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INT 転生前はエンジニアをば営んでおりました  作者: 猫野美胃
2章 ナカツクニ連邦編
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ロンジダンジョン

 ケイが記憶の消えてしまった幼馴染イブ、親友ロームの前から姿を消した日から1年後の冬。ケイは、出身国であるサバン国の隣にあるナカツクニ連邦南端の街シャンピンに居た。学園に居たころから背丈は手のひら一つ分ほど伸び、肉付きもう昔みたいにヒョロヒョロとは言えなくなっていた。その出で立ちも学園に居たころとは様変わりし、ボサボサの髪に薄いあごひげ蓄え、ラクダ色のロングコートの下には傷だらけの革鎧を着こなし、ハンター然とした容貌が板についていた。


 都市の中央に踏ん反り返るように建つ4階建ての建物の1階に、ケイは片手に大きめのトランクを携えて入っていく。建物中は一階部分をぶち抜いて作った大きな空間が広がっており、中央に大きな柱、奥側の壁にはカウンターと忙しそうに働く職員達がいた。ケイは中央の大柱に近づくとその周囲をウロウロとし始める。柱にはまな板くらいの大きさの紙キレが無数に貼り付けてあり、ケイはその一つを乱暴に掴むとカウンターへと向かった。


「すまない、この依頼を受けたいんだが承認を頼む」


「ああ、ケーさんおはよう。またどこか行ってたのかい、姿が見えなかったから皆して心配してたんだよ。…ほい、受領印押すからハンター手帳出してね」


 職員の気の良さそうなおじさんは、ケイから差し出されたボロボロの皮手帳を受け取るとページをペラぺラとめくりスタンプを押し、丁寧に乾かしてからケイへと返した。


「ああ、ちょっと気晴らしに周遊してたんだよ、今度お土産持ってくるよ。また貯金が貯まるまでここでお世話になる予定だから、よろしく頼むよミヨシさん。あ、それとダンジョンて今なにか警戒注意報とか出てる?」


「ああ、お前さんの働きには皆期待してるよ! ダンジョンの第2層以降でアンデットウイルス感染爆発が起きてるから準備を整えてからいけよ。まあ、駆除隊があらかた処理したからだいぶ下火になっているけどな。じゃあロンジの灯火がケーと共にあらんことを」


「ロンジの灯火が共にあらんことを」


 ケイはそういうと、コートを翻してハンターズギルドの扉を出て行った。




 海に面した前世でいう東洋風の活気ある街並みを出て、北の山脈へ馬を走らせること30分、粗粗しい石壁のバリケードで囲われた小さな砦が見えて来る。砦の中には小さな屋台と病院と馬屋があるくらいだが、その猫の額ほどの敷地は多くの人間で賑わっていた。

 ケイも馬屋へ馬を預けると、丸太を横に置いただけの雑な椅子に座る二人の美女の元へと向かった。


「よっ、お待たせっと、ギギギ、テスラさん」


 ケイは丸太に腰掛ける二人の向かいにどさっと腰を下ろした。ギギギは猫のように背を曲げて首を落とし、待ちつかれたとポーズで主張した。


「ケイ遅イ、久シ振リノ里帰リガ待チキレン」


「ケー、ギギギの奴一回走って行こうとしてたぞ。ワッチが何とか止めたが、結構マジな目してて焦ったぞ」


「ギギギがいないと僕ら迷うってわかってるだろ? それに久し振りって言っても1ヶ月ぶりじゃないすか、待っててくださいよギギギ先生。で、今回なんだけど、肩慣らしに10層まで行って火蜥蜴狩りといつも通り鉱石拾いをすることにしました。意見ある人?」


 気の抜けるような声のケイにギギギはいいから早くしろとうなづく。もう一人のギギギより背が高く、キリッとした顔立ちに濃い金髪のショートが印象的なテスラ・ローレンツが意見するべく立ち上がった。引き締まった体を動きやすいタイトな革の服で包み、短めのスカートから健康的な肌色の脚がすらっと伸びる。


「周りのハンター達から聞いたんだが、まだアンデッドウイルスが蔓延してるかもれないんだが、そんなとこに突っ込むというのか?! ギギギやケーはともかくワッチは普通の人間なんだが!」


「まあまあテスラさんもう20歳になるんだから落ち着いて、一番お姉さんでしょ。ていうか前にアンデットモンスターをハントした時にガスマスク使ってるじゃないすか、大丈夫ですってRS3レベルですから。あ、あとパンツ見えそうですよ」


 ケイがまあまあとなだめるも、テスラは赤面してスカートの裾を抑えて聞いていない。そんな二人をいつの間にか立ち上がってギギギが荷物と一緒に掴んで、砦の奥でぽっかりと口を開けて侵入者を待つ巨大な穴へと引っ張っていった。






 世界有数の超巨大ダンジョン、ナカツクニ連邦のロンジダンジョン。活火山ロンジ山の地中深くに広がるその洞窟は火龍の巣とも呼ばれ、巨大なトンネルが複雑に入り組む自然の迷宮だった。そしてダンジョンをダンジョンたらしめる異常なモンスターの生息率が人間の侵入を拒んでいる。だが古来より人間達はモンスターの楽園に挑み続けている、そこには希少金属や宝石原石、特殊なモンスターや普段は見られないモンスターの巣があるからだ。成功すれば一攫千金、失敗すれば一瞬の死、荒々しい魂を持つ者達が千差万別の思いで日々飛び込んでいる。


 第1層に降り立ったケイ達3人は、直径50m程度の薄暗いトンネルを黙々と進み出した。あたりには松明やら魔術灯やらがそこら中に取り付けられているが、広大な暗闇に対して微力なためオドロオドロしい雰囲気を醸していた。


 先頭を鼻歌まじりに進むギギギが、後方のテスラとケイに声をかける。


「大丈夫カ? 第1層ハ灯ガ有ルトハイエ何時モンスターガ飛ビ出シテ来ルカ分カランカラナ、注意シロナ!」


 テスラがヒステリック気味に声を上げる。


「だったら灯りを何でもいいから点けてくれよ、何時も無灯火で突っ切りやがって」


「いやいやテスラさん、ですから僕らのライトはちょっと特殊なんで人目が無い層まで進行したらって言ってるじゃないですか。20歳になるんだから暗いの位慣れてくださいよ」


「いや、ギギギはデーモン系亜人で夜目は抜群だし、ケーはなんか暗闇でも視える怪しい眼鏡使ってるし、ワッチだけ手探りで不公平だぞ。あと年のことはいうなあ!」


 ケイは目元の暗視ゴーグルの位置をクイッと直すと、前方のテスラへとやれやれと声をかける。


「いや、ハンターたるもの魔術道具の力には頼らんってつまらない意地を張ってるのはテスラさんじゃないですか、全く。そもそも暗視ゴーグルの原理は魔術じゃないって何度説明すれば気が済むですか、今度僕の代わりに夜通しはんだ付け作業させますよ。20歳独身の癖に」


「おいはんだ付けは辞めさせろ、ワッチはあんな細い作業はできないんだ。レンズで覗いてるのを思い出しただけで眩暈がする」


 テスラは年上の貫禄も虚しく、亜人と変人に挟まれてロンジダンジョンの広大な通路を進んでいった。


 ギギギを先頭にしてほとんど真っ暗闇のダンジョンを迷いなく爆走するケイ達は、すぐに人間の領域の端っこに辿りついた。ギギギ達の前にそびえる石で出来た鳥居の向こう側には一切の灯が存在せず、暗闇で何がしかが蠢く音が不気味に聞こえるだけだった。テスラが腰につけた曲刀と背中に背負った黒弓を点検しながら誰に共なくつぶやく。


「第2層は何度来てもおぞましいな。ワッチら人間がいかに矮小な存在か、モンスターが如何に過大な存在か嫌でも思い起こされる。ギギギとケーとでなければ、こんな少人数では来れんわ」


 手にしていたトランクを開けて、黒光りするモノモノしい装備を手早く組み立てていくケイは視線を周囲に配ったままテスラへと答えた。


「……テスラさんここらへんの筆頭じゃないすか。何言ってるんですか20歳にもなって。僕らが単独で第49層に突っ込んで死にかけたのを助けてくれたのもテスラさんですし、その後挑んだダンジョンアタックで第55層で弾薬尽きてデーモンの王に殺されそうになってたのを助けてくれたのもテスラさんですよ。はいガスマスクです。アンデットウイルス用にフィルター缶替えてあるんでそのまま付けてください」


「テスラハ最強、10層ナンテ散歩コース。ハヨ行コ!」


「お前らほんと厳しいな、たまにはワッチに優しくしてくれてもバチは当たらないと思うぞ。はああ、狂犬共の手綱を握ろうとしたワッチが間違ってたんだろうな。最初助けた時は子犬みたいでかわいいと思ったんだがなあ」


 テスラは遠い目をしながらガスマスクを被ると、後頭部のベルトをキツくしめた。手には紫色の淡い光を放つ曲刀を抜き身にして構えたままで、先ほど身に着けた深緑色のコートのフードを深々と被った。

 その横では、同じようにガスマスクと深緑色のフード付きコートを身にまとったケイとギギギがそれぞれトランクから出したエモノを手にしていた。ケイは所々ボロボロになった魔術複合式レールガンを、ギギギは片手に魔術式チェーンソーと片手にケイが学園に居た頃よりも小型化されたレールガンを構えていた。空になったトランクを鳥居の脇に立てかけると、ギギギは暗闇に向かっていの一番に走り出す。

 テスラとケイもそれに続く、すると真っ暗闇だったはずのケイ達の行く先が煌々と照らし出され始める。スポットライトの様に辺りを照らす光源はケイ達の頭上高くにふわふわと浮いていた。金属の格子で構成された球体の中にはプロペラが6枚が唸りを上げて高速回転しており、前世でいう無人航空機“エアドローン”が道標となるべくダンジョンの暗闇を飛んでいた。一番後方を走るケイが手元の無線コントローラーを忙しく操作しながら全体の進軍に合わせて照明用のドローンを高速飛行させる。まるで生きているかの様な挙動で出っ張りをかわす姿は4人目の仲間となり、3人の脇目も振らない進軍を助けた。


 第2層を進む見るからに危険分子な3人組と1機に、地上よりも大きな狼やゴブリン共が襲いかかるが、ほとんど追いすがることもできず置きざりにされていく。たまにギギギの進路上を塞ぐ様にモンスターが出てくるが、ギギギは右腕のレールガンからプラズマ光を輝かせて冷静に排除していった。


「暗闇で先手が取れるなんてやっぱりギギギは卑怯だわ。しかも巨乳で美人で若いと来たからずるいんだよなっっと。」


 テスラは横合いから飛び込んできた豚くらいありそうなコウモリを一閃して切り払いながら一人ごちた。


「テスラさんも良い器量をお持ちじゃないですか、それに頼れる筆頭ハンター20歳、お姉さん好きのファンも多いって聞きますよ」


「ケーよ、それは誉めてるでいいんだよな。その割には最近人外呼ばわりされること多いんだよな、嫁ぎ先がなかったらお姉さんを引き取ってくれるか?」


「テスラ、ダメ。ケイハタダノチキン野郎、ギギギノ乳デモナビカナイ硬派一徹限界突破」


「いやいや、今はそういう余裕がないだけだよ。テスラさんもふざけてないで集中してくださいよ!」


 ケイ達はそんな調子で3層、4層と止まることなく軽快に駆け抜けていく。後方から襲いくる火の玉の群れはケイが疾走しながらレールガンで吹き飛ばし、横合いから高速で突っ込んでくる炎を纏ったイノシシはテスラが鮮やかな太刀筋を一瞬煌めかせ両断した。

 およそ1時間後、モンスターの生息域と強さが変わること8回、とうとう10層に到達した死神の様な3人組は目立った傷や被弾もなくピンピンとしていた。そして10層にたどり着いたことを示す火熊の存在を見つけるやいなや、ギギギが残像が残るほどの勢いで飛び出して、チェーンソーを乱暴に唸らせながらギチギチと音を立てて熊の首をはね飛ばして拳を突き上げた。


 3人が駆け抜けた後を振り返れば、無残なモンスターの死骸とそれに群がる別モンスター達の塊が無数にできていて、前世の記憶にある童話ヘンデルとグレーテルのようだとケイは思った。

 

「いやー、久しぶりに攻めてみるとモンスターも少しづつ学習してるっていうか、進化してるよね」


「そうだな途中モンスターの生息域もコミュニティの大きさもかなり変わっていたな、アンデットウイルス感染が大きかったんだな」


「低層ダカラ耐性持ッテ無イ種モ多イ、自然淘汰ハ生命ノランキング付ケ。オッ火蜥蜴ミツケタ」


 10層は溶岩流が所々に流れており、危険な反面辺りは割と明るくケイ達のドローンも明かりを消していた。ギギギは前方の溶岩溜まりのそばに寝そべり熱吸収を行っている火蜥蜴を指した。


 ギギギとケイはレールガンの照準を合わせ、テスラは背中の黒鋼の長弓を引き絞って構えた。


「1、0ファイァ」


 ギギギの号令で30m前方の火蜥蜴5対に向けて高速の弾丸と矢が注がれる。弾丸は火蜥蜴の首を吹き飛ばし、矢は脳天を貫いて反応する間を与えずに火蜥蜴達を絶命させた。ギギギとテスラは、素早く近づくとバールの様な金属棒を超高熱の屍体に引っ掛けて冷えた岩場に並べて解体を始めた。いまだ赤熱する内臓を適宜冷ましながら火蜥蜴をさばきつつ、3人は鉱石探し競争を始めだした。ギギギ対テスラ、ケイチームという構図だが、圧倒的採掘量を誇るギギギがダブルスコアで勝負を下しテスラ、ケイチームが帰りの荷物持ちとなった。


 


「いやー疲れた。しっかしギギギの採掘量は本当頼もしいなあ」

 

 ロンジダンジョンの入り口にパンパンになった巨大な背嚢を背負ったケイとテスラが顔中汗だらけで現れた。時刻はすでに夕方、辺りは山から吹き下ろす寒風に冷え冷えとしていた。


「ケー、ギルドは明日行くとして今日はどこ泊まるん?」


「んー、いつもの宿でいいんじゃないの? それともどこか別のとこがいいの?」


「いや、ほら久しぶりの凱旋だろう? 金がないわけでも無いし、いい宿に泊まってもいいんじゃ無いかと思ってな? ワッチ今日はお風呂入りたいなー」


「まあ、今回は1ヶ月も協力してもらいましたし、いいですかね。じゃあ今日は町一番と噂の青龍楼に行きましょう。ギギギもそれでいいか?」


「オッケー、オッケー!」


 3人は割り札と硬貨を馬屋の番頭に渡して馬を受け取ると、煌々と色鮮やかな光が瞬く巨大都市シャンピンへと軽やかに疾走した。

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