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充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~  作者: 中畑道
第五章 アトルの街編

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第十五話 妹よ、俺は今カミリッカさんと交渉しています。

 

「トキオさーん、こっちでーす」


 教会の敷地に着くと、シスターパトリが満面の笑みで手を振っていた。えらく機嫌がいい。アトルの街を満喫してもらえているようでなによりだ。


「ここです。さあ、ドーンとやっちゃってください」


 機嫌よすぎない?まるで酔っ払いだ。デラクール神父とシスターニモが若干引いているのにも気付いていない。まさか、本当に酔っぱらっていませんよね・・・


「シスター。いい加減にしないとマザーに言いつけるよ!」


「うっ、ミルちゃん、どうしたの?今マザーは関係ないでしょ」


 うわー、普段はちゃん付けなんてしないのに。引くわー・・・


「関係なくない!シスターはマザーの名代でリッカ教に来ているんでしょ。ちゃんとしなきゃダメだよ!」


「・・・はい」


 九歳児にマジで叱られている大人。うん、反面教師にしよう。




 移築作業へ入る前に少し眠たそうにしていたミルを部屋で休ませる。作業を見たがっていたが睡魔には勝てなかったようだ。


「ここでよろしいですか?」


「はい。お願いいたします」


 では、早速。まずは結界で騒音が漏れないようにしてから、土属性魔法で地盤を緩くして店舗を設置。


 ズドーン!


「・・・・・・・・・」

「ほえぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 お口あんぐりのデラクール神父と「ほえー」のシスターニモ。あなた達、教会へ戻る前にもう十分驚いたでしょ。いい加減慣れましょうね。


 店内に入って固定魔法を解除しながら下水を教会と繋げていく。移転も二度目だから、ちょちょいのチョイですよ。あれ、これって商売になるんじゃない。異世界お気軽引っ越し屋さん。うーん・・・多くの人の仕事を奪ってしまいそうなのでやめておこう。


「これで、明日からでも店を開けられますよ」


「は、はい。ありがとうございます」


 まあ、そうもいかないか。メニューも決まっていないし、デラクール神父とシスターニモの本職は教会の運営だから店員さんも必要だ。


「昨日、食堂のことをハルトマン男爵家にも話しておきましたので、オープン前に報告がてら挨拶にでも行ってください。ハルトマン男爵とタイラー殿も喜んでおられましたので、何かと相談に乗ってくれるでしょう」


「何から何まで、トキオ様のお手を煩わせてしまい申し訳ございません」


「やめてくださいよ。俺がしたくてやっていることです。カミリッカさんの教会が多くの人の救いになるのは、俺の希望でもありますから。俺に出来ることがあれば遠慮せず何でも言ってください」


「そ、それでは、一つだけお願いしてもよろしいでしょうか?」


「どうぞ、どうぞ。何でも言ってください」


「食堂の屋号をつけていただけないでしょうか」


「えっ、俺が!?」


「愛の女神カミリッカ様の高弟であらせられるトキオ様に命名していただきたいのです。何卒、宜しくお願い致します」


 マジかー・・・なんでこの世界の人達は俺に名前をつけさせたがるんだよ。あと、高弟って・・・弟子は俺一人だから高いも低いもありませんよ。


『うむ、流石はカミリッカ様に選ばれた神父。トキオ様が名付けの名人だと見抜くとは・・』


 うるさいよ!


 しかし、屋号か・・・今後何百年と続く可能性もあるから、いい加減な屋号は付けられないぞ・・・でも、カミリッカさんの得意料理は家庭的なものが多いから、あんまりゴージャスな屋号も違う気がするし・・・


「立花亭というのはどうでしょう?」


「立花亭ですか・・・差し支えなければ、どの様な意味があるのか教えていただけますか?」


「立花とは、カミリッカさんが人間だった頃に使っていたファミリーネームです。最後に亭とつけたのは、この文字が人の集まる場所という意味と、神の意志にかなってという意味を持っているからです。カミリッカさんの家庭的な味が、身分や種族に関わらず多くの人の助けになればと思いまして・・・」


 あんまり反応が良くない。デラクール神父とシスターニモがプルプル震えている。やっちまったか・・・


「立花亭・・・なんと愛に溢れた名だ・・・これ以上の屋号がある筈がない。なあ、ニモ!」


「はい、神父。感動で震えが止まりません!」


 感動?嘘だろ。トロンの盾の時もそうだったが、この世界の名前に対する感覚はわからん・・・立花さんが飲食店を開くとしたら、絶対候補に挙がる屋号だと思うんだけど・・・


「そうだ。屋号が決まったのなら、これが必要ですね」


 マジックボックスから木の板と塗料を出しって。


「創造」


 はい、出来上がり。立花亭の屋号の横には赤い風船を持つ少女。勿論モデルは子供の頃のカミリッカさんだ。


「看板ですね!この少女が持っているのは最近王都で普及しはじめている玩具・・・たしか、風船でしたか?」


 この世界にも風船があるのか。ヘリウムガスが使われているとは思えないのだが、中には何が入っているんだろう?


「赤い風船を持った少女の看板がある店に行けばご飯が食べられると知ってもらう為に、目印はあった方がいいですからね」


「なるほど。文字が読めない子供達には赤い風船を持った少女の食堂と覚えてもらえばいい、という訳ですね」


「そうです」


 看板を設置して店舗の移築は終了。最後にマザーループとシスターパトリに渡した物と同じマジックバッグをデラクール神父とシスターニモに渡す。


「このマジックバッグには教会の講堂くらいまでの荷物が入り、劣化もしません。食材を大量購入する時や、値段が下がった時に上手く使ってください。あと、盗難防止のために追跡と登録機能があります。愛の女神カミリッカ様の女神像の前で合言葉を言って魔力を流すと登録できます。早速、お二方を使用者に登録しましょう」


 さすがに何度も渡していれば、この世界で俺の作ったマジックバッグが超高性能だということはわかった。案の定、性能を聞いたデラクール神父とシスターニモは受け取りを辞退しようとするが、無理矢理にでも受け取ってもらわなくては困る。押し問答をしているとシスターパトリが助け舟を出してくれた。


「デラクール神父、セラ教会でもトキオさんにマジックバッグを頂きました。食堂を続け多くの人々を救うために役立つそのマジックバッグを、教会の宝とし後世に引き継ぐことがお二人の使命です。私は受け取るべきだと思います」


「シスターパトリ・・・わかりました」


 なんとか受け取ってもらえることになったので愛の女神カミリッカ様の女神像前に移動。このチャンスを待っていた。カミリッカさん、今度こそ「誓約」を解除していただきますよ。


「合言葉は、「夕食はすき焼きで許します」です」


「「夕食はすき焼きで許します」という合言葉にはどのような意味が?」


「それはですね・・・」


 そこで一旦会話をやめ、愛の女神カミリッカ様の女神像へ祈りを捧げる。


 ──カミリッカさん、俺は愛の女神よりエロの女神の方がカミリッカさんには合っていると思うんですが、いかがでしょうか。これから合言葉の意味を説明がてら、修行中にカミリッカさんがしていた数々のエロ発言やセクハラ行為をデラクール神父にお話ししてみようかと考えています。リッカ教は始まったばかりですから、今なら愛の女神ではなくエロの女神カミリッカ様に変更も可能だと思いますよ。弟子である俺の強い希望だと言えば、デラクール神父も聞かない訳にはいかないんじゃないかと・・


「ト、トキオ様、祈りを捧げている最中に申し訳ございません。突如神託が!」


「ほお、なんと?」


「トキオ様に、こう伝えろと」


「聞きましょう」


「はい、ただ一言「解除した」と」


 勝った。


 もう以前の、カミリッカさんに揶揄われて赤くなっていた俺ではありませんよ。「不動心」10、「交渉」7、魔獣の大森林を出てからも俺は成長しているのです。フフフッ・・・


「トキオ様・・・どうされたのですか?」


 いかん、いかん。つい、悪い顔で笑ってしまった。


「何でもありません。意味があるとバレてしまうので、合言葉に特別な意味はありませんよ。さあ、登録をしましょう」


 追跡機能用の地図を渡し使い方を説明して、教会で俺がすべきことは終わった。あとはデラクール神父とシスターニモに頑張ってもらう他ない。


「愛の女神カミリッカ様とトキオ様の期待にお応えできるよう、ニモと力を合わせ頑張っていきます。一人でも多くの子供達を未来へ繋げられるよう、神父としても、料理人としても、精進いたします。トキオ様、本当にありがとうございました」


「カミリッカさんに選ばれたお二方なら、きっとやり遂げられます。俺で力になれることがあれば遠慮せずトロンの教会まで手紙を送ってください。何もなくても状況を手紙で知らせてもらえれば嬉しいです。カミリッカさんは俺の師匠ですから」


「はい。次にアトルへお越しになる際には、トキオ様に及第点を頂ける料理をお出しできるよう腕を磨いておきます」


「それは楽しみです。弟子が武闘大会に出場しますので、それまではアトルに居ます。何かあれば言ってください。帰る前にまた顔を出しますね。それまでシスターパトリをお願いします」


「はい、お任せください」


 うん、シスターパトリの名が出たところで若干の苦笑いは見なかったことにしよう。


「トキオさん。武闘大会に出るのはマーカスさんですか?」


「いいえ、オスカーですよ」


「私も応援に行きます!」


「それでは、明後日の朝迎えに来ます」


「はい」



 眠ってしまったミルを背負い教会を出る。武闘大会も近いせいか観光客も多く、トロンの夜に比べ街は賑わっている。


「うーん・・・トキオ先生・・・」


 起きちゃった。また、何で起こしてくれなかったのって怒っちゃうかな?


「宿まで俺の背で寝ていていいよ」


「・・・うん」


 あれ、今回は怒られなかった。目は覚めたみたいだが、俺の背でモジモジしている。前はあんなに怒っていたのに、何が違うんだろう?


 妹よ、子供は不思議です。まあ、そこも可愛いのだけど。


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