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最下位を装う元剣聖、学園1位の理事長令嬢が公然と俺にだけ甘すぎて困ってます  作者: あざね
オープニング

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2/7

1.目立ちたくない才人、甘えたい梨花。







「はぁ……これで、逃げ切れたか……?」



 俺は全速力で校内を駆けて、この時間帯は人のいない中庭にやってきた。

 そこに設置されている木製のベンチに腰かけて、大きく肩を落としながらうな垂れる。入学していままで、のらりくらりと関与しないようにしてきたが、まさかあのような場所で抱きつかれるとは思ってもみなかった。

 才色兼備。誰もが認める絶世の美少女であり、凛とした佇まいで何者にも媚びることのない高嶺の花。そんな学園1位の理事長令嬢から、公然と甘えられる。

 そんな状況は、周囲の視線を一身に集めてしまうのは間違いなかった。



「そんなの、俺は絶対にイヤだ……!」



 そのようなこと、俺は望んでいない。求めていない。

 我妻梨花は最下位付近を漂っている自分などが、かかわるべき相手ではない。まず大前提として、この学園で『誰にも邪魔されず平穏無事』に暮らしたい俺にとって、あの幼馴染みは真逆の存在だった。

 もちろん、彼女を嫌っているわけではない。

 嫌っているわけではないが、ここではやめてほしいのだ。



「まったく、学園外ならまだしも――」

「え!? 学校から帰ったら、甘えても良いの!?」

「…………そうは言ってねぇよ」



 そんな俺が思わず口にすると、完全に気配を遮断していたらしい幼馴染みが、後方からひょっこりと顔を覗かせる。おそらく得意の魔法か何かだろうが、そのおかげでいったん二人きりになれた。

 こうでもなければ、学園内で梨花に注目が集まらないわけがない。

 俺は一つため息をついてから、幼馴染みに言った。



「あのな、梨花。他の学生がいる場所では、抱きつくなって言ってるだろ?」

「えー……だって、才人くんに一番に褒めてほしかったんだもん」

「だからって、あんなやり方あるか……?」



 すると悪びれる様子もなく、彼女は頬を膨らして唇を尖らせる。

 まるで駄々っ子だ。普段の学園での態度からは考えられないのだが、旧知の仲である自分にとってはいつも通りの光景。

 でもいまは、そんなことどうでも良かった。

 なので俺は改めて、梨花に自分の考えを伝える。



「いいか、俺は目立ちたくないんだ」

「前から言ってるよね、才人くん。……本気になれば、絶対に成績トップなのに」



 すると幼馴染みはそう答えながら、俺のことを後ろから抱きしめた。

 いい加減、ツッコむのも面倒なので流すことにする。



「あのなー……言っておくけど、俺には魔法の才能はないぞ? それは入学試験の時に、一緒に潜在魔力を測定したお前もよく知ってるだろ」

「うん。だけど、私だけは知ってるもん」

「話が通じないな……」



 その上で右側からひょっこり顔を覗かせた梨花に、呆れつつ言ったのだが。

 幼馴染みはどうにも、俺のことを過大評価したがるようだった。それを否定するのも今さら無理だと理解しているので、俺は改めて大きくため息をつく。

 そして、ちらりと左手に気弱そうな女子学生がいるのを認めた。

 どうやら俺たちと同じく新入生のようだが、



「道に迷っている感じ、か?」

「ホントだね」



 どうやら時間帯も関係なしに、中庭に迷い込んでしまったらしい。

 俺たちはそれを把握して、自然と互いの身体を離した。



「ほら、行ってこいよ。梨花」

「分かった、行ってくるね!」



 そして、幼馴染みに提案。

 すると彼女は明るく返事をしながら頷き、おどおどとする女子生徒のもとへと向かった。そんな梨花のまとう雰囲気はもう、さっきまでの甘えたものではない。

 俺以外の人たちに対する凛と、涼やかな印象の優等生に戻っていた。




「どうしたのかしら。……道に迷った?」

「あ、あああああ、我妻さん!?」




 そんな圧倒的強者のオーラで声をかけられた女子は、恐縮したように身を縮める。だがしかし、その瞳には隠し切れない憧れが見て取れた。

 俺はそんな二人の様子を確認してから、ゆっくりと立ち上がる。

 彼女たちに背を向け、反対方向へと向かって歩き出した。



「……まったく、梨花は凄いよな」




 ほんの少しだけ。

 才気溢れ、人望の厚い幼馴染みを誇るように呟きながら。





 ――才人と別れ、梨花は女子と共に歩く。



「ほ、本当にありがとうございます! 我妻さん!!」

「いいえ。同じ学園の仲間ですから、助け合うのは当然のことですよ」



 すると女子はそのように言って笑い、謙遜するように梨花は微笑んだ。

 しかし同級生の少女は、首を大きく左右に振って熱弁する。



「いえ、当然じゃないです! 我妻さんは、全生徒の憧れなんです!!」



 その言葉に嘘はないだろう。

 真っすぐな黒い瞳に、迷いは一切なかった。だが、



「憧れ、か……」



 梨花はその言葉に、少しだけ考える。

 そして、こう漏らすのだった。



「本当に凄いのは才人くん、なのにな……?」



 思い出すのは、幼い頃の記憶。

 才人と彼女しか知らない、彼の規格外を示す誘拐未遂事件。






 魔法によって塗り替えられた世界の構造。

 それを――幼い才人は、迷いなく斬ったのだ。




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