シクリアシト
コン、コン、コン。足音なのかドアをノックする音なのか彼女の耳に音が体の中に入ってくる。研究している時にあまり外界に意識を向けたくはない。が、耳に入って来たのだから仕方がない。ゴーグルを外し音がする方へと視線を向けてみる。すると片手にカルテのようなものを肩たたきの代わりにしているのか肩を叩きつつこちらへと笑みを浮かべている志木伯健介が立っていた。
「相変わらず仕事熱心だね。集中しているところで話しかけて悪いけど、とりあえず司法解剖が終わったから持って来たけど・・・まあ、君が読み取った通り薬物依存の線は消えた。何かしら外部からの圧殺または刺殺。と、でた・・・が」
そう言うと志木伯は眉をひそめ難しそうな表情を浮かべる。そう、彼が解剖した死体には外傷が一つもないのだ。まっさらな体。見ているだけなら幸せそうに眠っているようにも見えた。解剖するにあたって本当に死人なのか?と思わされるほど綺麗なものであった。しかし、解剖して見ると外傷はなかったが内臓が破裂し見るも無残に切り刻まれていた。どう見ても愉快犯では無く深い憎しみを持った人間がするであろう殺害方法であった。が、それにしても解せない。ここまで内臓を切り刻み破裂させるにはそれなりに外傷を与えなければ出来るはずがない。神でもない限りこの様な異様な殺害ができる訳がない。科学でも説明できない。解剖した本人ですら未だに信じれない報告書へ目を通し始める。するとカルテを見た彼女は深く気だるそうにため息をつき近くにあった椅子へと腰をかける。
「やっぱりか。健介君が先に上よりも私に情報を渡してくれてよかった。これは決して上には送らない方がいい」
「と、言うと?」
口を開きつつ健介もまた彼女と同じように近くにあった椅子へと腰をかける。彼女も丁度休憩には良いか。なんて思ったのか足を組み健介へと視線を向ける。
「これは一種の特異能力だな」
「は?」
健介は彼女の言葉を聞いた瞬間に気の抜けた声が出てしまう。まさか彼女の口から非科学的な言葉。いや、子供じみた単語が出てくるとは思いもしなかったためである。健介の表情が面白かったのか彼女はクスリと反応を楽しむかのように言葉を続ける。
「この世の中には科学では解明できないことだって多々あるんだよ。けれど、この能力は人間誰だって持っているんだ。人には第六感ってやつがあるだろう?それに似たようなもの」
「似たようなものと言われましても・・・」
ただ、健介は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。目の前の彼女が口にしている事は全て創作としか思えなかった。が、自分をからかうことはあるけど彼女はこう言った類の嘘は言わない。そう分かっているが今までがそうなだけであって今が始めて自分に対してからかいを込めた嘘を言っているだけかもしれない。健介の気持ちの全てを見透かしているのかもう一度彼女は鼻で笑う。
「まあ、私が嘘を言っていると思うだろうね。そりゃあそうだろう。けれど、この映像を見てもそんな事が言える?」
そう言うと彼女はポケットから小さな鍵をとりだし机の鍵穴へとさし込み小さなビデオテープをとりだす。随分と年代ものなのか文字を記入している場所が日焼けしている。一体これはなんだろう?健介は好奇心以上に不安が勝ってしまう。
「呪いのテープとかじゃあないから安心して。これはある研究室の防犯映像だから」
そう言うと彼女は随分と使っていないであろうビデオデッキにテープを入れ再生ボタンを押す。砂嵐だったテレビ画面は禍々しい映像へと切り替わる。




