シクリアシト
地平線に広がる雪。シンシンと雪の音を奏で地面へとそっと落ちて行く。彼女はその自然現象に感動しているのか両手を体の前に広げると宙に舞っている雪を触り笑みをこぼす。
「綺麗。こんな世界にもまだ真っ白な物があるんだ」
鼻を真っ赤にし彼女は白い息を吐きながら純白の雲に覆われた白空を見つめる。純白のコート。漆黒の帽子。深紅の靴。辺りを見渡しても真っ白い雪化粧をした木々や山が見えるだけ。雪原の中、少女はステップを踏み空から降る雪をできる限り体で受け止めていた。ザクリ、と彼女では無くもう少し体重が重い人間の足音が聞こえてくる。少女は笑みを浮かべながら足音の方へと視線を向ける。漆黒のコートを着用しシルクハットをかぶりマフラーで顔を隠しているのか表情は読めない。が、それでも少女はその男の方へ親しげな表情を向けたかと思えばまた、空を見始める。
「ねぇ?少しだけ貴方に問うてもいいかしら?」
先ほど無邪気に遊んでいた少女らしからぬ気品の良い言葉使い。シルクハットの男はなにも反応することなくただ、黙って少女の言葉に耳を傾けているようだ。
「・・・」
「あのね?どうして、私たちのお兄・・・先生を殺してしまったの?アレだけ優しく接してくれてて、お菓子やお紅茶までご馳走してくれていたあの優しいお兄・・・先生をどうして貴方が殺してしまったの?私たちの命も先生のお陰・・・一番懐いていた貴方が・・・ナゼ?」
少女の言葉こそ日常では出てこないであろう単語が多々出てきているのだけど表情は至って穏やかであり慈愛に満ちている。これから起こるであろう出来事全てを受け入れるような笑み。その笑みが不気味に感じたのか、ただ純粋に少女の話しを聞いているのか身動きせずその場で立っている。少女はクスリと手を口元で隠すと先ほどとは違い不敵な笑みをこぼす。先ほどまでの少女の雰囲気とは一転し禍々しいモノへと変わる。
「ねぇ?どうして答えてくれないんでしょうか?ただ、私は貴方に簡単な質問をしているだけ。それを答えてくれたからと言って、今は、なにもする事はありません。さぁ、教えてください。どうして・・・せんせ・・・お兄ちゃんを殺したの?ねぇ?教えてよ。昔馴染みでしょ?」
少女は凛とした姿で男へと一歩、一歩近づいて行く。徐々に近づいてくる質問者に男はジリリ、と後退していく。が、いつの間にか男の後ろには黒いスーツを着用した大柄の男性が二人。シルクハットの男の身動きが取れないようにガッチリと両手を掴み身動きがとれずにいた。マフラーで表情は読みとれなかったが頭を左右に動かし必死に少女から逃れようともがいているように見える。が、その行動が面白かったのか少女は愉快そうに頬笑みを向けながら近づいてくる。
「彼らたちは私の駒。素敵でしょ?絶対服従の人間って?」
「・・・!?」
もがく男であったが男の数倍は大きい男二人組に掴まれているのだから抵抗もできるはずがなかった。抵抗しようとするたびにより腕に圧がかかり身動きが取れなく手の感覚も無くなってきてしまう。
「彼らたちは普通の人間じゃあないから気をつけてね?人造人間だから?人造って言っても薬漬けにされてしまった人だけど」
そう言い終わった頃に少女は男の目の前まで近付いてきていた。胸辺りまで伸びていたマフラーに手をかけようとした瞬間、何かを察したのかピタリ。と、マフラーから手を離す。
「フェイクってこと・・・ふふふ。流石ね。ここまで来なければ分からなかったわ。貴方も可哀想ね・・・もういいわ。離してあげて」
そう言うと二人組の男はシルクハットの男を離すとどこかへと歩き去っていく。捕まっていた男が座る地面にはジワリと赤い雪が広がっていた。よく見ると曲がるはずのない腕の形になっておりもがき苦しんでいるようだった。
「声帯が抜かれてるんじゃあ言葉は話せないわよね。それにしても酷い事をするものね。本当に昔から弱い者いじめだけは得意だものね・・・」
ため息混じりに言葉を口にすると少女はどこへ行くでもなくその場でまた、先ほどと同じように両手を広げ空から落ちてくる雪を受け止め始める。




