都に到着し、泊まる宿へと入った。衣装については王国側が用意してくれるとの事である
「ではサコン国士準男爵閣下、今日はゆっくりとお休みください、知らせは後程、お伝えいたします。」
「忝い。」
ワシは王国が用意した宿にて宿泊することになった。宿は王国の中で最高級であり、ワシの領地の最高級の宿よりも雅で絢爛豪華な様相をしていた。ワシはベッドに寝転がり、拝謁の日を待っている
「サスケ、警備の方は頼んだぞ。」
「承知。」
サスケら、【お庭方】は警備を欠かさず行い、侵入者が現れないように念入りに行った。島左近は宿で休息を取る一方で、王宮では国王ロバート・シュバルツは拝謁の期日をルナに伝えた
「うむ、○月○日にて行う。」
「畏れながら、貴族の方々も参加させますか?」
「いや、余と身内の者だけで行う。余計な茶々を入れられては困るからな。」
「では、そのように。」
国王の命を受けたルナはそのまま左近のいる宿へ向かい拝謁の日は〇月〇日に決まったそうだ
「委細承知した(明後日だな)。」
「では○月○日にてお会いいたしましょう。」
○月○日にワシは国王ロバート・シュバルツに拝謁することになった。そうと決まれば、ワシは王都で土産を買いに行くことにした。サスケらも一緒に同行した。ワシはアリーナ等に買っていく品物がないか調べていると、近くに馬車が通り、避けようとした途端、ワシの前で止まった。ワシらは警戒していると、馬車戸が開くと、貴族の衣装を纏った銀髪碧眼の老紳士がワシに声をかけた
「これはこれは、サコン国士準男爵か?」
「不躾ながら、どなた様にございますか。(ワシの事を知っているようだな。)」
「ほほほ、ワシはウォルゲン侯爵家の隠居のオルサン・ウォルゲンだ。」
「これはこれは、ご無礼を仕りました。」
「いやいやワシはあくまで忍び、近くでお見かけしたから挨拶をしたまでのことじゃ。」
「これは忝のうございます。」
「ほほほ、それでは。」
そういうと馬車は出発した。馬車を見送った左近らは周囲を警戒し、人目のつかないところへ移動した。左近は【お庭方】に例の貴族を調べるよう命じた
「ではそのように致します。」
「うむ、頼んだぞ。」
【お庭方】の者たち数名がオルサン・ウォルゲンの後を追い、島左近らは買い物を続けるのであった。一方、オルサン・ウォルゲンは自分の邸宅に帰ると、オルサンの妻であるウォルゲン前侯爵夫人、息子で現当主のネルサン・ウォルゲンとその妻のウォルゲン現侯爵夫人と使用人たちが出迎えた
「「「「「お帰りなさいませ、旦那様(御隠居様)。」」」」」
「うむ。ネルサン、後でワシの部屋に来い。」
「はい。」
オルサンは邸宅に入った後、自分の部屋に入った。使用人たちがせっせと御召し物を片付けた後、下がり後から息子のネルサン・ウォルゲンが入れ替わりで入って来た
「父上、お呼びですか?」
「うむ、先程サコン・シマと会った。」
「ほお、例の元武人がですか?」
「うむ、恐らく陛下の拝謁をしに来たのだろう。」
「え、陛下からはそのような事は一言も・・・・」
「知らせるわけがあるまい、ワシら貴族を抜きにして行うつもりであろう。」
「陛下が何故、そのような事を・・・・」
「ワシら貴族がいては話しづらいことでもあるのであろう。」
「父上、如何致しますか?」
「うむ、拝謁の日に乗り込むぞ。」
「父上、陛下の御許可もなくそのような事を・・・・」
「ワシらを抜きに行うなど、貴族としては見過ごすわけにはいかぬ。期日を聞き次第、乗り込むぞ。」
「父上・・・・」
「念のためにサコン・シマの宿を見張るぞ。」
オルサンは島左近が拝謁する日に乗り込み、ネルサンは驚き、辞めるよう諫め始めた。それを天井裏から聞いていた【お庭方】はすぐに島左近も下へ知らせた
「ほお、そのような事が・・・・」
「如何いたしますか?」
「うむ。」
ワシはどうするか悩んでいると、そこへサスケが駆け込んできた
「旦那様、ルナ殿が参られました。」
「ん、通せ。」
ワシらはルナを迎えると、挨拶を済ませた後、ルナは衣装の用意ができたと伝えにきたのだ。ワシは明後日に行われる拝謁には貴族は参加するのかをルナに確かめた。ルナの口からは陛下と側近のみだと言うと、ワシは万が一貴族が乗り込んできた場合の事を聞いてみた
「まさか、陛下の許可もなくそのような事は・・・・」
「いや、貴族にも面目があろう、必ずや期日を聞き出し、乗り込んでくる可能性があるやもしれぬ。」
「・・・・心当たりがあるのですか?」
「うむ、実はな・・・・」
ワシは道中にてオルサン・ウォルゲン前侯爵と会った事を話した。オルサンの名を聞いたルナは頭を抱え始めた
「ああ、ウォルゲン前侯爵閣下ですか、あの御方ならやりかねませんわ。」
「如何いたそうか。」
「では私の口から陛下にお知らせいたします。後は密使を送りますので、それまでにお待ちを。」
「心得た。」
ルナは早速、王宮へ戻り、国王にこの事を報告した。ロバートは明後日の予定を明日に変更し、内密に事を推し進めた。密かに密使が島左近のいる宿へ遣わされ、拝謁の日は明日に決定したのである。明日は直接、王宮へ向かうよう指示された
「明日か。」
「旦那様、宿を見張るスパイは如何いたしましょう。」
「うむ、隠密裏に行うぞ。」
「ははっ。」




