第十四話 妹よ、俺は今手裏剣で遊んでいます。
すみません。16:00に間に合いませんでした。
疲れてベッドで寝てしまったミルの吐息を聞きながら、買ってきた十字手裏剣を調整中。店主曰く高性能品とのこと。確かに先端は鋭利だが、武器として使うにはバランスが良くない。投擲武器として重要なのは重心を中央に持っていくこと。画鋲代わりに使うのなら関係ないだろうが、狙ったところに投げるには全ての重心を同じ場所にもっていかないと、毎回投げ方を変えなければいけなくなる。それでは武器として使えない。
「こんなところか・・・」
調整だけなら「創造」で大した魔力も使わない。買ってきた三十個の重心を中央に揃えたところで試し投げだ。マジックボックスから的になる木の板を出し、中央に赤い印をつけ壁に立てかける。
シュッ!
的には命中したが少し真ん中からズレた。以外と難しい。
シュッ!
今度はほぼ中央。でも、ほぼでは駄目だ。忍者は百発百中でなければならない。
的から手裏剣を回収しようとすると、先にコタローが器用に口に咥えて戻ってきた。もっとやってほしいのか、目がキラキラしている。
シュッ!
『お見事!』
三投目にしてようやくど真ん中に命中。感覚が掴めれば、あとは反復練習あるのみ。的を三つに増やし連続で投げてみる。
シュッ!シュッ!シュッ!
『お見事!流石はトキオ様、もう習得されましたか』
全て赤い印に命中。しかし、違和感がある。いくら俺の基本ステータスが高いからといっても、始めて投げた十字手裏剣をこうも簡単にコントロールできるものだろうか。「上位鑑定」でステータスを確認すると、案の定スキル欄に「投擲」が追加されていた。
『いや、おかしいだろ!まだ、たったの五回しか投げていないぞ!』
『持って生まれた才能ではないでしょうか?』
才能?前世でも球技は苦手ではなかったが、体育の授業で経験した程度で本格的にはやったことが無い。こんなことなら野球部にでも入っておけばよかった。甲子園で大活躍できたかもしれないのに、惜しいことをしたな・・・って、ない、ない。剛速球を投げられる才能があれば、さすがに気付く。
『それにしても五投、いや、感覚的には三投目からスキルを取得していた気がする。いくら何でも早すぎるだろ』
『タイミングはたまたまでしょう。魔獣の大森林最奥地で修行された蓄積があってのことだと思います』
なるほど、それなら納得だ。修行中は新しい武器や魔法を開発するためにあれこれと試していたからな。一日中石を投げるだけで魔獣と戦ったこともあるし。
『フフフッ、これで忍者に一歩近づいたな』
『私にもやらせてください。このままでは置いていかれてしまいます』
『残念だが、ミルが目を覚ましたみたいだ。また今度な』
『むむ、致し方ありません・・・』
ムニュムニュと目を擦りながら起き上がるミルと目が合う。次の瞬間、「ハッ!」と声をあげたミルがベッドを飛び降りて俺の方に駆け寄ってきた。
「どうして起こしてくれなかったの!」
えぇぇぇ・・・なんで怒っているの?
「疲れていたみたいだったから・・・」
「トキオ先生との時間が無くなっちゃうじゃん!」
嬉しいことを言ってくれる。
「一時間くらいしか寝てないから大丈夫だよ」
「ホント・・・トキオ先生はわたしが寝ている間、何をしていたの?」
「さっきのお店で買った、これの調整」
「シリケン?」
「これの正式名称は十字手裏剣と言って、本来の用途は武器なんだ」
「武器?確かに先っちょは尖がっているけど、それでどうやって敵を倒すの?」
怒っていたことよりも疑問が優先される。好奇心旺盛少女の本領発揮だ。百聞は一見に如かず、早速実演してあげよう。
「こう使うんだ」
シュッ!
的に命中した手裏剣をコタローが回収。文房具だと思っていたシリケンが投擲武器だったことに眠気も吹っ飛んだのか、目を見開くミル。
「こんなこともできるよ」
シュッ!シュッ!シュッ!
三つの的すべてに手裏剣が命中する。凄いな「投擲」スキル。レベル1でも、この程度の距離なら外す気がしない。
コタローから回収した手裏剣を受け取ると、ようやくミルが口を開く。さあ、聞かせてくれ。忍者の代表武器、十字手裏剣の感想を!
「すごい、すごい。コタローって、そんなことも出来るんだ。流石はトキオ先生の従魔!」
そっちかーい!
「トキオ先生。わたしもシリケン投げたい」
「シリケンじゃなくて、十字手裏剣だよ」
買ってきた十字手裏剣はミルの小さな手で持つには大きすぎる。手を怪我してしまうかもしれないし、重すぎて的に届きそうにないので「創造」で一回り小さい手裏剣を作った。ついでに少し小さ目のクナイも。
『トキオ様、私にもクナイを・・』
『わかっているよ、皆まで言うな。今度、コタローとサンセラの分も作ってやるから』
『ありがとうございます』
事忍者に関してコタローは一切ブレないな。物欲をそのままぶつけてくる。俺、一応主だよ・・・べつに、いいけど。
結局、宿に戻ってからは外出せず、ミルと一緒に手裏剣を投げて遊んだ。初めは的にも届かなかったが、そこは賢いミル。正しい持ち方や投げ方を教えると次第に中心の赤い印とまではいかなくても的には刺さるようになった。ミルみたいな子には感覚より物理的に説明した方が伝わりやすい。どうしても中心の赤い印に当てたいのか、色々アドバイスを求められたが俺自身が感覚で投げているため上手く伝えられない。最後には「風を切る感覚で投げるんだ」なんて言ったら微妙な顔をされた。俺も中二病が完全には抜けきっていないようだ。
残念だが、夜にはデラクール神父が経営していた店舗に行かなければならないのでタイムオーバー。夕食の時間だ。
「ミル、そろそろ晩御飯に行こう」
「うん。最後にもう一回投げる」
シュッ!
「えっ!」
『えっ!』
「やったー、赤い印に刺さったー!」
いや、今のは絶対におかしい。さっきまでと全然違う。
「ミル。今度はクナイを投げてみて」
「うん、わかった。えい!」
スッ!
「やったー、こっちも赤い印に刺さったー!」
間違いない「投擲」スキルだ。ミルは手裏剣もクナイも今日初めて認識した。当然練習なんてしていない。今の身体能力であんなに真っ直ぐクナイを投げるのは不可能だ。
「上位鑑定」
名前 ミル(9)
レベル 1
種族 人間
性別 女
称号 勇者の仲間
基本ステータス
体力 9
魔力 55
筋力 9
耐久 9
俊敏 8
器用 12
知能 340
幸運 13
魔法
火 E
水 D
風 D
土 E
スキル
投擲1
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
なんで?なんでなん?何がどうなった?色々おかしくなっているぞ?落ち着け、落ち着くんだトキオ。こんな時は・・・
「ヒィ、ヒィ、フー、ヒィ、ヒィ、フー」
フーッ、落ち着いた。しかし、こういう時「不動心」はホント、役立たずだなぁ。
「どうしたの、トキオ先生?」
「何でもないよ。食堂へ行くからコタローと一緒にお片付けしてくれるかい」
「うん。わかった!」
素直に片づけを始めるミル。
さて、どこからつっこんでやろうか。まずは「勇者の仲間」だよなぁ。まあ、これに関してはノーランにも聞いてみないことには何も判断できない。多分、ノーランも無意識だと思うが、一度話を聞いてからだな。
基本ステータスの上昇と火・土属性の追加は「勇者の仲間」の称号からだろう。しかし、数値がおかしい。アルバやキャロの例からも、才能のある分野が五倍になったと想定されるが、前回「上位鑑定」でミルのステータスを確認した時「知能」は32だった。五倍しても160、他の基本ステータスも少し上がっていることを加味しても170くらいまででないとおかしい。それが340だ。五分の一にすると68。ミルは俺と出会った日から今日までの短い期間で知能を36伸ばしたことになる。魔法を使ってステータスを上げた訳でもないのに、そんなことが可能なのか。いや、ミルを俺の尺度で考えては駄目だ。ミルの知能は別格。この成長速度も、ミルなら可能だと考えた方がいい。
最後に、他の部分が強烈過ぎてどうでもよくなった感はあるが「投擲」スキル。魔獣の大森林で色々な物を投げまくっていた俺と違い、ミルが投げていたのは精々ドッヂボールくらい。すでに校内でのドッヂボールブームは終わっているため、最近はそれすらやっていない。短時間での「投擲」スキル取得はどうやっても説明がつかない。手裏剣が関係するのか?
『コタロー。ミルの「投擲」スキル取得だが、お前はどう考える?』
『才能があった、としか思えません』
『だよなー。手裏剣は関係無いかな?』
『関係ないとは思いますが、トキオ様とミルが立て続けに取得したとなると、少し検証してみたいですね』
『そうだな。「忍者」スキル取得のヒントになるかもしれないし、サンセラにやらせてみるか』
『それがいいかと。サンセラ殿ならその任、喜んで引き受けると思います』
たしかにサンセラなら、喜んで一日中でも手裏剣を投げそうだ。
あとは、「上位鑑定」の結果をミル本人にも伝えるのか、だな。難しいところだ。「投擲」だけなら黙っておいてもよかったのだが、問題は「勇者の仲間」だ。俺はミルなら伝えてもいいと思うが、マザーループの意見も聞きたい。この問題は学校に戻ってからにしよう。
「トキオ先生。お片付け終わったよ」
「ありがとう。じゃあ、ご飯を食べに食堂へ行こう」
「うん」
ミルにとっても、俺にとっても、初めての旅行。今は全力でアトルの街を楽しむことを優先しよう。
♢ ♢ ♢
夕食後、少し早かったがミルを連れてデラクール神父の経営していたお店を訪ねると、デラクール神父とシスターニモが荷造りをしていた。しまった、俺のミスだ。魔法でそのまま運べるから荷造りの必要は無いと説明していなかった。
「申し訳ございません、トキオ様。まだ荷造りが・・」
「こちらこそ申し訳ありません。俺の魔法で室内の物はすべて固定することができるので荷造りは必要ないと伝えていませんでした。俺のミスで余計な仕事をさせてしまったことをお詫びします」
「おやめください。トキオ様が私共に詫びる必要などありません」
俺が頭を下げると、慌ててやめさせようとする二人。そうだった、この人達の前で頭を下げるとこうなるのはわかっているのだが、長い年月で培った性格や習慣はなかなか変えられない。
「さっさと始めましょう。まずは部屋に残っている備品を空間属性の魔法で固定しますね」
売りに出されていたこともあり、テーブルや椅子と調理器具以外の備品は殆ど無く、固定は十分ほどで終わる。シスターニモが動かなくなったテーブルや椅子に触れては、「ほえー」と驚愕する姿が少し面白い。
「結界」
「ブラインド」
皆を店の外に出し、目隠しと防音の結界を張る。一瞬で店が黒い幕で覆われると、またもシスターニモが「ほえー」と声を漏らす。どうやら無意識みたいだ。
土属性魔法で地盤を緩くして準備完了。トロンの街の図書館よりは小さいが、あの時は基礎部分を持ち上げなかったので、念のためコタローの力も借りる。
『いくぞ、コタロー』
『はい』
『『せーの』』
メキメキと音を立て、店舗を地面から引っこ抜く。
「ほえぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
うん。防音の結界を張っておいて正解だった。店を引っこ抜く音よりシスターニモの方がうるさいとは思わなかったけど。
すぐさまマジックボックスに収納して、地面を土属性の魔法で元に戻す。結界と目隠しを解除して、ここでやることは終了。
「それでは、教会に参りましょう」
パチパチと小さな手で拍手するミル。口は「ほえー」の形のまま、ミルにつられて拍手をするシスターニモ。二人はいい。
おい、そこの神父。俺は神でもなければ死んでもいないので、祈るのをやめなさい!




